2025年、半導体をはじめとする先端テクノロジー産業は、地政学的緊張の高まりと米国の内政の変化という二重の波に翻弄され、そのサプライチェーンは大きな変革の時代を迎えた。
この年の動向を振り返るにあたり、特にトランプ政権の再登場と、それに伴う新たな通商政策、特に広範な関税導入の動きが、産業界全体に与えた影響は計り知れない。
「トランプ関税」が半導体関連産業に与えた影響
2025年初頭、米国ではトランプ政権が発足し、政権が公約として掲げていた「米国第一主義」に基づいた保護貿易的な政策が再び現実のものとなった。
特に注目すべきは、一部の国や特定の製品群に限定されていた従来の関税措置から一転し、輸入されるほぼすべての商品に対して一律に関税を課すという包括的な政策が具体化し始めたことだ。この「トランプ関税」の導入は、先端テクノロジー産業のサプライチェーン戦略を根底から揺さぶった。
- 米国のトランプ政権誕生で米中半導体覇権競争はどうなっていくのか?
- 米中半導体覇権競争に対するトランプ政権のスタンスは? バイデンとの共通点と違い
- 日米関税交渉の戦略と地政学的意義、米国企業の半導体購入提案とその背景
半導体産業は、その製造工程が極めて細分化され、設計、製造、後工程が国境を越えて高度に連携することで成り立っている。特定の部品や工程が特定の国や地域に依存している一極集中のリスクは、すでにパンデミックや地政学的な規制強化(特に米国による対中輸出規制)によって顕在化していたが、トランプ関税の脅威は、このリスクをコスト面からも最大化するものとなった。
実際に関税が導入されたことで、たとえば、東南アジアの工場で組み立てられた製品や、ヨーロッパや日本の特殊素材などが米国に輸出される際のコストが大幅に上昇するというリスクが顕在化した。
これは、米国内で半導体を使用する最終製品メーカーにとっての生産コスト増加も誘発し、結果として米国の消費者にも跳ね返る構造となった。この不確実性を回避するため、多くのグローバル企業は、「チャイナ・プラス・ワン」からさらに進んだ「マルチ・リージョン・サプライチェーン」の構築を加速させた。
具体的には、日本やインド、欧州など、米国との間で比較的通商リスクの低い国々や地域への生産拠点分散が、投資の形で表面化した。
特に、経済安全保障の観点から自国の半導体サプライチェーン強化を目指す日本や欧州連合(EU)の取り組みは、米国の保護主義的な政策によって、図らずも追い風を受けた形となった。米国以外の地域に生産拠点を設けることが、結果として米国の関税リスクを回避する手段となったためだ。
- 世界の半導体市場でなぜインドが注目を浴びるのか? 地政学的観点から考える
- 半導体に100%の関税、トランプ政権発表 米国の地政学的な狙いとは?
- 自動車業界揺らすネクスペリア問題、緩和なるか 垣間見える中国の“ある戦略”
新たな段階に移行していく先端テクノロジー産業
一方、AI、量子コンピューティング、バイオテクノロジーといった他の先端テクノロジー分野においても、地政学的な影響は顕著であった。
AIの基盤となる高性能半導体(GPUなど)を巡る米中間の技術覇権争いは、規制の網がさらに細かくなり、技術の「デカップリング」(切り離し)は不可逆的な流れとなった。各国政府は、自国の技術的優位性を確保するため、研究開発への公的投資を拡大する一方で、友好国間でのみ技術・データの共有を深める「フレンド・ショアリング」の概念が、単なるスローガンから実際の通商・技術協力の枠組みへと進化した。
- トランプ政権のAI推進政策、その戦略的意図と地政学的背景を読み解く
- HuaweiのAI半導体拡大が米中競争にもたらす激震 日本の針路は?
- 対米投資を進める日本のテック企業、その戦略と選択がもたらすもの
今日、先端テクノロジー産業は、これまでの効率性を最優先するグローバル化モデルから、レジリエンス(強靭性)と経済安全保障を最優先する新たなモデルへと移行しつつある。トランプ関税の脅威は、短期的には市場の混乱とコスト増をもたらしたが、中長期的には、企業に対して地政学的リスクを内包したサプライチェーンの再設計を強制し、世界経済のブロック化を加速させる要因となっている。