アルテミスIIの飛行ミッション

  • アルテミスIIの打ち上げシーケンス (C)NASA/Bruce Hudgins

    アルテミスIIの打ち上げシーケンス (C)NASA/Bruce Hudgins

オライオンを搭載したSLSは打ち上げ後、まず弾道軌道に乗り、コア・ステージ(第1段)と上段「ICPS」(Interim Cryogenic Propulsion Stage)を分離する。コア・ステージは分離後に大気圏へ再突入し、燃え尽きる。

打ち上げから49分49秒後、ICPSの噴射により、オライオンとともに高度185×2,200kmの軌道に入る。その約1時間後には、ICPSが2回目の噴射を行って遠地点を上げ、遠地点(地球の地表から最も遠い点)高度約7万km、軌道周期約23時間の軌道に入る。

この高軌道上でオライオンはICPSから分離され、宇宙飛行士は生命維持システムなどを確認する。さらに、分離後のICPSを目標に近接運用の実証を行い、将来のランデヴー運用に必要な手順の確認や、データ取得を行う。ICPSはまた、キューブサットを放出したのち、軌道離脱噴射を行い、地球の大気圏に再突入して太平洋上空で燃え尽きる。

そして飛行2日目、オライオンは遠地点付近でスラスターを噴射し、月へ向かうための軌道に入る。

地球と月との往復には、「自由帰還軌道」と呼ばれる経路が用いられる。月の重力を利用して進行方向を曲げ、月の裏側を回り込むように飛んだあと、そのまま地球へ戻る経路になっている。この軌道に入っておけば、途中でスラスターに大きなトラブルが起きても、追加で大きな噴射を行わずに地球へ戻れる。アポロ計画でも同じ考え方が使われ、「アポロ13号」では、月フライバイ後にこの経路に沿って地球へ帰還した。

そして、打ち上げから6日目に、オライオンは月フライバイを実施する。打ち上げ日によって異なるものの、月の裏側から7,400km〜1万300kmの距離を通過することになる。

ちなみにアポロ13号ミッションでは、月の裏側の高度約254kmを通過し、これは人間が地球から最も遠く離れたギネス記録となっている。このため、アルテミスIIがこの記録を塗り替える可能性がある。ただし、月の軌道は楕円であり、さらに打ち上げ時点の地球と月の位置関係によって飛行経路も変わるため、確実な結果は実際の飛行後の評価となる。

月の裏側を通過中は、地球との見通しがさえぎられ、また通信を中継する衛星も現時点ではないため、地上との交信が途切れる時間帯が生じる。通信途絶から回復までの間は、少しばかり緊張が漂うことになるだろう。

  • 月の裏側を通過するオライオンの想像図 (C)NASA

    月の裏側を通過するオライオンの想像図 (C)NASA

月でUターンしたのち、オライオンは地球へ向かって飛行し、約4日かけて接近する。大気圏再突入のおよそ20分前には、クルーの乗ったカプセル(クルー・モジュール)と欧州サービス・モジュール(ESM)を分離する。

カプセルの再突入は、アルテミスIとは異なる方法が取られる。

アルテミスIでは「スキップ再突入」と呼ばれる、石の水切りのように、大気圏の上層部で跳ねるようにして再突入するプロファイルが使われた。これは着陸地点の精度を高めることと、宇宙飛行士にかかる重力加速度を軽減することを意図したものだった。しかし帰還そのものは成功したものの、回収後の調査で耐熱シールドが予想以上に損傷していたことが判明した。

そこでアルテミスIIでは、スキップ再突入ではなく、より直線的な経路で再突入するプロファイルが採用されることになった。これはアポロ宇宙船の再突入に似たもので、耐熱シールドの損傷が防げると期待されている。

カプセルはパラシュート降下ののち太平洋上に着水する。クルーは回収部隊により船へ搬送され、初期の健康チェックを受ける。その後、陸上施設で本格的な検査やリハビリを行う。打ち上げから帰還までのミッション期間は約10日間の予定だ。

1972年のアポロ17ミッションの終了から約54年を経て、人類はふたたび月へ向かう。だが、アポロ計画とは異なり、アルテミス計画は月面での継続的な活動を実現し、将来の有人火星探査につなげることをめざす計画だ。半世紀にわたって有人月探査が途絶えていた時代を繰り返すのではなく、実りある半世紀へと歩み出せるのか。その序章となるアルテミスIIの行方に注目したい。

  • アルテミスIIの飛行経路 (C)NASA

    アルテミスIIの飛行経路 (C)NASA

参考文献