スペースエントリーは4月7日、宇宙開発を広く一般に身近に感じてもらうことを目的に、バンダイナムコフィルムワークスの協力のもと、大河原邦男氏がデザインした自律型宇宙ロボット「みんなのハロ」を国際宇宙ステーション(ISS) 日本実験棟「きぼう」に長期滞在させることを目指すプロジェクトを始動したことを発表した。

同社は、有人宇宙システム(JAMSS)で「きぼう」の実験装置開発や、トヨタ自動車の「KIROBO」開発の宇宙プロジェクトリーダーなどを務めてきた熊谷亮一氏が2023年に宇宙ロボットを開発することを目的に設立した宇宙ベンチャー。同氏は、今回のプロジェクトを立ち上げた目的を、「民間の会社が宇宙開発に参入しているが、まだまだ敷居が高い。人材不足も顕著で、それらの課題を解決するために専門家でない人も参加してもらい、宇宙開発を親しんでもらって身近なものにしてもらう必要がある」と語る。

また、大河原氏に依頼した理由について、「これまで宇宙ロボットに限らず、多くの実用的なロボットは過酷な環境に耐えられる性能や機能が重視されてきたが、より身近な存在となるためにはデザインが重要と考えた。スペースエントリーのビジョンとしても、気軽に宇宙開発に参加したもらう社会の実現を目指しており、そうした一般の人たちが参加したいと思われる親しみのあるデザインとして、第一人者である大河原先生にお願いできればと思って依頼をした」と説明するほか、「『みんなのハロ』は動かしてみたい、一緒に宇宙で働きたいと思えるデザインとして、宇宙の民主化として最大かつ最高の一歩になるのではないか」と抱負を語る。

  • 大河原邦男氏

    左からスペースエントリーの代表取締役CEOの熊谷亮一氏、メカニックデザイナーの大河原邦男氏、協賛パートナーの1者である稲城市の高橋勝浩 市長(高ははしご高) (提供:スペースエントリー)

大河原氏自身もチャンスと感じたプロジェクト

デザインを担当した大河原氏は、スペースエントリーからのデザインの依頼を受けた当時を振り返り、「ただの球にカメラなどが入っているものを見せられたとき、これは絶、サンライズとのコラボが必要だ」と判断し、自らサンライズの担当者に連絡を行い、許可を得たうえでデザインを進めたと説明。機動戦士ガンダムに登場するペットロボット「ハロ」を意識して、「なるべくハロに近づけた方が良いと思って、ハロの口部分に相当する黒いラインを太くすることで、そこにいろいろなセンサを入れたり、目などにも仕掛けを施した」(同)と、かなりハロを念頭においたデザインとしたことを説明。「本当にISSに滞在できるという話に、これはチャンスだということで始めた取り組みで、今年、来年の楽しみができた」(同)と、自分のデザインが実際にロボットとして宇宙まで行くことが楽しみであることを強調していた。

デザインとほぼ一緒の機体を開発

熊谷氏は、「デザインをベースにISSに滞在できるロボットを実際に開発する中で、機能的な部分についてはほぼ変える必要がないデザインだったので、そのまま(デザイン)を活かして開発を進めている」と、デザイン重視で開発を進めていることを明かす。

  • 大河原氏による「みんなのハロ」のデザイン

    大河原氏による「みんなのハロ」のデザイン

機体仕様は直径210mmの球体で、重さは4.5kg未満。ISSには燃える材料は持ち込めないため、筐体にはアルミを採用。ドローンとしての飛行システムを搭載し、制御システムやプロペラの駆動のためのバッテリーを搭載する。プロペラについては、当初のスペースエントリー側のラフデザインとしては、排気口を四角にすることで推力を得る算段であったが、大河原氏が「ちょうどほっぺの部分でもあり、四角のデザインがどうにも受け入れられなくて、丸くすれば機能的にもそんなに影響ないのではないかということで、丸のデザインに変更」した(大河原氏は、このほっぺ部分が特にお気に入りとする)こともあり、エンジニアたちが丸となり推力が減ることを受け入れ、プロペラ形状の変更などの工夫を施すことで所定の推力を得ることを可能にし、デザイン性を維持したとする。

またOSには組込機器向けリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)「Zephyr(ゼファー)」を採用。制御ボードは、シングルボードコンピュータのような簡易的なものを利用する想定としている。

