フグには片眼をウインクするように閉じる種がいるが、そのときに用いる筋肉が、体を膨らませる行動に関わる筋肉から進化した可能性を、山口県下関市にあるしものせき水族館「海響館」などの研究グループが明らかにした。眼を閉じるという同じ行動でも、ヒトなどの陸上脊椎動物とは異なる進化の道筋をたどったと考えられる。

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    ベラの仲間につつかれて眼を閉じるモヨウフグと、筋肉の進化のシナリオ(しものせき水族館「海響館」提供)

眼を閉じる行動は、陸上の脊椎動物ではよくみられるが、魚類では、一部のサメ・エイ類、フグなどでしか知られていない。なお、フグは人間のまばたきのように両目を同時に閉じず、片方ずつ眼を閉じるとみられている。

下関市が全国からフグが集まる最大の流通拠点であることもあり、海響館では、約100種のフグの仲間(フグ目)を飼育している。展示スタッフの荻本啓介さん(形態学・比較解剖学)は、飼育個体を観察する中で、フグの眼の開閉に注目した。荻本さんは2021年、フグ科のコモンフグが眼の周囲の皮フを中心に向かって寄せ集めて眼を閉じる動きをすることを報告した。

また、この行動は眼の周辺を同心円状に取り巻く筋肉(輪状筋)の収縮によって起こることもわかったが、この筋肉がフグの仲間でどのように進化したのか、また、他の種にも存在するのかは分からなかった。

そこで今回の研究では、フグ科だけでなく、ハリセンボン科やマンボウ科などフグ目全ての科を含む魚類 51種の標本を解剖し、眼の周囲の輪状筋と、輪状筋をその一部とし、体全体をシート状に覆う筋肉(皮筋)の有無を調べた。この標本には、水族館で飼育し、死亡した個体も用いた。さらに、得られた結果をフグ目の系統関係と照らし合わせ、これらの筋肉の進化を推定した。

その結果、皮筋はフグ科とハリセンボン科にのみ存在し、輪状筋はフグ科でのみ確認された。

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    解剖の結果、フグ科とハリセンボン科、その他の科では筋肉の状態が異なっていた(しものせき水族館「海響館」提供)

また、これらを系統関係と照らし合わせると、フグ科とハリセンボン科の共通祖先で体を覆う皮筋が進化し、フグ科の祖先で皮筋の一部が眼のまわりで特殊化して輪状筋が進化したと考えられる。ここで、過去の研究では皮筋はフグが水を吸い込んで体を膨らませる際、体をもとに戻す機能があることが知られている。つまり、体を膨らませる行動に関わる筋肉を起源として、眼を閉じるための筋肉が生じた可能性が示された。

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    進化の推定に用いた系統樹一覧。諸説ある系統樹全てで、フグ科とハリセンボン科の進化は同じ祖先を持つとされた(しものせき水族館「海響館」提供)

また、水族館では、フグが眼を閉じる行動は、眼に刺激を受けた際に観察される。今回の研究では、野生のフグが眼を閉じる様子を初めて観察。モヨウフグが小型のベラの仲間に眼を攻撃された際に眼を閉じる様子から、フグも陸上の脊椎動物と同様に、眼を守るために閉じていると考えられる。

これらの結果について、荻本さんは「フグ独特の膨らむ行動に関わる筋肉が、眼を閉じるという行動を獲得するきっかけとなっていたら興味深い。さらに、眼を守るために閉じるという行動は同じでも、ヒトなど陸上の脊椎動物とフグでは起源が異なることが明らかになった」と解説した。このような進化のことを「収斂(しゅうれん)進化」と呼ぶ。

荻本さんは「フグの展示に注力している海響館だからできた研究。飼育している生き物、そして飼育を終えた生き物から、こんなに多くの情報を得ることができた。これからも飼育生物をしっかり観察し、わかったことを皆様と共有していきたい」と話した。

成果は8月12日、米国の科学誌「ジャーナル オブ モーフォロジー」に掲載され、同館が同18日に発表した。

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