はじめに

アナログ・デバイセズ(Analog Devices:ADI)では、スイッチド・キャパシタ・コンバータ(SCC)を構成するためのコントローラICを提供しています。また、複数のμModule製品でSCCの技術を採用しています。SCCでは、入力から出力への全エネルギーが、インダクタではなくコンデンサの誘電体を介して伝送されます。そのため、インダクタレス・コンバータとも呼ばれています。ただし、このエネルギーの伝送方法によってRMSリップル電流が増加し、コンデンサに悪影響が及ぶ可能性があります。SCCでは、入力コンデンサと出力コンデンサの間で、いわゆるフライング・コンデンサ(CFLY)が定期的にスイッチングされます。そのスイッチング・サイクルごとに、CFLYを介してまとまった量のエネルギーが入力から出力に伝送されます。これらのコンデンサには、RMSリップル電流/RMSリップル電圧のストレスによる大きな影響がおよびます。

MLCC製品を選択する際には、費用対効果、サイズ、高いスイッチング周波数への対応能力といった様々な観点から検討を実施する必要があります。結果として、様々なメーカーのMLCC製品の中から最適なものを探し出して採用することになります。

ADIが提供するSCC用のコントローラIC「LTC7825」を使用すると最大12Aの大電流を供給することが可能です。しかし、このような仕様を目にした電源設計者の中には、次のような懸念を持つ方もいるかもしれません。その懸念とは、RMSリップル電流の増大によって、MLCCの寿命が設計上の弱点になるのではないかというものです。

SCCで使用するコンデンサ

図1に、LTC7825を使用して構成したSCCの代表的な回路例を示しました。主要な構成要素は同ICといくつかのコンデンサです。コンデンサの中では、CIN、COUT、CHIGH、CLOW、CFLYが特に重要な意味を持ちます。

それ以外のコンデンサや部品は電力変換に直接関係するものではありません。それらは、補助的な機能(例えば、デカップリング、タイマーなど)を実現するために使用しています。

  • LTC7825を使用して構成したSCC

    図1. LTC7825を使用して構成したSCC。2:1の変換を実現するための典型的な回路です

SCCで使用するコンデンサの電気的な解析

本稿では、詳細な解説に向けてLTC7825の評価用ボード「DC2993A-A」を活用することにします。このボードを、最大入出力の条件(入力電圧は24V、出力負荷電流は12A)で動作させます。スイッチング周波数は400kHzです。この場合の出力電圧はVIN/2 = 12Vになりますが、クローズド・ループのフィードバック機構を使用して出力をレギュレートするわけではありません。

以下で示す計算の例では、コンデンサを使用する際の周囲温度が60℃であると仮定します。

評価用ボードのドキュメント・ファイルを見ると、主要なコンデンサとして表1に示したものが使用されていることがわかります。表1では、図1におけるCOUTやCHIGHといったコンデンサを「位置」の欄に列挙しています。それらは、実際には単一のコンデンサではなく、表中の「参照」に示した複数個のコンデンサによって構成されます。例えば、CFLYの場合、C41~C56の16個のコンデンサから成るといった具合です。

まず、SCCの回路について定常状態における簡単な解析を行います。スイッチング動作するFETのリップルと電圧降下を無視すると、CINを除くすべてのコンデンサにおいて、その両端のDC電圧はVIN/2 = 12Vであることがわかります。この値を使用することで、各コンデンサに対するDCバイアスの影響を評価できます。

電力に関連するコンデンサ(COUT、CHIGH、CLOW、CFLY)としては、いずれも容量値が10μF、定格電圧が25Vの製品を使用しています。具体的には、村田製作所の「GRM188R61E106MA73D」を採用しています。以下、本稿では、同製品のことを「GRM188」と表記することにします。

村田製作所は、MLCC用のオンライン・ツール「SimSurfing」を提供しています1)。この特性ビューアを使用すれば、検討の対象となる主要なコンデンサについて、図2、図3のような特性を表すグラフを取得できます。

  • 評価用ボード(DC2993A-A)で使用している主要なコンデンサ

    表1. 評価用ボード(DC2993A-A)で使用している主要なコンデンサ

  • GRM188のDCバイアス特性

    図2. GRM188のDCバイアス特性。GRM188は10μF、20%、25V、0603、X5Rの製品です

  • GRM188のESRの周波数特性

    図3. GRM188のESRの周波数特性。GRM188は10μF、20%、25V、0603、X5Rの製品です

図2、図3のグラフでは、動作点を次のように設定しています。すなわち、バイアス電圧は12VDC、コンデンサの温度は50℃、周波数は400kHz、RMSリップル電圧は0.2VACです。

