山階鳥類研究所と森林研究・整備機構森林総合研究所は、鹿児島・トカラ列島に分布するムシクイ科の鳥が、これまで同種とされてきた伊豆諸島の「イイジマムシクイ」ではなく、さえずり方も遺伝的・形態的な面でも異なる“新種”だったと3月18日に発表。同列島の個体群を「トカラムシクイ」と名付け、新種記載した。

  • 国内で45年ぶりに鳥類の新種として報告された「トカラムシクイ」のオスの成鳥(2017年6月10日トカラ列島中之島にて環境省、文化庁の許可のもとで捕獲) 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

    国内で45年ぶりに鳥類の新種として報告された「トカラムシクイ」のオスの成鳥(2017年6月10日トカラ列島中之島にて環境省、文化庁の許可のもとで捕獲) 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

国内で新種の鳥が報告されたのは、1981年に記載された「ヤンバルクイナ」以来45年ぶり。前出の二研究所と、スウェーデンのウプサラ大学とイエテボリ大学、中国科学院 動物研究所による共同研究で明らかになったもので、研究成果は国際学術誌「PNAS Nexus」に3月17日付で公開されている。

この研究意義について両研究所は「日本国内の鳥類の分類学的研究は、その大半が明治時代に外国の研究者によって新種の記載が完了し、もう研究され尽くしてしまったと考えられてきたが、まだ発見されていない隠れた多様性が埋もれている可能性があることを裏付けるもの」と説明している。

伊豆諸島の島々に繁殖分布することが古くから知られているイイジマムシクイだが、トカラ列島中之島でも、これによく似たムシクイ科の小鳥が繁殖していることが、1989年に発表された論文で報告されている。遠く離れた伊豆諸島とトカラ列島に棲息する両個体群間の差異は、これまで十分に検討されないまま、最初の報告での種同定をもとに、どちらもイイジマムシクイとして分類されてきた。

研究グループは今回、「このふたつの地域の個体群の同一性に疑念を持った」として、DNA分析でそれぞれの個体群の遺伝的な差異を調査。その結果、これらの分岐年代は280万〜320万年前と推定されたという。

  • イイジマムシクイとトカラムシクイの繁殖分布図 ※地理院地図を加工して作成 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

    イイジマムシクイとトカラムシクイの繁殖分布図 ※地理院地図を加工して作成 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

  • 伊豆個体群とトカラ個体群との系統関係(ミトコンドリアDNAチトクロムb領域の分子系統樹に基づく) 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

    伊豆個体群とトカラ個体群との系統関係(ミトコンドリアDNAチトクロムb領域の分子系統樹に基づく) 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

さらに形態の差異も調べたところ、トカラ個体群は伊豆個体群よりもふしょ(脚)やくちばし(嘴)と頭部を合わせた長さが短いことが判明。鳴き声も、さえずりに個体群間で明確な統計的違いがあることが分かったという。

こうした調査結果から、研究グループはトカラ列島個体群の鳥をイイジマムシクイではなく、「トカラムシクイ」(英名:Tokara Leaf Warbler、学名:Phylloscopus tokaraensis)として新種記載することを提唱した。記載に用いられるタイプ標本は、山階鳥類研究所で保存されている。

  • タイプ標本(雄成鳥 標本番号YIO-76774山階鳥類研究所蔵) 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

    タイプ標本(雄成鳥 標本番号YIO-76774山階鳥類研究所蔵) 出所:森林研究・整備機構森林総合研究所ニュースリリース

トカラムシクイはトカラ列島のいくつかの島に生息するが、確実に繁殖が確認されているのは中之島のみで、生息地が狭く個体数も多くないと推測され、絶滅の危険性が高い種とされている。既にイイジマムシクイは環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されており、研究グループは「トカラムシクイも今後、同リストにより絶滅危惧のランク付けを検討する必要がある」と見ている。

また、研究グループは「近年、同列島の島々は、松枯れやノヤギによる森林衰退が進行している地域があり、トカラムシクイの生息環境の悪化が懸念される。その進行を食い止める環境保全策も必要だ」とも指摘している。