アストロバイオロジーセンター(ABC)と国立天文台の両者は10月21日、すばる望遠鏡などを用いた観測により、地球から約55光年離れた赤色矮星(M型星)「LSPM J1446+4633」(以下、J1446)を周回する褐色矮星「J1446B」を発見し、その質量が木星の約60倍、軌道長半径が約4.3天文単位と特定したことを共同で発表した。

  • 伴星型の褐色矮星J1446B(矢印先の点)の赤外線画像

    今回発見された伴星型の褐色矮星J1446B(矢印先の点)の赤外線画像。中心の赤色矮星J1446は、画像解析で白色にマスクされている。右下のバーは10天文単位(およそ太陽~土星間)を示す。(c)鵜山太智(アストロバイオロジーセンター/CSUN)/W.M.Keck Observatory(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、米・カリフォルニア州立大学 ノースリッジ校 物理天文学部の鵜山 太智ポスドク研究員(ABC 研究支援員兼任)を中心に、国内外40名弱の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天文学を扱う学術誌「The Astronomical Journal」に掲載された。

太陽系外の未知の世界を解き明かすヒントに

中心核で水素の核融合を安定して行う星は、「主系列星」と呼ばれる。主系列星は、放つ光のスペクトル型(サイズによって表面温度が異なり、それに伴い放つ光の色も異なる)でO型からM型まで7種類に分類される。天の川銀河で最も多い星は、太陽質量の0.08倍~0.6倍と最も小型で、表面温度が約2000℃~約3400℃と低い赤色矮星だ。これは、およそ4分の3を占めると見積もられている。

赤色矮星は極めて暗いため、太陽系近傍の天体ですらこれまで詳細な観測はあまり行われていなかったが、その7割以上が単独で存在すると推測されてきた。しかし、近年は観測装置の技術的発展もあり、その周囲に「褐色矮星」や低質量星を伴うケースが過小評価されてきた可能性が指摘されており、赤色矮星の周囲の伴星や惑星の統計は未解決の問題となっている。

とりわけ、木星質量の約13倍~約80倍という、惑星と恒星の中間の質量を持つ褐色矮星が伴星として存在する頻度や、質量分布を解明することは、惑星形成と恒星形成の違いや共通点を理解する上で不可欠な要素だ。だが、統計的に赤色矮星の周囲に褐色矮星がどれくらい存在するのかはまだよくわかっていない。

こうした状況の下、研究チームは今回、赤色矮星J1446を周回する伴星の褐色矮星J1446Bを直接撮像で発見。この天体の質量は木星の約60倍、太陽~地球間の約4.3倍(約6億4500万km)という主星に比較的近い軌道を約20年かけて公転していることが明らかにされた。また、赤外線波長で約30%もの明るさの変動が確認され、これは雲や嵐などの惑星大気現象が起きている可能性を示唆するものだという。

今回の発見の鍵は、3つの異なる観測手法を組み合わせた点にある。具体的には、(1)すばる望遠鏡の赤外線分光観測モニタリングによる視線速度測定、(2)すばる望遠鏡と同じハワイ・マウナケア山にあるケック望遠鏡による高解像度赤外線撮像、そして(3)欧州宇宙機関のガイア衛星(天の川銀河の天体の詳細な三次元マップの作成を目的に2013年に打ち上げられ、2025年3月末に運用終了)による精密な位置測定を利用したJ1446の天球面上での加速度測定だ。

これらの観測量を組み合わせてケプラーの法則を利用した解析を行うことで、J1446系の力学的質量とJ1446Bの軌道が精密に決定された。本来、視線速度の観測だけでは質量と軌道傾斜角のパラメータが縮退しているため不確定性が残るが、今回はそこに直接撮像とガイアのデータを加えたことからその問題を解消でき、軌道を精密に求めることに成功した。

  • 1446Bの軌道解析の結果

    J1446Bの軌道解析の結果。(左)ケック望遠鏡の直接撮像結果(右上の青丸)と、ガイア衛星の固有運動加速(赤矢印)から推測された伴星の軌道。横軸と縦軸は、それぞれ天球上での赤経と赤緯(秒角単位)。黒曲線が最も可能性が高い軌道、色付きの曲線は可能性のある他の軌道を示し、色の違いはその軌道に対応する J1446Bの質量を表す(右軸)。(右)すばる望遠鏡の観測(赤点)から推測された主星の視線速度の変動。推測された軌道や視線速度の軌跡は、シミュレーション上の伴星の質量で色付けされている。下パネルはフィッティングの速度誤差を示す。(c)Qier An(UCSB)/ Uyama et al.(2025)(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

特に視線速度観測では、すばる望遠鏡に搭載された赤外線高分散分光装置「IRD」を用いた戦略枠プログラム(IRD-SSP)におけるモニタリング観測中に得られたデータが不可欠だったという。ケック望遠鏡では、地球大気による星像のゆがみを高度に補正する「ピラミッド波面センシング技術」を用いた補償光学装置が今回の直接撮像検出に大きく貢献した。

ちなみにガイア衛星と、その前進であるESAのヒッパルコス衛星の位置天文データを利用した星の加速度情報と、系外惑星の直接撮像を組み合わせて新規天体を検出する手法、さらに質量を精密に制限する手法はこれまでにも確立されていた。しかし今回の研究では、ヒッパルコス衛星ではほとんど検出できなかった暗い赤色矮星に対し、より暗い天体の位置まで精密測定できるガイア衛星のみの加速度情報を伴星軌道フィッティングに適用させた点に新奇性がある。これにより、伴星の軌道や力学的質量を精密に制限することに成功し、初めての褐色矮星伴星の発見事例となった。

今回の発見は、褐色矮星の形成シナリオを検証するための重要なベンチマークとなるという。また、将来的に分光観測を実施することで、この褐色矮星の「天候マップ」を描ける可能性もあるとしている。