東京大学(東大)は11月26日、米国航空宇宙局(NASA)のガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」の最新データを解析し、天の川銀河の中心方向から、約20ギガ電子ボルト(GeV)のガンマ線が、角度にして30度以上にぼんやりと広がって放射されているのを発見したと発表した。
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ハロー状に光るガンマ線放射の強度マップ(観測されたガンマ線強度マップから、ハロー以外の成分を除去したもの)。天の川銀河を中心とする銀河座標で表示されている(銀経は銀河面方向に測った経度、銀緯は銀河面から測った緯度。中央灰色のバーの銀緯±10度の銀河面領域は、天体起源の放射を避けるために解析から除かれた領域)(出所:東大Webサイト)
そして、その性質はダークマターのシグナルとよく合致していたことから、天の川銀河を球状に取り囲んでいるとされる「ダークマターハロー」において、2つのダークマター粒子が対消滅してガンマ線に転化していること、またダークマターの正体が“WIMP”であることが示唆されたことも併せて発表された。
同成果は、東大大学院 理学系研究科の戸谷友則教授によるもの。詳細は、宇宙論と素粒子天体物理学を扱う学術誌「Journal of Cosmology and Astroparticle Physics」に掲載された。
ダークマターからの放射を初めて捉えた可能性も
全宇宙のエネルギーの割合として、我々の身体や星々など、人類が観測可能な通常物質は5%に満たない。これに対し、今のところ通常物質とは重力でしか相互作用が確認されていない未知の物質であるダークマターは、約27%と圧倒的に多い。したがって、我々の宇宙は目に見えない物質によって支配されている状態であり、ダークマターを無視することはできないのである。
ダークマターの正体としてさまざまな候補や仮説が提案されているが、中でも有力とされる1つが、未知の素粒子である「Weakly interacting massive particle(WIMP)」だ。ちなみにWIMPとは“弱く相互作用する重粒子”を意味する。
WIMP同士は稀に衝突し、光子などの他の粒子に変わる「対消滅」を起こすと考えられている。その際、GeV以上の高エネルギーガンマ線を放射すると期待されており、ダークマターが密集する天の川銀河の中心方向などが長年観測の対象とされてきた。これは、ダークマターの対消滅に由来するガンマ線の検出を試みるためだ。
しかし、天の川銀河の中心方向のように星が数多く密集し、超大質量ブラックホールも存在する領域からは、天体現象由来の強いガンマ線が発せられることも多いため、そうしたノイズとなる成分を丁寧に取り除き、WIMP同士の対消滅に由来する微弱なシグナルを慎重に探し出すことが不可欠となる。そこで戸谷教授は今回、天体が多く存在する天の川銀河の中心方向から60度の範囲で、銀河面(銀河の円盤部分)に沿った領域を取り除いた上で解析を行ったという。
天の川銀河はおよそ約10万光年と見積もられているが、その10倍もの大きさで周囲をダークマターでできた球状のハローが取り囲んでいると考えられている。今回ターゲットとした範囲であれば、このダークマターハローからの放射が比較的強いと同時に、銀河面からの強烈な天体起源の放射を避けることが可能だ。
ただしガンマ線は、地表では大気に吸収されてしまうため、観測は難しい。そこで今回は、NASAのガンマ線宇宙望遠鏡であるフェルミのデータが使われた。同望遠鏡は2008年に打ち上げられ、今回ターゲットとされた領域のダークマター探査は、最初の2年分のデータを使用した結果が2012年に報告された。しかしそれ以降は、あまり注目されていなかったのが現状だ。
そこで今回の研究では、最新の15年分のデータを利用し、天体起源の放射を慎重に取り除いた上で、ハロー状の放射成分の有無が調査された。その結果、約20GeV付近で、球対称にぼんやり広がった放射成分が発見された。これは、ダークマターハローが放射している場合に予想される形状とよく一致しているという。さらに、この放射は特に強い20GeV付近よりも、エネルギー帯域が低くても高くても急激に弱くなることも明らかにされた。一般に、天体起源のガンマ線はさまざまなエネルギーで比較的均等に放射され、このような強いエネルギー依存性は示さないとしている。
一方、陽子の約500倍の質量を持つとされるWIMPの対消滅から予想される依存性とはよく合致していたとのことで、放射強度から見積もられる対消滅の頻度も、理論予想と概ね合致するという。これらの理由から、今回発見されたハロー状の放射成分は、ダークマター由来のガンマ線の有力な候補といえるとした。
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ハロー状放射のエネルギースペクトル(ハロー状放射の強度をガンマ線のエネルギーごとに示したもの)。約20GeV付近でハロー状放射が特に強くなっている。陽子の約500倍となる500GeV程度の質量を持つダークマター粒子が対消滅し、最初にクォーク中で最も重い「ボトムクォーク」(b)とその反粒子、あるいは弱い力を媒介する素粒子「Wボソン」のペアが生じた場合に予想されるガンマ線スペクトル(赤線・青線)が、データとよく合致していた(出所:東大Webサイト)
もし今回の発見が事実であれば、ダークマターの正体はWIMPということになる。これは、現在の素粒子物理学の標準理論に存在しない新粒子が発見されたことにもなり、まさに天文学・物理学史上の重大な進展といえる。しかし研究チームによれば、最終的に確立するまでには、まだまださまざまな検証や研究が必要とのこと。別の研究チームの独立解析による検証や、天の川銀河のハロー中の矮小銀河など、他の領域からの対消滅ガンマ線の検出などが次のステップとなるとし、今回の成果が、ダークマターの正体解明の最初の突破口となることが期待されるとしている。