米国航空宇宙局(NASA)は2023年4月4日、有人月探査ミッション「アルテミスII」で月へ飛行する4人の宇宙飛行士を発表した。

選ばれたのは、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ビクター・グローバー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士と、カナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士で、コック氏は女性として、グローヴァー氏は黒人として、そしてハンセン氏は米国人以外として初めて月へ飛行する。

4人は早ければ2024年11月にも、「オライオン(オリオン)」宇宙船に乗って月をフライバイ飛行し、将来の有人月探査に向けた試験や実証を行う。アポロ計画以来、約50年ぶりの有人月飛行の実現がいよいよ近づいてきた。

  • 有人月フライバイ・ミッション「アルテミスII」に搭乗する4人の宇宙飛行士

    有人月フライバイ・ミッション「アルテミスII」に搭乗する4人の宇宙飛行士。左から、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ビクター・グローバー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士、カナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士 (C) NASA/Josh Valcarcel

アルテミスIIに搭乗する宇宙飛行士

アルテミス(Artemis)は、NASAを中心に欧州や日本、カナダなどが共同で進めている国際的な有人月探査計画で、実現すればアポロ計画以来、約半世紀ぶりに月に人類が降り立つことになる。

その実現のため、NASAは巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」と、有人宇宙船「オリオン」を開発しており、2022年11月には無人飛行試験ミッション「アルテミスI」を実施した。同ミッションでは、SLSの打ち上げから、無人のオリオンによる月への飛行、月のまわりでの運用、そして地球への帰還といった一連の流れを試験し、大きなトラブルなく無事に完了した。

これに続くミッションが「アルテミスII」である。アルテミスIIでは、オリオンに初めて宇宙飛行士を乗せ、SLSで打ち上げ、地球と月との間を往復飛行する。打ち上げから帰還までは10日間の予定で、有人月探査に必要な各種試験を行う。

これが無事に成功すれば、いよいよ2025年以降、「アルテミスIII」ミッションで宇宙飛行士が月に降り立つことになる。

アルテミスIIの搭乗員として選ばれたのは、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ビクター・グローバー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士、そしてカナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士の4人である。

この人選は、アルテミス計画の特徴のひとつである「多様性」を色濃く反映している。アポロ計画で月へ飛行した宇宙飛行士は全員、白人の米国人男性だったが、今回は女性のコック氏、黒人のグローバー氏、カナダ人のハンセン氏が搭乗員として選ばれている。

ちなみに欧州では、障がいを持つ人も宇宙飛行士候補に選ばれており、将来的にアルテミス計画で飛行が予定されている。

多様性が大きく発揮されたアルテミス計画は、まさに真の意味で“人類”が月を探査することになる。

NASAのビル・ネルソン長官は、「この4人の冒険家には、それぞれに物語があります。しかし、彼らは全員、私たちの信条である『E pluribus unum (プルリブス・ウヌム、多数からひとつへ)』を象徴しています。『アルテミス世代』と呼ばれる新しい世代の宇宙飛行士、そして夢見る人々のために、私たちは一緒に新しい探検の時代を切り開くのです」と述べている。

  • アルテミスIIに搭乗する4人の宇宙飛行士

    アルテミスIIに搭乗する4人の宇宙飛行士。左から、CSAのハンセン宇宙飛行士、NASAのグローバー宇宙飛行士、ワイズマン宇宙飛行士、コック宇宙飛行士(C) NASA/James Blair

リード・ワイズマン(Reid Wiseman)

1975年生まれの47歳。メリーランド州ボルチモア出身。米海軍大佐。1999年から海軍のパイロットを務め、さまざまな戦闘機に搭乗した。2009年にNASA宇宙飛行士に選ばれ、2014年に「ソユーズTMA-13M」宇宙船で初の宇宙飛行に飛び立ち、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在した。また、2020年から2022年まで、NASAの宇宙飛行士室の室長を務めた。

アルテミスIIが2回目の宇宙飛行であり、同ミッションではコマンダー(船長)を務める。

発表に際し、「アルテミス計画では、3つの単語がモットーとなっています。それは『We are going (私たちが行く)」です。宇宙飛行士だけでなく、皆さんと一緒に行くのです。ぜひ皆さんも声に出して『We are going』と言ってみてください」と語っている。

ビクター・グローバー(Victor Glover)

1976年生まれの46歳。カリフォルニア州ポモナ出身。米海軍大佐。テスト・パイロットとして、40種類の飛行機で3000時間以上の飛行経験を持つ。2013年にNASA宇宙飛行士候補に選ばれ、2020年11月に打ち上げられたクルー・ドラゴン宇宙船運用1号機(Crew-1)のパイロットとして初の宇宙飛行を実施した。宇宙に半年間滞在した初の黒人米国人でもある。

アルテミスIIが2回目の宇宙飛行であり、同ミッションではパイロットを務める。

グローバー氏は「今日の発表は、私たち4人の名前が発表されたということ以上に多くの意味があります。アルテミスIIは、ただ月へ飛行するミッションということにとどまらず、月面に宇宙飛行士を降り立たせるために行わなければならないミッションでもあり、そして人類を火星に到達させる旅の中のステップのひとつでもあるのです」とコメントしている。

クリスティーナ・コック(Christina Koch)

1979年生まれの44歳。ミシガン州グランドラピッズ出身。電気工学と物理学の学士号と電気工学の修士号を持つ。米海洋大気庁の職員を経て、2013年にNASA宇宙飛行士候補に選ばれた。2019年にロシアの「ソユーズMS-12」宇宙船で初の宇宙飛行に飛び立ち、ISSに長期滞在した。このミッションでは328日間にわたり滞在し、女性の1回の宇宙滞在の最長記録を樹立したほか、初の女性だけの船外活動も成し遂げた。

アルテミスIIが2回目の宇宙飛行であり、同ミッションではミッション・スペシャリストを務める。

発表に際し、コック氏は「皆さんはきっと、私に『わくわくしていますか?』という質問をくださると思います。もちろんわくわくしています! ですが、私から皆さんにも、『わくわくしているでしょう?』と質問したいですね」と冗談を飛ばした。

ジェレミー・ハンセン

1976年生まれの47歳。カナダのオンタリオ州ロンドン出身。カナダ空軍大佐。カナダ空軍で戦闘機パイロットを務めたのち、2009年にカナダ宇宙庁の宇宙飛行士候補に選ばれた。

2013年には、古川聡宇宙飛行士らとともに、欧州宇宙機関(ESA)が実施した洞窟内での訓練「ESA CAVES」に参加。2014には第19回NASA極限環境ミッション運用「NEEMO 19」に参加し、海底研究所「アクエリアス」で訓練を行った。

アルテミスIIが初の宇宙飛行ミッションとなり、同ミッションではミッション・スペシャリストを務める。また、カナダ人として、そして米国人以外として、初めて地球低軌道を越えて飛行することになる。

ハンセン氏の座席は、2020年にNASAとCSAが締結した「カナダ・米国ゲートウェイ協定」の一環として用意された。

ハンセン氏は「カナダ人が月へ行く理由は大きく2つあると思います。ひとつは米国のリーダーシップへの支持です。米国は国際協力チームで月に行くという努力を何年も続けてきました。これこそが真のリーダーシップと呼べるものです。そしてもうひとつは、カナダ人も月へ行けるんだという『やる気』です」と力強くコメントしている。