注1:CINについては本稿ではこれ以上検討しません。そのため、ここでは特性を示していません。

注2:0.2VACという値(RMS値)は、10mVACと1VAC(この電力レベルでは、MLCCにおいて発生しにくい値)という2つの値の間の妥協点になる特性パラメータとして選択しました。

図2、図3のグラフを見ると、実効容量(CEFF)は1.562μF、等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)は4mΩとなっています。これらの値は、SCCの回路のシミュレーションに不可欠なものです。本稿で例示するシミュレーションでは、検討の対象となる主要なコンデンサのリップル電圧/リップル電流を推定するためにそれらの値を使用します。具体的には、図4の回路を対象とし、「LTspice」によって取得したシミュレーション結果を示します。

トランジェント解析が安定した出力条件に達した時点で、LTspiceの波形ビューアを使用してプロットを取得します。具体的には、検討の対象とするすべてのコンデンサのリップル電圧/リップル電流をプロットします(図5)。その上で、同ビューアが備える測定ツールを使用し、ピークtoピークの値とRMS値を取得します。表2は、このシミュレーション結果についてまとめたものです。

  • LTC7825を使用して構成したSCCのシミュレーション用回路

    図4. LTC7825を使用して構成したSCCのシミュレーション用回路。主要なコンデンサにはCEFFとESRの値を適用しています

  • 図4の回路を対象としたリップル電圧/リップル電流のシミュレーション結果

    図5. 図4の回路を対象としたリップル電圧/リップル電流のシミュレーション結果

  • SCCで使用するコンデンサに加わる電圧/電流のストレス

    表2. SCCで使用するコンデンサに加わる電圧/電流のストレス

図5に示した波形と表2に示したリップル電圧/リップル電流の値から、最も大きいストレスがかかるコンデンサはCFLYであることがわかります。予想されるRMSリップル電流はコンデンサ1個当たり0.94Aです。他の3つのコンデンサでは、電流/電圧のストレスがほぼ同様の値になっています。CFLYについては、事前の推定値である0.2VAC rmsという値に非常に近いシミュレーション結果が得られている点にも注目してください。

ここで、もう一度Sim-SurfingによってGRM188の特性を確認してみます。図6に示したのは、RMSリップル電流のストレスによって生じる温度上昇の予想結果です。このグラフからは、周波数が400kHzで値が0.94AのRMSリップル電流により、GRM188の温度は2℃上昇することがわかります。

LTspiceによるシミュレーション結果とSim-Surfingで取得した結果から、以下のようなことがわかります。

  • SCCの回路の中で最もストレスを受けるコンデンサはCFLYです。
  • CFLYには、VINの1/2である12VDCに、595mVppのリップルが重畳された電圧ストレスが加わります。
  • CFLYを構成する各コンデンサには、メインの高調波の周波数が400kHzで値が0.94AのRMSリップル電流によるストレスが加わります。それにより、同コンデンサの温度は周囲温度(60℃)よりも2℃高くなります。
  • GRM188におけるRMSリップル電流と温度の関係

    図6. GRM188におけるRMSリップル電流と温度の関係。GRM188は10μF、20%、25V、0603、X5Rの製品です

MLCCの寿命の算出

セラミック・コンデンサの場合、寿命を推定するための計算式にはアイリング・モデルが使われます。それにより、同コンデンサの寿命は、印加電圧と温度という設計上の2つの要因だけに依存することになります2)、3)。ここで言う温度は、システム(周囲)の温度に、RMSリップル電流による温度上昇分を加えた値になります。

それに対し、MLCCの寿命は、高加速寿命試験(HALT:Highly Accelerated Life Testing)によってのみ推定できます。その試験では、過剰に高い電圧と温度を使用し、サンプル・バッチを対象として平均故障時間(MTTF:Mean Time to Failure)を算出します。その結果に基づいて、電圧と温度の加速定数が計算(または経験的に推定)されます。その結果、一般的な電圧/温度の条件下で使用されるコンデンサの寿命を計算することが可能になります。

村田製作所の「セラミックコンデンサのFAQ」3)によると、MLCCの寿命を計算するための簡略化された経験式は以下のようなものになります。

  • 数式

ここで、各変数/定数の意味は以下のとおりです。

  • LA、LN:それぞれ、加速条件および公称条件における寿命
  • n:電圧の加速定数
  • TA、TN:それぞれ、加速条件および公称条件における温度
  • θ:温度の加速定数

電力に関連するコンデンサとしてクラス2のMLCCを選択した場合、電圧の加速定数nの値は3、温度の加速定数θの値は8になります。

CFLYで使用しているGRM188は、村田製作所の「民生機器&産業機器用チップ積層セラミックコンデンサ」というカテゴリに属しています4。そして、この製品には以下に示す加速試験の条件(耐久性試験仕様のセクション16)が適用されます4)

