半導体製造国際会議(International Symposium on Semiconductor Manufacturing:ISSM)主催の「ISSM戦略フォーラム2025:半導体地政学に挑む最先端半導体の開発から量産へのスキーム」が2025年12月17日にSEMICON Japan 2025の協賛イベントとして東京都内で開催された。ISSM自体は偶数年ごとに開催される隔年のイベントで、ISSM戦略フォーラムはISSMが開催されない奇数年に開催される半導体製造戦略について議論するイベントという位置づけである。
米国とのデカップリングが進む中国の半導体戦略
冒頭、OMDIAのコンサルティングディレクタである鈴木 寿哉氏(元富士通、ソシオネクスト)が「デカップリングが進む中国の半導体戦略」と題して講演した。第1期トランプ政権からバイデン前大統領を経て現在のトランプ2.0へと一貫した中国に対する半導体、特に先端半導体に対する規制強化は、デカップリングを加速させる結果となっている。そのような状況にあって、独自の道を歩もうとする中国の半導体開発の実情と今後を読み解いた講演となった。
米国の中国への制裁に、日本をはじめとする各国が対応に追われるなか、中国政府は自給自足のための政策を打ち出し、中国内の主要企業も自主開発を推進する動きを見せている。
中国の半導体産業に目を向けると、中国内のIC設計企業数は2023年に3451社に達している。従業員数別に分類すると、100人以下の企業が84%と圧倒的に多い。一方売上比率では1000万元(日本円で約2.2億円)以下の売上企業が全体の55%を占め、5000万元(約11.3億円)以下でも77%となり、従業員規模100人以下で売上高12億円以下の企業がマジョリティなことが見て取れる。
一方で従業員規模が1000人を超す企業は34社で全体の1%、1億元(約22億円)以上の売上高の企業は625社で全体の18%ほど存在する。日本のIC設計会社の数がすべて足しても100社以下なことを考えると、半導体設計ができる人材の数では中国は相当多いと言える。単純計算で中国には少なくとも7万人以上の設計技術者がいることになる。中国政府は、これら多数の設計企業が激しい競争の末に自然淘汰で、世界に通用する企業が何社か誕生することを望んでいるように見える。
また、半導体製造については、中国内のIDMとファウンドリの生産能力をあわせると、2025年には台湾が24.3%でトップだが、中国が23.7%で2位となっている。台湾の強みは、先端プロセスの生産能力拡大と長期的な顧客確保を続ける大手専業ファウンドリ(TSMCやUMCなど)に支えられている一方で、中国は政府主導の投資に加え、国内ファウンドリによる急速な能力拡張や、域内で操業する外資系のファブの生産能力拡大からの恩恵を受ける形で生産能力を伸ばしているといえる。これらの要因により、台湾と中国は世界市場におけるシェア拡大を続けており、地域間の競争バランスを形作っているといえる。
ただし、2024年から2029年にかけて、米国が主要企業による半導体投資とCHIPS法によるインセンティブを背景に、年平均成長率(CAGR)15%で世界の生産能力の成長をけん引する見込みで、2029年には生産能力のシェアは10.3%にまで上昇し、先端半導体の製造拠点としての役割が高まり、サプライチェーンの強靭性の向上にも寄与することが予測されている。
一方、中国はCAGR6.4%と成長率は比較的緩やかであるものの、2026年には台湾を追い抜いて最大の生産能力を有する地域となり、当分の間、その地位を維持する見通しである。
また、韓国はファウンドリ分野での存在感が比較的限定的であるため、IDMのみを対象とした場合のシェアは32.9%だが、ファウンドリを含めた場合、19.7%へと落ち込むこととなる。
生産能力の向上を目指す中国は、半導体製造装置の国産化も進めている。例えば洗浄装置は45%、CMP装置は30%、エッチングや熱処理装置は20%が国産装置に置き換わったとされる。しかし、露光装置や検査計測装置は弱く、ほとんど外国製に頼っている状況にある。
こうした状況の中、米中のデカップリングは避けられそうにはなく、外国企業の多くが中国向け製品は中国で生産し、中国以外向けは中国外で製造することが主流になってきている。幸い、米中それぞれで強い販売先に地域差があり、互いのビジネスをすみ分けることができそうである。中国は安価な製品で市場を獲得し、友好国の多い南アメリカやアフリカでの成長が期待できるので、米国からの規制で独自のサプライチェーンが絶たれてしまうわけではない。鈴木氏は「材料、装置に強い日本は、規制対象外の製品で中国とのビジネスを拡大するチャンスととらえるべきである」と述べ、日本勢が米中デカップリングをチャンスにすることを強調して話を結んだ。
台湾はシリコントライアングルのコア、日台はすみわけ可能
次に熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構 卓越教授の若林秀樹氏が「半導体地経学サプライチェーンとバリューチェーンの中で各国の位置付け、競争と協調」と題して講演を行った。
