企業でAIエージェントの活用が広がる中、Slackは人とAIエージェントが協働する「エージェンティックOS」への進化を進めている。Salesforceとの連携を強化する一方、AnthropicやOpenAIなど外部のAIエージェントも受け入れるオープンな戦略を掲げる。

SlackはAIエージェント時代の仕事の場をどう変えようとしているのか。Slackのエンジニアリング担当バイスプレジデント、Rod Garcia氏に、その狙いや今後の課題を聞いた。

  • Slack エンジニアリング担当バイスプレジデント(プラットフォーム、開発者体験、Salesforceエコシステム担当)Rod Garcia氏

    Slack エンジニアリング担当バイスプレジデント(プラットフォーム、開発者体験、Salesforceエコシステム担当)Rod Garcia氏

Slackの「エージェンティックOS」構想は創業時からの延長線上にある

--2025年のDreamforceでSlackを「エージェンティックOS」と位置付けました。その後も大型の発表が続いていますが、開発の方向性に変化はありましたか--

Garcia氏: 方向性は大きくは変わっていません。

少し経緯をお話ししましょう。Stewart(Slack共同創業者のStewart Butterfield氏、2023年1月にSalesforceを退職)が2015〜2016年に新しいSlackプラットフォームを発表した当時、彼には次のようなビジョンがありました。企業には多くのツールがあり、エンタープライズソフトウェアの断片化は深刻でした。Stewartは、Slackは人々を結びつけ、サイロを取り払う力があると考えていました。Slackがプラットフォームとなり、企業やチームがエンタープライズソフトウェアを2%でもうまく使えるようになれば、それは変革的になる、と述べていました。

当時のビジョンは、AIエージェントの登場によって、さらに重要になっています。現在、市場には数多くのAIエージェントやツールが存在し、ユーザーは異なるソリューションを行き来しなければなりません。エージェンティックOSというビジョンで、お客様がAIとエージェンティック革命を2%でも良く体験できるなら、それは変革的です。

このように、方向性は変わっていません。Stewartら創業者が最初からSlackはこうあるべきだと考えていた価値を解き放つため、(Salesforceの下で)進化を遂げています。

--Dreamforceで発表した「Slackforce」とは、どのようなものですか--

Garcia氏: Slackforceは、Slackbotと、Slackbotが会話の中でSalesforceのデータからダッシュボードやレポートなどの画面を作る新機能「Slackforce Surfaces」を組み合わせたものです。

  • Slackforce Surfacesでは、Salesforceのデータを基に、Slack上でダッシュボードやレポートなどを表示できる(出典:Salesforce)

    Slackforce Surfacesでは、Salesforceのデータを基に、Slack上でダッシュボードやレポートなどを表示できる(出典:Salesforce)

これには少し裏話があります。私は、SlackとSalesforceの統合を担当するチームも見ています。2年前にそのチームの名前を考えたとき、「Slackforce」に決めました。チーム名が製品名になったことを、とても誇りに思っています。

Slackforceという製品名は、世界最高のCRM(=Salesforce)と、世界最高のエージェンティックOS(=Slack)が一緒になることを表しています。機能でいえば、Salesforce Channelsがあり、今回は「Slackforce Surfaces」が加わりました。Salesforceのあらゆるデータ(オブジェクト)を、Slack上で可視化できます。SalesforceからSlackへ、データがシームレスにつながります。

特に力を入れたのは、その連携がシームレスで、かつ安全であることです。認証の連携から、SlackとSalesforceの組織やデータの対応づけまで、土台から作り込みました。お客様はそれを意識する必要がありませんが、安全だと信頼できます。

Salesforceとの連携を強化しながら、外部AIにも開かれたプラットフォームへ

--Salesforceとの連携が進む中、Slackは今後どのような役割を担うのでしょうかか--

Garcia氏: これからも、Salesforceの主要なインターフェースであるLightning Experience(Lex)が最適な場面は数多くあるでしょう。そのうえで、エージェンティック時代に重要になるのは、チーム全員が同じ場で一緒に取り組むマルチプレイヤーなコラボレーションです。

例えば、商談に取り組むアカウントチームを考えてください。これまでは、別のインタフェースに移り、コンテキストをコピー&ペーストしてチームに確認する必要がありました。今は、チームが話し合っているその場に、データにアクセスできるエージェントを呼べます。以前リリースしたSalesforce Channelsと組み合わせれば、チーム全員が適切な権限でデータにアクセスでき、他の場所へ切り替えることなく、エージェントと一緒に作業できます。

体験がシンプルで快適になれば、チームメンバーは顧客のために動くことに集中でき、より高速に進めることができます。協業の障壁を排除します。

個人の生産性を向上させるソフトウェアという新しいユースケースも生まれています。Claude、Claude Cowork、Claude CodeなどをSlackで使うというもので、Dreamforceでは、リアルタイムでダッシュボードやレポートを作成できる「Slackforce Surfaces」も発表しました。

--一方で、Slackは複数のAIベンダーのエージェントを受け入れています。プラットフォームとしての中立性をどう保つのでしょうか?--

Garcia氏: Slackが大切にしているのは、最高のプロダクトを作ることです。常に問いかけているのは「ユースケースは何か」ということ。それを理解して、可能な限り最高のプロダクトを作ります。

