照明は、部屋を明るくしたり、空間を演出したりするもの。そんな“光”を、自分でプログラミングし、色や動きで感情まで表現できるとしたらどうだろう。パナソニック エレクトリックワークス(パナソニックEW)が開発した「ILLUMME(イリューム)」は、誰でも光を創って楽しめるIoT照明だ。まずは教育現場から展開するというILLUMMEを、実際に体験してきた。

  • パナソニックEWのIoT照明「ILLUMME」は、PCと接続して“光"をプログラミングできる

    パナソニックEWのIoT照明「ILLUMME」は、PCと接続して“光"をプログラミングできる

「光を創る」IoT照明、ILLUMMEとは

パナソニックEWが2026年9月に発売するILLUMMEは、直径55ミリメートルほどの球体に20個のRGB LEDを搭載し、360度に光を放つIoT照明だ。

特徴は、光り方を自分でプログラミングできること。Scratchをベースにしたブロックプログラミングに対応し、色だけでなく、光が変化する速度やパターンなども設定できる。コードを一から書く必要はなく、画面上のブロックを組み合わせていくことで光を作れる。

  • ILLUMMEは直径55ミリメートルほどの球形

    ILLUMMEは直径55ミリメートルほどの球形

  • Scratchをベースとしたプログラミング。ILLUMME用の命令ブロックを使って動作を決める。変数、FOR、IF~ELSEといった制御も可能

    Scratchをベースとしたプログラミング。ILLUMME用の命令ブロックを使って動作を決める。変数、FOR、IF~ELSEといった制御も可能

パナソニックEWが掲げるのは「自分の想いや世界観を光で表現して楽しむ」ことが当たり前になる世界だ。

これまで、ライトアップやプロジェクションマッピング、舞台照明など、光を自在に操るのはプロの領域だった。一方、ILLUMMEでは制御UIを扱いやすくし、手のひらに載るサイズまで小型化することで、子どもを含めて誰もが光を創作する側に回れるようにした。パナソニックEWはこれを「制御UIの民主化」「場所・機会の民主化」と表現する。

パナソニックEW ソリューション開発本部 ライティング開発センターの植田真矢氏は「これまで光はプロが作り、一般の人はそれを鑑賞する側でした。そこで制御UIや、光を創る場所・機会をもっと身近にすることで、誰でも簡単に光を作って楽しめるものができないかと考え、ILLUMMEを開発しました」と説明する。

  • パナソニックEW ソリューション開発本部 ライティング開発センターの植田真矢氏

    パナソニックEW ソリューション開発本部 ライティング開発センターの植田真矢氏

  • ILLUMMEを通じて、“光”を扱うこと、楽しむことを身近にする狙い

    ILLUMMEを通じて、“光”を扱うこと、楽しむことを身近にする狙い

  • ILLUMMEは「アート」を出発点にしたデバイス

    ILLUMMEは「アート」を出発点にしたデバイス

ブロックを並べると、光が「炎」に

説明会では実際にILLUMMEを操作する機会もあった。

体験したのは、ILLUMMEを炎のように光らせるプログラムだ。パソコンの画面には、色や光り方などを指定するブロックが並ぶ。用意されたサンプルを見ながら必要なブロックをドラッグ&ドロップでつなぎ、実行すると、目の前のILLUMMEが赤く、炎のように揺らめきながら光り始めた。

色を赤から青に変えれば、今度は青い炎になる。グラデーションやきらめきなどのパターンも用意されており、ブロックの数値を変えることで光の動きも変化する。

操作そのものは確かに難しくない。ただ、ILLUMMEの面白さはプログラミングの簡単さだけではなさそうだ。

例えば、子どもたちに「ワクワクを光で表現してください」という課題を出す。すると、「ワクワクとは何だろう」「何色ならワクワクして見えるだろう」と考え、それぞれが色や動きを決めていく。

プログラムを完成させることに正解があるのではなく、自分が考えたものを光に置き換えること自体が目的になるわけだ。

「普段は意欲の低い学生が、むちゃくちゃのめり込んだ」

ILLUMMEが最初の市場として狙うのも、こうした体験を生かせる教育現場だ。

背景にあるのは、STEMからSTEAMへの教育の広がりだ。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)に、Art(芸術・リベラルアーツ)を加え、技術だけでなく創造性も育てようという考え方だ。

