宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月29日、X線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」を用いて、ケンタウルス座の方向に約1.2億光年先にある活動銀河「MCG-6-30-15」の中心の超大質量ブラックホール(SMBH)を観測し、その降着円盤の最内縁付近から放たれたX線を捉えることで、強い重力による一般相対性理論の効果を明確に確認したほか、同SMBHが高速回転している可能性が示唆されたと発表した。

  • SMBH周辺の想像図と観測データの相関

    SMBH周辺の想像図と観測データの相関。(左上)XRISMの「Resolve」が捉えたMCG-6-30-15のSMBHのスペクトル。SMBHから離れた領域を起源とする「幅の狭い輝線」、降着円盤から吹き出すアウトフローによる「幅の狭い吸収線」に加え、低エネルギー側(右側)に大きく拡がったFe Kα輝線が検出された。(c)CfA/Melissa Weiss(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、福岡教育大学 教育学部 理科教育研究ユニットの水本岬希講師、NASA ゴダード宇宙飛行センターの岡島崇氏、東北大学 理学研究科の野田博文准教授、宮崎大学 工学教育研究部 工学科半導体サイエンスプログラム担当の山内誠教授らが参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

宇宙の銀河中心には、太陽質量の数十万倍から数十億倍のSMBHが存在し、強い重力によって周囲のガスを引き寄せ「降着円盤」を形成している。円盤内のガスは相対論的な速度でSMBHを周回し、摩擦熱によって極めて高温になるが、中でも鉄原子は特徴的なX線「Fe Kα輝線」(以下、鉄輝線)を放射することが知られている。

鉄輝線は、SMBH周辺の様子を探る上で重要な手がかりとなる。降着円盤がSMBH近傍にまで達している場合、光速に近い速度の回転による特殊相対論的効果と、強い重力による一般相対論的効果によって、同輝線は非対称に大きく拡がった形状を示すからだ。

SMBHに大量の物質が落ち込むことで明るく輝いている銀河中心核は「活動銀河核」と呼ばれ、その銀河自体は活動銀河と定義される。活動銀河「MCG-6-30-15」では、1993年に打ち上げられた日本のX線天文衛星「あすか」(2001年3月運用終了)の観測により、広がった鉄輝線が検出されていた。しかし、同衛星の分光能力は限定的だったため、円盤から吹き出す風による吸収線などの影響で、見かけ上広がって見えているだけという可能性も指摘されていた。そこで研究チームは今回、XRISMなど3基のX線天文衛星による連携観測を行ったという。

観測は2024年2月に実施され、XRISMではカバーできない広帯域のX線スペクトルを得るため、硬X線(波長0.01~0.2nm程度)撮像が可能なNASAの「NuSTAR」および、集光力と広視野を特徴とする欧州宇宙機関(ESA)の「XMM-ニュートン」による同時観測が行われた。

XRISMの軟X線マイクロカロリメータ「Resolve(リゾルブ)」は、鉄輝線の詳細構造の調査に適しており、解析の結果、幅の狭い輝線や吸収線に加え、SMBH近傍の降着円盤に由来する「広がった鉄輝線」が確実に存在することが突き止められた。これにより、「あすか」の観測以来、30年に及んだ天文学上の論争が決着した形だ。

なお、幅の狭い輝線はSMBHから離れた領域での反射に由来し、吸収線は降着円盤から吹き出す風によるものと考えられる。XRISMの観測により、これらの構造が初めて高い信頼度で分離・検出され、降着円盤由来の広がった鉄輝線の正確な寄与を決定することにつながったとした。

鉄輝線の観測は、SMBHの回転についても重要な情報をもたらすという。ブラックホールは、中心の特異点からある一定の距離にある「事象の地平面」を超えて内側に入ると、光すら外へ脱出できなくなる。一般相対性理論によれば、ブラックホールが無回転の場合、降着円盤は事象の地平面の3倍の半径より内側には存在できないとされる。

一方、ブラックホールが降着円盤と同じ向きに高速回転している場合は、円盤が事象の地平面近傍にまで達すると予言されている。今回の解析では、円盤が事象の地平面近傍にまで存在することが示唆された。今後の詳細なデータ解析により、SMBHの高速回転を示す強い証拠が得られることが期待されるとした。

今回の観測により、高分解能X線分光がSMBH近傍の物理を直接探る強力な手段であることが示された。特に、一般相対論的効果による鉄輝線の拡がりが明確に捉えられたことは、SMBH周囲の時空の歪みを測定する上で大きな前進だという。

研究チームは今後、他の活動銀河のSMBHや銀河系内の恒星質量ブラックホールに対しても今回の手法を適用し、降着円盤の構造やブラックホールの回転を解明していくとする。また今回の観測では、SMBH近傍からのX線の他に、降着円盤から高速で吹き出す風であるアウトフローによる吸収線も検出された。この風は、銀河全体の進化にも影響すると考えられており、今後SMBHの質量とアウトフローの関係を詳しく調べることで、銀河とSMBHの共進化プロセスを解明することが期待されるとしている。