新潟大学(新大)と東京理科大学(理科大)の両者は11月7日、極低温の遠赤外域(50μm~150μm)で高い放射性能を維持できる新型「メタマテリアルラジエータ」を開発し、絶対温度50K~100K(約-223℃~約-173℃)で従来の黒色塗料(Z306)を上回る放射率を確認したと共同で発表した。
同成果は、新大 工学部工学科 機械システムプログラムの櫻井篤准教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の太刀川純孝主任研究員、理科大 先進工学部 物理工学科の齋藤智彦教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、熱プロセスを扱う学術誌「Applied Thermal Engineering」に掲載された。
宇宙機の熱設計に新たな指針を与える成果
探査機や宇宙望遠鏡、地球観測衛星などの宇宙機は、真空・微小重力環境において活動するため、熱の伝導や対流がほぼ働かない。そのため、放熱(冷却)を行う唯一の手段には、「熱幅射(赤外線放射)」を放出できるラジエータとなる。
特に、-230℃を下回るような極低温環境では、赤外線の波長が遠赤外域の50μm~150μmへと長くなる。これにより、従来の黒色塗料や酸化物コーティングによるラジエータは半透明化し、放熱性能が著しく低下してしまう。この性能低下が、赤外線望遠鏡や超伝導デバイスなどの宇宙機器における熱設計の大きな制約となっていた。そこで研究チームは今回、この遠赤外域で高い放射率を発揮するラジエータの開発を試みたという。
放射率とは、物体が熱をどれだけ効率よく赤外線として放出できるのかを示す値のことだ。完全放射体(理想的な黒体)の放射率を1とし、実際の材料の放射率は0~1の範囲で表される。この値が高いほど、熱を効率的に宇宙空間へ放出することが可能となる。今回の研究では、金属と誘電体をナノスケールで積層したメタマテリアル構造の設計により、遠赤外域で高い放射率を発揮するラジエータの開発に至った。
メタマテリアルとは、自然界にない構造をナノ~マイクロメートルスケールで人工的に作り出すことで、光や熱幅射などの電磁波を自在に制御できる新しい材料である。金属と誘電体を周期的に配置すると、特定の波長域で吸収や反射特性を任意に設計することが可能だ。
今回のメタマテリアルラジエータの設計には、「等価LC回路モデル」と「FDTD電磁界解析」を併用し、構造パラメータ(厚み・周期・誘電層特性)と、放射性能の関係が理論的に最適化された。このうち等価LC回路モデルとは、金属と誘電体からなるメタマテリアルの微細構造を、電気回路におけるインダクタンス(L)とキャパシタンス(C)の組み合わせとして近似し、電磁共鳴の特性を理論的に解析する手法のことである。構造の寸法や層の厚みを変えることで、放射特性を精密に制御することが可能だ。
またFDTD電磁界解析とは、時間と空間を離散化し、マクスウェル方程式を数値的に解くことで電磁波の挙動を解析する手法である。複雑なナノ構造における光や赤外線の反射・透過・吸収の分布を高精度に計算できる点が特徴とされる。
そして今回の試作と分光測定の結果、従来の宇宙用黒色塗料(Z306)を上回る放射性能が確認されたとのこと。これにより、極低温下でも高効率な放熱が可能な軽量ラジエータが実現された。
今回の研究は、極低温・遠赤外領域における放射制御技術を新たに確立した世界初の成果といい、次世代の赤外線天文衛星を始め、量子センサ、超伝導機器など、極低温で動作する宇宙機器の熱マネジメントに新しい設計指針を提示するものとする。研究チームは今後、実際の宇宙環境を模擬した低温試験や長期信頼性評価を通じ、次世代宇宙ミッションへの応用を目指すとしている。