デザイン的な特長としては、ほっぺ部分と、筐体の裏側の4か所が排気口、ハロでいる手と足が出る部分を吸入口とし、口のイメージの黒い線部分に光学カメラとオプティカルフローセンサ(後部とサイドにも配置)、その下部に物体との距離を測定するレーザセンサを配置している。

さらに、デザインでは内部レイアウトとして、「いたずら心」と大河原氏は表現したが、小さなハロ(AIコア型のハロ)が頭頂部に乗っているというものであったが、さすがに制御基板などの都合上、内部のデザインまではそのままというわけにはいかなかったが、黒い線部分に「ミニハロ」を搭載。ミニハロにはクラウドファンディング(クラファン)の応募者の名前なども搭載する予定で、外側からでもじっくり見ると、ミニハロが見えるようなデザインとしたとする。

3つの世界初に挑む「みんなのハロ」、応援のためのクラファンも実施へ

みんなのハロは、以下の3つの世界初に挑むプロジェクトだという。

  1. 民間企業初の自律型宇宙ロボットのISS長期滞在
  2. 最新OS「ゼファー」を宇宙ロボットに初搭載
  3. 世界初の会話ができる自律型宇宙ロボット

1つ目は、例えばこれまでにもJAXAの「Int-Ball2」などがISSに滞在した実績があるが、基本的には国家機関が主導したプロジェクトで、民間企業だけで作られた宇宙ロボットが長期滞在をした例はなかったとする。

2つ目は、こちらもIoT機器などでの活用は増えているものの、宇宙ロボットとしてゼファーを搭載したものはないとする。

そして3つ目は、ISSで自由に飛ぶみんなのハロに対して、ISS内のPCを介して、NASA経由でつくば宇宙センターとデータをやり取りする形を基本として、そこからさらに外部にもつなげることができる仕組みの構築を考えているとし、つくば宇宙センター以外のイベント会場などから、みんなのハロに動くように口頭で命令を出して、その様子を見たりといったことをできるようにするといったことを考えているという。

そして、これらの機能の実現に向けた支援とスペースエントリーという社名を広く一般に知ってもらうことを目的としたクラウドファンディングを2026年4月14日よりキャンプファイヤーにて実施する予定だという。

初期目標金額は300万円、最終目標を3000万円とし、大河原氏協力によるみんなのハロデザインのステッカーやポストカード、パーカーなどをリターンとしてもらえる「応援プラン」のほか、実際に組み立てミッションやEMC試験ミッションなどの試験に参加できる「参加プラン」、そして企業ロゴの同社Webサイトでの提示や関連イベントへの優先案内や出展ブースの提供などを法人向けに行う「法人プラン」の3種類が用意されている。中には自分の声を「みんなのハロ」の声として(応募者の声を統合する形で)活用するプランなども用意されている。ちなみに会見場での質疑応答では、企業ロゴをみんなのハロに貼れないかという質問も飛んでいた(これについては熊谷氏も即答はできないという回答であった)。

早ければ年内にもISSへ向けた打ち上げを実施へ

開発スケジュールとしては、現在、BBM(ブレッド・ボード・モデル)を作り、機能や性能の確認を進めている一方、設計段階の安全審査をJAXAが実施している段階。この審査が通った後、秋ごろに向けて実際の機体を用いた安全審査を経て、ISSへの打ち上げに向かうこととなる。

打ち上げには米国のローンチャーを使うとのことだが、具体的な打ち上げ便が確定していないということもあり、2026年冬から2027年春ごろの打ち上げ予定としている。また、「性能としては2年間の運用が可能な形で開発をしているが、JAXAの有償利用制度そのものは長期間使える制度ではないため、長期間の運用を目指す場合はJAXAとその都度、調整を行うことが必要になる」(熊谷氏)としている。

なお、大河原氏は、「いろいろな機能を盛り込みたいということを相談してもらって、黒い線の部分に収めることができたら、これこそが『みんなのハロ』だと思ってもらえるとおもって、うまいこと嘘を付けたと思っている。約50年、いろいろなアニメで嘘をついてきたが、それが現実の動くものに落とし込めたというのは、1つの勲章だと思っている」と、実際に内部に収めたエンジニアの苦労をねぎらいつつ、自身がデザインしたアニメのキャラクターが、ここまで育ってくれるとは思っていなかったと感慨にふけっていた。