  • 試験温度(TA):最高使用温度±3℃
  • 試験電圧(VA):定格電圧の150%
  • 試験時間(LA):1000±12時間
  • GRM188の定格電圧は25V、最高使用温度は85℃です。

コンデンサの種類や品番が異なる場合、加速試験の条件が異なる可能性があります。そのため、詳細についてはメーカーに確認する必要があります。

ここまでに示した情報により、12V、62℃(60℃ + 2℃)という使用条件における推定寿命を計算するためのすべてのデータが揃ったことになります。実際の計算結果は以下のようになります。

  • 数式

上記のとおり、CFLYで使用しているGRM188の推定寿命は、12V、60℃の条件の下で22万3000時間以上に達します。つまり、25.5年以上の寿命を想定できるということです。

MLCCの寿命に関する考察

寿命を計算するための式(1)からは、次のようなことがわかります。すなわち、MLCCについては、使用条件(電圧と温度)を適切にディレーティングすることが寿命を延ばす上での鍵になるということです。大きなディレーティングを適用するほど、コンデンサの寿命は長くなります。

CFLYに使用しているGRM188は、25Vの定格電圧、85℃の最高使用温度に対応しています。これは、X5Rのクラス2の誘電体材料を使用した製品です。X6S(定格は25V/105℃)やX7R(定格は25V/125℃)など、異なる種類の誘電体材料を使用した製品では、温度についてより大きなディレーティング係数を適用できます。そのため、推定寿命がさらに長くなります。ここで、より定格電圧が高い製品を求めるのではなく、より定格温度が高い製品を探す方が現実的だということに留意してください。長い寿命を達成しなければならない場合、後者のアプローチを強く推奨します。

MLCCの寿命は、使用条件が定格値に近づくにつれて短くなります。例えば、業界で期待される製品の寿命は通常は10年ほどです。これは、約8万7800時間の使用時間に相当します。本稿で使用しているGRM188の寿命は、使用温度が73℃に達すると約10年まで短くなります。この温度は、本稿で取り上げている設計例において非現実的な値ではありません。評価用ボード(DC2993A-A)における温度の測定結果によれば、LTC7825の温度はピーク時に83.1℃に達することが確認されています。それにより、同ICの近くの温度は、周囲温度よりも約10~20℃高くなると考えられます。つまり、同ICの近くに実装されたコンデンサも加熱されるということです。このことから、高温に達する部品から遠い位置にMLCCを配置すれば寿命を延ばせる可能性があるということになります。

SCCの回路を構築する際には、実際の基板上でコンデンサの温度を確認してください。式(2)で実際の温度を使用すれば、より正確に寿命を推定できます。

MLCCは、I2R損失(RはMLCCのESR)によって自己発熱します。本稿で例にとっているGRM188のESRは4mΩです。これは、0603サイズの小型製品としては非常に優れた値だと言えます。

ただ、寿命をさらに延ばしたい場合には、ESRがさらに小さい製品の採用を検討してください。その際には、使用するスイッチング周波数を前提としてESRの値を確認しなければなりません。この点には注意が必要です。また、通常は製品のESRが小さいほどパッケージのサイズが大きくなる傾向があることにも注意してください。

村田製作所のMLCC製品のラインアップを検索すると、22μF、25V、0805、X5Rのコンデンサ「GRM21BR61E226ME44」が見つかります(以下、「GRM21B」と表記します)。GRM21BのESRは400kHzにおいて2mΩです。つまり、0603サイズのGRM188の1/2に抑えられています。図7、図8は、Sim-Surfingによって取得したGRM21Bの特性を表すグラフです。

よりESRの値が小さいコンデンサは、より適切にRMSリップル電流を処理できます。つまり、リップルの条件が同じである場合、温度上昇を低く抑えられます。また、容量値とサイズが大きいほど、DCバイアスによる影響が小さくなり、実効容量CEFFの値が高くなります。そのため、16個のGRM188(0603サイズ)を、約6~8個のGRM21B(0805サイズ)で代替できることになります。

ESRが非常に小さい高品質のコンデンサを選択すると、RMSリップル電流による温度の上昇が軽減されます。そのため、コンデンサの寿命にも直接影響が及びます。ただし、このことは、コンデンサ1個当たりのRMSリップル電流を同等に維持した場合に限って成立します。この点には注意が必要です。