この講演では、VUCAの時代、トランプ関税、極東有事リスクの中で、日本はじめ各国は、サプライチェーンやバリューチェーンの中でどう位置付けられるべきかが論じられた。ファウンドリとOSAT、EMSに強い台湾と、半導体製造装置と材料に強い日本は良い共存関係にあり、安全保障、技術トレンド、産業構造、R&Dの役割で日台はすみ分けられると主張したほか、米中台および日韓台の2つのシリコントリアングルのコアとしての台湾の重要な役割を強調した。
このほか、IBMからは「ファブ効率化のためのデータサイエンスの挑戦」、「CMOSスケーリングを支えるトランジスタアーキテクチャの進化」、Rapidus(ラピダス)からは「半導体製造におけるスマート化の目的と今後の課題」、レゾナックからは「先端パッケージ向け材料開発における未来共創」、名古屋大学発のベンチャーであるアイクリスタルから「プロセスインフォマティクスによる半導体製造の最適化」の講演が行われた。
半導体地政学に関連した参加者へのアンケートを実施
同フォーラムでは、講演とは別に「半導体地政学に挑む最先端半導体の開発から量産へのスキーム」というメインテーマに沿った形で講演の進行中に参加者によるアンケートが取られた。その集計結果を以下に紹介しよう。
米中デカップリング
「アメリカの半導体デカップリング政策は今後も続くと思うか?」との質問に対して56%が「今後も続く」、34%が「政権次第で終了する」と回答した。
また、「トランプ関税(ローカルコンテント強化)により、アメリカの半導体生産は拡大すると思うか?」との質問に、60%が「拡大する」、26%が「変わらない」と答えた。
中国の最先端半導体生産レベル
「中国の最先端半導体生産レベルの現状をどう見るか?」との質問には、56%が「(先進国を)キャッチアップしている」、33%が「やや遅れている」と答えた。
また、「5年後の中国の最先端半導体生産レベルをどう見るか?」については、46%が「(他国と)差はないレベル」、 26%が「やや遅れている」、24%が「「先行している」と回答した。
インドの半導体生産
「インドの半導体生産額が意味ある生産量(WW 5%程度のシェア)に達するのはいつ頃か?」との問いに、44%が「10年先」、42%が「10年よりももっと先」、10%が「5年先」と答えた。
また、「インドにおける半導体生産工程は何か?」との問いに、50%が「後工程」、34%が「前工程と後工程」と答えた。「前工程」のみと答えたのは2%にとどまった。
日本の最先端半導体生産
「日本の最先端半導体生産(ラピダス)は成功すると思うか?」との問いに、「ほぼ成功する」が34%、「成功は困難」が26%、「わからない」が22%、「成功する」が10%となった。また、「その他(具体的に)」として、「生産できたとしてもビジネスとして不透明」、「固定客がまだいない」、「政治的に成功したとしても経済的成功は10年以上無理」などの意見が寄せられた。
「ラピダスは半導体製造プロセスをIBMから導入しているが、これは研究・開発・生産を一貫で実施するTSMCに対してハンディキャップとなると思うか?」との問いに、「ややハンディキャップになる」が32%、「ハンディキャップになる」が30%で、合わせると62%が程度の差こそあれハンディキャップになると答えていた。「ハンディキャップにはならない」は28%だった。
日本の非先端デバイスメーカーの生き残り策
「ラピダス以外の非先端デバイスメーカーはどの点を差別化することで生き残れるか?」との質問の回答は以下のようにばらけたが、最多回答は「ターゲット製品次第」だった。
前工程の半導体製造装置および材料の競争力
「日本の前工程装置メーカーは世界トップの装置メーカーと互角に競争しているが、今後この状態を維持できると思うか?」との質問には、52%が「維持できる」、「遅れる」が30%、「先行する」が8%であった。
また、「日本の前工程材料メーカー各社は世界のトップクラス材料メーカーと互角に競争をしているが、今後この状態を維持できると思うか?」との質問には、66%が「維持できる」と答えたほか、「遅れる」が16%、「先行する」が12%となった。装置・材料とも過半が現状維持ととらえているが、装置に関しては3割が、現状のままでは後れを取ると見ているのが注目される。
半導体パッケージング
「先端パッケージングの設備投資は今後、主にどの国主体で行われると思うか?」との問いの回答は次のようにばらけた。その他の国として複数の回答者がマレーシアを挙げた。
また、「先端パッケージングに必要な装置は従来の後工程装置メーカーが開発するのか、前工程装置メーカーが参入するのか、どちらだと思うか?」との問いには、68%が「両方」と答え、22%が「後工程メーカー」、10%が「前工程メーカー」と答えたほか。「5年後にはASE、Amkorに匹敵するOSATが中国に存在していると思うか?」との問いに80%がイエスと答えた。
半導体人材確保
「採用活動では十分な人材確保が出来ているか?」の問いに、62%が「確保できていない」、28%が「確保できていないが何とかやりくりしている」と回答した。「確保できている」と答えたのは2%のみであった。また、「学生や若手に半導体を魅力的な産業とみてもらうために何が必要か?」との質問には、「報酬」をはじめとしてさまざまな回答があった。
なお次回の「ISSM 2026」は2026年12月7日~8日の日程で東京で開催される予定で、論文の応募締切は2026年7月末を予定しているという。







