AIの普及が急速に進むなか、ITフリーランスを取り巻く案件動向や求められるスキルにも変化が生じています。では、実際に案件数は減っているのでしょうか? AI関連案件はどこまで増えているのでしょうか? レバテックでWeb開発領域のキャリアアドバイザーとしてさまざまなエンジニアのキャリアを支援している坂本拓海さんに、ITフリーランス市場の変化と、今後求められるスキルや案件獲得のポイントを解説してもらいました。
はじめに
「AIの普及によりフリーランスの案件は少なくなっていませんか?」「AIに代替されて、案件獲得が難しくなってきていませんか?」エンジニアの方々とお話をする中で、直近はこのようなご質問をいただくことがとても増えました。
急激なAIの進化と普及による影響ははっきりとは見えづらく、仕事のあり方やキャリア選択そのものを変化させるトレンドとなっていると感じています。
日々変化の激しいIT業界では、これまでも少しずつ需要や市場動向は変化し続けてきました。その中でもAIの急速な普及はITフリーランスの市場に確かな変化をもたらしています。しかしながら、それは単純な案件の増減に限った話ではありません。そのため、今後はこれまでの市場との違いを認識し、求められるスキルや需要を理解し戦略的に案件を獲得していく必要性があります。本日は、現在のフリーランス市場がAIの普及を経てどう変化したのか、そこからどう戦略的に生存していくべきかを具体的に解説していきます。
AIの急速な普及により、フリーランスエンジニアの市場はどう変化した?
ITフリーランス案件数の変化
ITフリーランスの案件は本当に減少傾向にあるのでしょうか。レバテックフリーランスの案件発生数に着目すると、現在も右肩上がりで増加し続けており、レバテックの新規フリーランス案件発生数は2025年8月から2026年7月までの1年間で約1.6倍と大きく数字を伸ばしています。
では、なぜ「フリーランスの案件が少なくなっているのではないか?」という不安が生じるのでしょうか。それは、案件総数は増加しているものの、求められるスキルや作業工程が従来とは変化してきているためです。今までと同じようなスタイルでは案件獲得が難しくなってきていることが案件数の減少を感じさせていますが、変化したのは数ではなく案件内容の部分になります。ITフリーランスは、それぞれがこの変化に適合することが求められているのです。
案件内容の変化① AI関連案件の増加
では、案件内容は具体的にどのように変化してきているのでしょうか。
AIを用いた案件は確実に増え続けています。レバテックの発生案件数を見てみても、AI関連の案件数は2026年7月までの直近1年間で2倍以上の増加をみせています。レバテックの全案件に占めるAI関連案件のシェア率も拡大しており、1年前は10%にも満たなかったところ、直近では17.8%ほどで全体の5分の1近くがAI案件となってきています。
開発案件では、今までは言語やフレームワークの使用年数、要件定義などの工程ごとの経験有無などが企業がエンジニアに求めるスキルの主な内容でした。しかし、直近ではここにAIツールの使用経験やAIを用いた開発スタイルの経験が問われることが多くなってきています。具体的にはClaude CodeやCursorなどのAIツールの使用経験や知見、AI駆動開発の経験などがこれに当たります。また、AI案件が急激に伸びた2025年末は「AIの知見・興味がある人」といった要件であったのが、直近では「Claude Codeの実務使用がある方」といった具体的な使用経験が求められるようになってきています。開発現場においてAI活用が前提となりつつあり、実際にその実務経験が必要とされ始めていることが見て取れます。
案件内容の変化② エンジニアリングにおける工程の変化
AI普及に伴い、必要とされる開発工程の需要にも変化が生じています。具体的には、コンサルティングや要件定義、アーキテクチャ設計といった戦略部分を担う工程のスキルや、チーム・組織のマネジメントスキルを求められる案件の増加率が高くなっています。通常の実装開発のみを求められる案件の増加率はここ1年で約1.2倍から1.3倍程度にとどまっていますが、コンサルティングなどの案件では約2倍になっています。
AIの普及により、今までボトルネックとなっていた実装工程のスピードが上昇していると考えられます。そして「作る」という作業が高速化された結果として、ボトルネックがより戦略的部分へ移り始めています。課題に合わせて「何をどのように作るのか」「作ったものをどのように定着させるのか」といった、コンサルティングに近い能力が求められるようになってきています。またAI前提の開発のスタイルが浸透し、ただ作るだけでなくシステムの品質を担保できるような全体理解と課題を要件に落とし込むスキルが求められるようになってきています。結果として、開発スキルを単独で求める案件よりも、戦略に近い工程のスキルも併せて求められる案件が増加しています。
AI時代にフリーランスとして生き残っていくためには
市場動向を踏まえ、現在いち早く案件を獲得しているエンジニアが実践している2つの戦略を解説します。
戦略① 情報収集とトレンドのキャッチアップ
まずは市場動向をいち早く察知し、最新技術をキャッチアップすることが大切です。AIを積極的に実務で経験できるような現場に参画していくことや、AIツールの自己学習を深めていくことが求められます。
現在の市場でどのような技術がより好まれて選定されるのかを知り、その技術をいちはやくキャッチアップしていきましょう。
表面的な理解での実装スキルではAIに代替されてしまう可能性が高いため、AIのアウトプットの良し悪しを判断できる、システムへの深い理解が求められ始めています。実際に、商談の現場でも、技術への深い理解を問う質問が増えています。
戦略② 思考力の醸成
また、エンジニアリングのボトルネックが実装からより戦略部分へシフトしていることを踏まえると、今後は要件定義や品質保証、アーキテクチャ設計などのスキルを磨いていく必要性があると言えます。
現場にて主体的に課題発見し改善提案していき、より責任が伴う工程の作業を求められるようなエンジニアを目指すことが重要です。そして、機会があれば臆さずに積極的にチャレンジしていきましょう。
また、戦略部分の需要拡大に伴い、顧客のニーズをしっかりと汲み取り、提案を行っていくコミュニケーションスキルもより求められるようになりました。AIに代替されにくい、ステークホルダーとの対人コミュニケーションのスキルは大きな武器になるでしょう。
商談の場においても、顧客と円滑にコミュニケーションを取れそうかという観点は今まで以上に比重が高まっていくと考えられます。
限られた期間や業務範囲で参画するITフリーランスだからこそ、参画先の関係者やその先の顧客への理解を深めることは大きな差別化のポイントになると言えるでしょう。依頼された範囲に留まることなく、自身で思考を重ね、コミュニケーションを通じて潜在的な課題に対してもアプローチを行うことが、案件先での業務範囲の拡大やスキルアップに直接つながります。
まとめ
生成AIの普及により、ITフリーランスの働き方や市場環境は大きな変革期を迎えています。特に、ITコンサルタントやPM・PMOなど、事業課題の整理からプロジェクト全体の設計・推進まで担う上流人材への需要が高まっています。
AIによって実装や定型的な業務の効率化が進むほど、「何をつくるか」「なぜつくるのか」を定義し、AIを含むさまざまなリソースを組み合わせて成果につなげる力の重要性は増していくでしょう。今後は、単にAIを使いこなせるかどうかだけではなく、AIを前提に事業や組織の課題を捉え直し、意思決定を支えながらプロジェクトを前に進められる人材の価値が一層高まると考えています。
AI時代においてITフリーランスが活躍し続けるためには、単に技術を使うだけでなく、AIの特性を理解して業務を最適化する力や、人間ならではの付加価値を提供していく姿勢が求められるといえるのではないでしょうか。