一方、よりパッケージが大きいコンデンサを採用しつつ、コンデンサの数を少なく抑えた場合、1個当たりのRMSリップル電流が多くなるという問題が生じます。本稿の例で言えば、MLCCで生じるI2R損失が約2倍になります(前述の例では、Iが約2倍、Rが約1/2になるため)。電力損失の増加はMLCCの温度上昇という結果につながります。それにより、寿命に悪影響が及びます。

MLCCのメーカーを選択する際には、製品の特性を測定した結果をグラフとして提供しているか否かを1つの判断材料にするとよいでしょう。できれば特定の使用条件、またはそれに近い条件で測定された結果を提供しているメーカーを選択することをお勧めします。

最後に、MLCCの寿命を延ばすための1つの指針を示しておきます。それは、周囲温度に対するMLCCの温度上昇を約5℃未満に抑えるべきだというものです。

  • GRM21BのDCバイアス特性

    図7. GRM21BのDCバイアス特性。GRM21Bは22μF、20%、25V、0805、X5Rの製品です

  • GRM21BのESRの周波数特性

    図8. GRM21BのESRの周波数特性。GRM21Bは22μF、20%、25V、0805、X5Rの製品です

まとめ

本稿で示した例におけるCFLYは、実際には16個のコンデンサを使用して構成します。本稿で示した計算では、各パラメータの値として、16個のコンデンサすべてに対して同じ代表値を適用しました。つまり、その計算では理想的な部品を対象にしていることになります。しかし、現実の各部品には公差が設けられています。また、現実の部品はそれぞれ固有の特性を備えています。加えて、各部品はプリント基板上の特定の位置に配置されます。そして、基板上にはレイアウトなどに依存する寄生素子(抵抗、インダクタ、コンデンサの成分)が存在します。これらの要因により、トータルのRMSリップル電流はCFLYを構成する16個のコンデンサに均等に分散されるのではなく、電流量に差が出ることになります。

実際の部品のばらつきを加味するために、寿命の計算に、経験に基づいた最も厳しい条件の乗算係数を導入することも可能です。一部の業界(または企業)では、社内の設計ガイドラインとしてそうした乗算係数の値を定めています。通常、その係数の値は設計の重要度に応じて1.05~3.0の範囲で設定されます。

例えば、乗算係数としてほぼ中央値に当たる2を設定したと仮定します。本稿の例において、単一のGRM188に対するRMSリップル電流のストレスは、最も厳しい条件で2×0.94A = 約2A rmsとなります。あくまで推定値ですが、このような大きなRMSリップル電流が生じると、図6に示したようにコンデンサ内部の温度は2℃ではなく約7℃上昇します。その結果、推定寿命は約14万5000時間まで短くなります。

また、最大のRMSリップル電流は、基板レイアウトに依存する寄生成分が最も少ないことから、SCC用のICに最も近い部品に流れる傾向があります。結果として、それらの部品の内部における温度上昇が大きくなることに注意してください。RMSリップル電流が生じると、コンデンサの自己発熱が生じます。それだけでなく、SCC用のICが大きな熱源であることから、それに近接する部品の温度はさらに上昇します。

熱的な性能と電気的な性能の最適なトレードオフを実現するためには、基板のレイアウトを慎重に行うことが不可欠です。また、最終的なシステムに実装する前に、プロトタイプの基板を使って、設計した回路の性能を評価する必要があります。

SCCで使用するコンデンサは慎重に選択しなければなりません。表1の備考欄を見ると、「代替は不可」との記載があります。「代替は不可」というのは、そのコンデンサと同等の製品を選択するのは容易ではないということを意味します。このことからも、製品の慎重な選択が重要であることがわかります。使用する各コンデンサに求められる特定の要件を理解し、それらを満たす製品を選択する必要があります。市販されている10μF/25Vのすべてのコンデンサが必要な要件を満たせるわけではありません。このことを十分に理解しておくことが重要です。

参考資料

1) 特性ビューア「SimSurfing」。(GRM188R61E106MA73を対象として使用)、村田製作所
2) Jonathan Bock、Will Bachman、Scott Ehlers、Jack Flickert「Reliability of X7R MLCCs Under Alternating Polarity Highly Accelerated Lifetime Testing(交番極性の高加速寿命試験におけるX7R MLCCの信頼性)」IEEE Transactions of Components、Packaging and Manufacturing Technology、Vol. 14、No.5、2024年5月
3) 「コンデンサの寿命を推定する方法はありますか?」、村田製作所
4) 民生機器&産業機器用チップ積層セラミックコンデンサ、村田製作所

本記事はAnalog DevicesのTECHNICAL ARTICLE「Switched-Capacitor Converters—Is the Lifetime of an MLCC a Concern?」を翻訳・改編したものとなります