ILLUMMEを使った授業にパナソニックEWとともに取り組んできた米子工業高等専門学校の田中博美教授は、高専が従来得意としてきた研究型や課題解決型に対して「正解のない」アート型の教育には方法論が少なかったと話す。

  • 米子工業高等専門学校 総合工学科(電気電子部門)の田中博美教授

    米子工業高等専門学校 総合工学科(電気電子部門)の田中博美教授

  • これまでの「STEM」教育から、Art(芸術・リベラルアーツ)を加えた「STEAM」教育へと移りつつある

    これまでの「STEM」教育から、Art(芸術・リベラルアーツ)を加えた「STEAM」教育へと移りつつある

そこで、光とプログラミングを組み合わせた。

「これまでのプログラミングの授業と違って、感性を基軸にアイデアを出せるので、誰でも自由に発言できる授業になりました。普段の学習では意欲の低い学生たちが、むちゃくちゃのめり込んで授業を受けてくれたんです。これはすごく驚きました」(田中教授)

使い道もプログラミングの授業だけではない。美術と情報を組み合わせて作品を作ったり、地域の文化を光で表現したり、物語や俳句に描かれた心情を色や光の動きに置き換えたりする授業も行われている。

これまでにILLUMMEを体験した人は延べ2,000人、学校は30校以上。大阪・関西万博では子ども向けワークショップにも使われた。

  • 教育現場でILLUMMEを使った成果物。例えば「アート作品(美術×情報、数学)」だと、1/fゆらぎをプログラミングして、ILLUMMEでさまざまな発光を行う

    教育現場でILLUMMEを使った成果物。例えば「アート作品(美術×情報、数学)」だと、1/fゆらぎをプログラミングして、ILLUMMEでさまざまな発光を行う

  • 田中教授が実際に授業でILLUMMEを使ってみたところ、「学生たちが積極的になり、とても楽しそうに取り組んでいた」と、ご自身の驚きをもって熱く語ってくれた

    田中教授が実際に授業でILLUMMEを使ってみたところ、「学生たちが積極的になり、とても楽しそうに取り組んでいた」と、ご自身の驚きをもって熱く語ってくれた

なぜ照明を扱うメーカーが「教育」から始めるのか

興味深いのは、パナソニックEWがILLUMMEを単なるプログラミング教材とは考えていないこと。

ILLUMMEの開発は2020年ごろに始まり、当初は教育向けではなく、プロが使う照明として検討していた。しかし、開発過程で田中教授と出会ったことをきっかけに、教育現場での可能性が見えてきたという。

現在もカラー照明は数多く販売されているが「どう使えばいいのか」「どんな価値があるのか」が消費者に十分伝わっておらず、生活の中でシーンに合わせて光を変える文化はまだ定着していないとする。

そこで、まず学校で子どもたちに光を自分で創る経験をしてもらう。そこで光の面白さを知った世代が家庭や学校以外の場所でもカラー照明を楽しみ、やがて「光を自分で選ぶ」文化が広がっていく――。教育は、その入口というわけだ。

  • 教育現場を入口として、ゆくゆくは「光で暮らしが豊かになる未来」を目指していく

    教育現場を入口として、ゆくゆくは「光で暮らしが豊かになる未来」を目指していく

ILLUMMEは2026年9月から、理科教材などを扱うケニスを通じて販売する。対象は小中高校や高専、プログラミング塾などで、一般消費者向けの販売予定はない。価格は1台あたり5万円弱を想定しており、まず500台、その先に1,500台という販売目標を設定している。

「まずは教育から入っていますが、最終的に目指しているのは、光で暮らしが豊かになる未来です。ILLUMMEを使いながら、カラー照明が暮らしの中で当たり前になる世界へどうつなげていくかを考えていきたい。教材というより、我々は照明を作っているメーカーなので、プログラミングで操作できるIoT照明として広めていきたい」(植田氏)

プログラミングを学ぶために光を使う。その一方で、光を自分で創る面白さを知るためにプログラミングを使う。ILLUMMEを教育現場から広げる試みは、将来の人材育成だけでなく、照明と人との付き合い方を広げる一歩でもある。