Slackはオープンなプラットフォームです。パートナーのソリューションを使いたいのであれば可能です。一方で、急ぎのときや必要なツールがすべて手元にあるなら、Slackbotだけでも仕事ができるでしょう。お客様に新しいツールへ移ってもらうのではなく、普段の仕事の場で使えるようにし、体験をよりシンプルで快適にする。それが私たちの考えです。

開発者、パートナー、管理者、エンドユーザーなどが参画するマルチサイドのマーケットプレイスという点では、それぞれのやりたいことを理解し、その文脈で届けるべき最高のプロダクトは何かを考えています。そこでも、お客様に最高の体験を届けることが最も重要です。この考え方はパートナーにも利益になります。市場投入が早まり、仕事の流れの中でユーザーに出会うことで、より大きな価値を得られるからです。

AI時代もソフトウェア開発はチームで行う - Slack Codeの狙い

--新たに発表した「Slack Code」は、どのような課題を解決するために開発したのでしょうか--

Garcia氏: 私自身開発者であり、選択肢があること、優れた体験、そしてチームと協働しながら仕事に必要なツールを流れの中で使えることを重視しています。コーディングエージェントでソフトウェアエンジニアリングは大きく変わりつつありますが、ソフトウェアをつくる体験は本質的に人との関わりの中で進むものだと信じています。これはAIでも変わりません。

ソフトウェア開発の流れを見ると、機能をつくるときはチームメイトやデザイナーと話し、プルリクエストをレビューしてもらい、出荷したらプロダクトマネージャーと成果について話します。今はClaudeやCodexなどのエージェントと1人で過ごす時間も増えました。でも、プロトタイプを見せる、要件を確認する、本番で障害が起きる、といった場面では、必ずチームとやり取りします。小さなスタートアップでも、事業が育てば契約社員やベンダーと協働するはずです。

Slack Codeは、これまでVS Codeなどの開発環境の中にとどまりがちだった作業を、エージェントとともにSlackに持ち込む機会を提供します。フィードバックのループを短くして、より多くの背景を共有できます。我々は、顧客からバグの報告があれば、Slackでその場にコードチャンネルを開いて、5分でバグが修正されて出荷するといったことを実現しています。チーム全員がそこで一緒に作業できます。

  • Slack Codeでは、Slack上でAIエージェントを活用し、チームでコードの作成やレビューなどを進められる(出典:Salesforce)

    Slack Codeでは、Slack上でAIエージェントを活用し、チームでコードの作成やレビューなどを進められる(出典:Salesforce)

--エージェントが暴走しないようにするためのガードレールなど、安全面での対策について教えてください--

Garcia氏: 信頼は、毎日努力して得続けなければならないものだと考えています。私たちはそれを非常に真剣に受け止めています。

エージェントのセキュリティについては、パートナーと協力して進めています。Slack CodeはAnthropicやCognitionやそのほかのパートナーとローンチしました。プライバシーとセキュリティについては明確な利用規約があり、お客様やパートナーとも契約を結んでいます。データの扱いはローンチしたパートナーごとに異なりますが、今は、お客様が自社のコーディングエージェントをプラットフォームに持ち込めるようにする取り組みも進めています。

APIは、お客様が私たちを信頼できるように設計しており、開発プロセスの中で「安心して使える適切な統制があるか」を確認しています。コンプライアンス認証も数多く取得しており、毎年更新しています。

「機能を減らした方がいい」の声も、Slackが直面する課題

--機能が増えることで、Slackが複雑になり、使いにくくなる懸念はありませんか--

Garcia氏: お客様に今ある機能を理解してもらい、価値を引き出してもらうことは、私たちが常に取り組んできたことです。今後もそれは変わりません。

大きな課題はノイズです。社内では、製品から機能を減らした方がいいという声もあります。実際に、削るのは足すより難しいことです。

Slackの核となる強みは「ソーシャルプルーフ(社会的証明)」です。チームのあるメンバーがSlackの機能を使って作業をすると、他のメンバーが「どうやったの?」と聞く。それが広がっていきます。ユーザーが簡単に機能を発見するにはどうすればいいか、ノイズをより良い体験にするにはどうすればいいかを常に考えています。

--AIエージェントの選択肢が増える中、Slackは今後どのような進化を目指しますか--

Garcia氏: これからの数年は大きな変革の時期になります。すでにその中にいますが、市場ではAIとエージェントによる変化が起きています。私たち業界全体が、仕事の中でエージェントを使うとはどういうことか、製品やサービスをどう改善し続けるかを、あらためて考え直し始めています。

Slackに期待していただけるのは、体験を本当に大切なことに絞り込んでいくこと、そして選択肢が多すぎることから生じるノイズを取り除いていくことです。どのコーディングエージェントやパートナーを選んだとしても、利用する側にとって最終的に大事なのは、ビジネスとチームワークをうまく動かすことです。私たちの役割は、その選択にかかわらず、エージェントや、この先登場する新しい技術を、快適でシームレスに、摩擦を感じずに使えるようにすることです。

私たちは信じられない速さで動いています。チームは皆、自分たちのプロダクトが大好きで、課題も常に変わっています。未来を予測することはできませんが、エージェントという大きな変化にあるお客様を支援するための機能開発を続けていきます。