北極圏をめぐる米中の競争が、資源と安全保障を軸に新たな局面を迎えている。その中でも注目されるのが、グリーンランドに眠るレアアースをはじめとする重要鉱物だ。
米国にとって北極圏は、単なる遠隔地ではない。中国への依存度が高い重要鉱物の調達先を多様化し、経済安全保障を強化するうえで、戦略的な意味を持つ地域になっている。
グリーンランドの資源に注目が集まる理由
レアアースは、電気自動車、電子機器、再生可能エネルギー関連製品などに加え、ミサイルや航空機などの防衛装備にも利用される。問題は、その採掘だけでなく、精製や加工まで含めたサプライチェーンが中国に大きく集中していることだ。中国は世界のレアアース採掘の7割前後を占め、精製ではさらに高い比率を持つ。特に一部の重希土類については、中国への依存度がきわめて高い。
この構造は、米中対立が激しくなった場合の弱点になり得る。レアアースは鉱山から掘り出せばすぐに製品として利用できるわけではなく、分離・精製や磁石などへの加工といった工程が必要だ。中国が輸出管理を強化すれば、米国や同盟国の企業は単純に別の鉱山へ切り替えることが難しい。レアアースはまさに、資源問題であると同時にサプライチェーンの問題なのである。
そこで存在感を高めているのがグリーンランドだ。世界最大級の島であるグリーンランドには、レアアースを含むさまざまな重要鉱物の資源が存在するとされる。なかでも南部のタンブリーズなどの鉱床が注目されている。ただし、資源が存在することと、それを安定的に商業生産できることは別問題だ。厳しい気候、インフラ不足、輸送コスト、環境面や規制上の課題などがあり、現在もグリーンランドでレアアースの商業採掘は行われていない。
グリーンランドの重要性は、単に地下資源の量だけで決まるものではない。北極圏に位置するため、資源開発と港湾、道路、エネルギー、通信などのインフラ整備が一体となって進む必要がある。さらに、採掘した鉱石をどこで精製し、どのようなルートで市場へ運ぶのかという物流面の問題もある。したがって、グリーンランドの資源開発は、鉱山単独のプロジェクトではなく、北極圏における新たな経済圏や供給網の形成という側面も持っている。
それでも米国がグリーンランドに強い関心を示す背景には、資源と安全保障を切り離せないという事情がある。中国が北極圏への関与を強めてきたことも、米国の警戒感を高める要因となっている。中国は自らを「近北極国」と位置付け、北極圏で研究活動や資源・インフラへの関与を進めてきた。北極海航路の開発可能性も含め、北極圏は資源、物流、安全保障が重なる地域になりつつある。
レアアース供給網の転換における課題とは?
もっとも、米国がグリーンランドの資源を確保すれば、直ちに中国への依存を解消できるわけではない。鉱山開発には長い時間が必要であり、採掘した鉱石を米国や欧州の産業で利用できる状態にするには、精製や加工の設備も必要になる。つまり、必要なのは中国以外の鉱山を見つけることだけではなく、採掘から精製、加工、製品化までを中国以外で完結できる供給網を構築することだ。
特に重要なのは、レアアースの供給網を一国への依存から複数国によるネットワークへ転換できるかという点である。米国がグリーンランドで資源を確保しても、精製や磁石製造を別の国に依存すれば、サプライチェーン上の脆弱性は残る。そのため、米国だけでなく、欧州や日本、オーストラリアなどの同盟・パートナー国との間で、資源開発、精製技術、加工能力、備蓄などを組み合わせることが重要になる。
北極圏の米中競争は、軍事基地や航路をめぐる競争だけではない。レアアースや重要鉱物を誰が確保し、誰が加工し、どの国の産業がその供給網を利用できるのかという経済安全保障の競争でもある。グリーンランドの資源開発が本格化するかどうかは、北極圏における米中の主導権だけでなく、世界のレアアース供給網そのものを左右する可能性がある。
ただし、その実現には資源開発だけでなく、インフラ整備、環境への配慮、地域社会との調整、精製・加工能力の構築など、多くの課題を乗り越える必要がある。北極圏の資源競争は、長期的な経済安全保障の構図を左右する問題なのだ。