米国航空宇宙局(NASA)は現地時間2月3日、有人月フライバイ・ミッション「アルテミスII」の打ち上げ時期について、早ければ3月を目標とすると発表した。これまで2月上旬の打ち上げをめざして準備が進められてきたが、打ち上げ前の試験(ウェット・ドレス・リハーサル)で複数の課題が見つかり、修正作業と再試験が必要となったため、打ち上げ時期が延期された。
アルテミスII打ち上げ前の試験で見つかった、複数の課題
アルテミスII(Artemis II)は、米国主導の有人月探査計画「アルテミス」の2番目のミッションであり、同計画として初の有人飛行となる。「スペース・ローンチ・システム」(SLS)ロケットで、4人の宇宙飛行士が搭乗する「オライオン」宇宙船を打ち上げ、約10日間の月フライバイ飛行を行う。今後の有人月探査に必要なシステムやハードウェアを確認するとともに、深宇宙有人ミッションに必要な能力を実証することを目的としている。
打ち上げに先立ち、NASAは日本時間2月1日から「ウェット・ドレス・リハーサル(WDR、Wet Dress Rehearsal)」を実施した。WDRは、実際にはロケットを打ち上げない点を除いて、推進薬の充填やカウントダウン、延期・中止時の手順確認などを本番に近い形で行い、打ち上げ前に問題点を洗い出して対処するための試験だ。
WDRは日本時間2月1日10時13分(米国東部標準時1月31日20時13分)から、フロリダ州のケネディ宇宙センターで実施され、ロケットや宇宙船、地上設備の確認と準備を進めたのち、ロケットのタンクに推進薬を充填する作業に入った。現地を襲った寒波の影響で、一部インタフェースを適切な温度まで戻す作業に時間を要したため、推進薬の充填開始が遅れたという。
そして、日本時間2月3日2時25分ごろから推進薬の充填が始まり、低速モードによる充填ののち高速モードへ移行した。しかし、液体水素の充填中に漏洩が許容範囲を超えたため、NASAは充填を停止し、インタフェースを温めてシールをなじませるなどの対処を行い、推進薬の流量調整も含めて復旧を試みた。
その後、SLSの各タンク(コア・ステージと上段)への充填が完了し、作業チームが発射台へ出て、オライオン宇宙船の最終(クローズアウト)作業を進めた。続いて、ターミナル(最終)カウントダウンに入り、試験では発射直前までの手順を確認する予定だったが、カウントダウンが発射5分15秒付近まで進んだ時点で液体水素漏洩がふたたび増加したため、自動的にカウントダウンが停止した。
この時点でWDRは終了となり、NASAはロケットを安全な状態に移行させ、推進薬を安全に排出して試験を終えた。
NASAによると、WDRでは液体水素の漏洩に加え、オライオンのクルーモジュール・ハッチの加圧に関連するバルブで増し締めが必要となり、最終作業に想定以上の時間を要したという。また、地上チーム間の音声通信チャンネルが断続的に途切れる不具合が複数回再発したほか、低温の影響でカメラなど複数の機器にも影響があったとしている。
液体水素充填中の漏洩は、2022年の「アルテミスI」のWDRや打ち上げ前にも発生した。今回の漏洩も、アルテミスIとまったく同じ場所――発射台のテール・マストのアンビリカル・ケーブルから発生した。このケーブルは、SLSのコア・ステージの下側にクイックディスコネクト(QD)で接続し、液体酸素と液体水素をそれぞれ充填するためのラインにつながっている。
水素は分子が小さく、配管や接続部からの漏洩を完全にゼロに抑えることは難しいため、運用上は一定の範囲での漏洩が許容されているが、アルテミスIの際と同様に今回のWDRでも、許容値を超える漏洩が確認された。漏洩が許容値を超えた状態では、発射時に火災や爆発につながるおそれがあるため、このままでは打ち上げられない。
NASAとSLSの主契約者であるボーイングは、アルテミスIの打ち上げ後、関係各所は機器面・運用面の対策を進めてきたとしている。しかし今回、漏洩が再発したことから、原因の切り分けと恒久的な対策があらためて求められる状況になった。
打ち上げは3月以降に、再試験を経て目標日を正式決定
NASAは、WDRを「打ち上げ前に問題点を特定し、解決するための試験」と位置づけており、2日間の試験で多くの目標を達成した一方、データ検証と各課題の修正、そして2度目のWDRが必要になると説明した。
このため、アルテミスIIは2月の打ち上げ期間から外れ、最短で3月の打ち上げ機会を目標に調整するとした。正式な打ち上げ目標日は、2度目のWDR後に決定するとしている。
なお、現時点ではロケットと宇宙船を組立棟(VAB)に戻す必要はないと考えられており、発射台に据え置いたまま作業を進めるという。
地球と月の位置関係や飛行経路上の条件などから、3月に打ち上げ可能な日は、6日、7日、8日、9日、11日に限られる。これらの日程で打ち上げができない場合、次の実施可能日は4月に移り、4月1日、3日、4日、5日、6日、30日が候補となる。
アルテミスIIには、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士と、カナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士の計4人が参加する。
4人は、打ち上げ前の健康管理のため、テキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターで隔離に入っていた。今回のWDRが順調に進んでいれば、2月3日にフロリダ州のケネディ宇宙センターへ移動する予定だった。延期に伴い、宇宙飛行士はいったん隔離から解放され、ジョンソン宇宙センターで訓練を続ける。今後は、次の打ち上げ機会の約2週間前にふたたび隔離に入る見通しとなっている。
参考文献


