宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、「日本の国際宇宙探査シナリオ案2025」に関する記者説明会を2月3日に開催。会見では、この資料が提示する2040年代の月面拠点構想や、今後の日本独自の火星そのものへの着陸探査を含む改定した部分を詳細に解説した。

  • 記者説明会に登壇したJAXA 国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニットの田邊宏太ユニット長

    記者説明会に登壇したJAXA 国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニットの田邊宏太ユニット長

  • 同じく記者説明会に登壇したJAXA 国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニットの成田伸一郎 技術領域主幹

    同じく記者説明会に登壇したJAXA 国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニットの成田伸一郎 技術領域主幹

「日本の国際宇宙探査シナリオ案」は、日本の国際宇宙探査を進める方向性の案を宇宙機関としてまとめた文書。今回が3回目となる改訂版(第4版)で、2025年11月17日に公開された。

JAXAの特定の部門に限らず、横断的に100人のスタッフが関わって作製され、その総ページ数は表紙など含め、実に999ページにも及ぶ。これを読み込んで、すべてのデータを活用できたとしたら、2030〜2040年代のリアルな月面探査SF小説を書けるだろうというほど、正確な情報や予測などが凝縮された資料となっている。

  • 2025年11月17日に公開された「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」(第4版)の表紙。全999ページの資料となっている (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

    2025年11月17日に公開された「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」(第4版)の表紙。全999ページの資料となっている (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

「日本の国際宇宙探査シナリオ案」は2016年度に初版が公開され、これまで2019年度と2021年度に改訂が行われてきた。今回は2021年度以降の最新の国際調整や政府関連の活動などに留意しつつ、国際宇宙探査の進捗や検討状況を反映した3回目の改訂が行われ、第4版として公開された。

なお、「JAXAの」ではなく「日本の」とされているのは、民間企業なども含めた日本全体での宇宙探査を想定したものだからだ。また、留意すべき点として、同資料はあくまでもJAXAとして「こういう宇宙探査を考えている」という提案であり、決定された計画ではない。要は、政策立案、研究開発、産業連携などの今後の活動に広く活用してもらうことが第一の目的だ。

実際、これまでの版は、政府主導による宇宙技術戦略(探査領域)の策定や、月面活動に関するアーキテクチャの検討における参考資料としても活用されてきた。また、JAXA内でも研究開発などにおいて活用されているという。

膨大な情報量を詰め込んだ資料であるため、今回の記者説明会では、改訂ポイントである主に4点に絞って解説が行われた。

まず、1つ目はサイエンスだ。

「月の3科学」(月面天文台、月からのサンプルリターン、月震計ネットワーク)、「(月面や月周辺の)環境理解」、「有人(でなければ行えない)科学」、「科学と産業連携の強化」の4項目が新たに記載されている。今後の「月から火星へ」の流れに沿って、2026年度打ち上げ予定のJAXAの火星衛星サンプルリターン計画「MMX」の次、火星そのものへの日本独自の無人機の着陸探査プログラムも明確化されている。

2つ目は、2040年代の宇宙飛行士が常時滞在する月面拠点について。

これは、JAXAとトヨタで開発している有人与圧ローバーが活躍する2030年代の後(有人与圧ローバーの活動開始目標年は2031年で、そこから10年間の活動が予定されている)、有人火星探査や持続的な月面社会活動(数百人から1,000人が常時滞在する都市レベルといえる活動拠点)が構築される年代の中間として、2040年代を想定し、40人規模が恒久的に活動できる有人活動拠点として設定された。

加えて、初期の科学探査やこの40人規模の拠点の活用において得られるさまざまな技術的・環境的情報を、将来のより大規模な拠点構築活動において効率的につなげていくための各種データ(物質、地質・地形、静的環境、動的環境など)についてもアーキテクチャとして記載されている。

  • 第4版では、2030年代の初期の活動と、将来の持続的な月面社会活動の年代の間に位置するフェーズとして、2040年代を想定した40人規模が活動できる月面拠点のビジョンが描かれている (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

    第4版では、2030年代の初期の活動と、将来の持続的な月面社会活動の年代の間に位置するフェーズとして、2040年代を想定した40人規模が活動できる月面拠点のビジョンが描かれている (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

3つ目は、技術ロードマップについて。

最新の政府・民間・JAXAの政策・事業・研究進捗に合わせ、国際宇宙探査に係わる技術のロードマップが再整理された。それに加え、今回は探査技術のみでなく、共通技術に関するロードマップも新たに記載されたことも特徴となっている。

  • 月面探査に関連する技術のイメージ。第4版では、最新の状況に合わせ、国際宇宙探査に係わる技術のロードマップが再整理されると同時に、共通技術に関するロードマップも新たに記載されている (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

    月面探査に関連する技術のイメージ。第4版では、最新の状況に合わせ、国際宇宙探査に係わる技術のロードマップが再整理されると同時に、共通技術に関するロードマップも新たに記載されている (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

  • 探査技術・共通技術を統合した全体シナリオ・ロードマップ。図中の(5)月面環境計測・インフラ技術実証(通信・側位、電力、越夜、建設支援など)が、新たに追加された要素となる (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

    探査技術・共通技術を統合した全体シナリオ・ロードマップ。図中の(5)月面環境計測・インフラ技術実証(通信・側位、電力、越夜、建設支援など)が、新たに追加された要素となる (出所:JAXA「日本の国際宇宙探査シナリオ案 2025」)

最後は、有人与圧ローバーを含めた、アルテミス計画に日本が提供すべき技術についてだ。

今回は、重点化すべき技術領域として、(1)月における科学探査ミッション、(2)多様な輸送手段の実現と、環境情報取得・技術実証のための月面到達機会の確保、(3)有人与圧ローバーへ活用可能な月面活動を支える基盤インフラ技術の実証・整備、(4)将来有人火星探査への貢献を可能とする無人火星探査(火星そのものへの着陸)の4点が提示された。加えて、国際動向、資源存在、国際ルール、キー技術、将来市場など、計画を左右する重要な変曲点要因も整理された。

この4つの中で、特に力を入れたというのが、2つ目の2040年代の宇宙飛行士が常時滞在する月面拠点だ。産業界などに対してもヒアリングを行ってまとめられたという。

具体的には、NASAが公開している着陸地点候補のひとつの周辺を舞台に、居住区、発電・通信区、燃料製造区、燃料利用・離着陸区、採掘区などが、どれぐらいの間隔で建設すべきかなどもまとめられた。

たとえば、燃料利用・離着陸区と居住区は万が一の爆発などの問題を考慮して3km離すといった配慮が成されている。また、月の昼夜は平均して地球日の約14日間となるが、日中は再生エネルギーで発電して電力供給と蓄電を行い、夜間に備える構成となっている(NASAは最新の計画では、原子力発電を月面で使用することを発表している)。

今後、JAXAは今回の第4版をベースに宇宙探査計画をさらに検討し、各国宇宙機関と、有人与圧ローバーに続く具体的な参加・貢献について調整していく。また、日本国内においては第4版をベースに、政府・産業界・アカデミアを含めた幅広いステークスホルダと対話を行い、ステークホルダに参加の準備を促すと共に、今後の反映事項を調整するとしている。

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