大阪大学(阪大)は7月19日、主星を公転しない浮遊惑星候補天体を6個発見し、そのうちの1個は、史上2例目となる地球質量程度であることを発表した。

同成果は、阪大大学院 理学研究科の住貴宏教授、同・越本直季特任助教(常勤)に加え、NASA、ニュージーランドの研究者が参加する国際共同研究チーム「MOA」によるもの。詳細は2本の論文として、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載される予定だという。

惑星系が形成される際、理論的には幾つかの惑星はほかの惑星の影響で軌道を乱されて、主星の重力圏外に弾き飛ばされ、恒星間空間を漂う浮遊惑星になると予想されており、惑星形成およびその進化を知るためには、浮遊惑星がどれくらい存在するのかを知ることも重要だという。

現在、浮遊惑星を発見できる方法として「重力マイクロレンズ法」が知られている。同手法は、浮遊惑星と背後の遠方の恒星が重なることで、短時間だけ弱い重力レンズ効果が発生し、背後の恒星が増光することを利用して浮遊惑星を発見する手法である。

ニュージーランド南島のマウントジョン天文台にて、1.8m MOA-II望遠鏡を用いて同手法による観測を1996年から実施している「MOA」では、これまでに6個の浮遊惑星候補が発見されているが、地球と同等の質量の軽い浮遊惑星は1個しか発見されておらず、それらの質量分布や存在量は不明だったという。今回、長期間の同手法による観測によって、浮遊惑星候補が系統的に探査されることとなり、その質量分布と存在量を見積もることが可能になったという。

MOAでは、天の川銀河の中心方向で毎年約600個の重力マイクロレンズ現象で明るくなった星が発見されている。同現象は、レンズ天体が軽いほど増光期間が短くなる。恒星の場合、増光期間は数週間から2か月程度だが、0.5日以下の短いマイクロレンズ事象は、惑星質量である可能性が高くなるという。

今回の研究では、2006~2014年までの9年間の観測データが系統的に解析され、6111個のマイクロレンズ事象を発見、一定の基準を満たす3535個が選び出された。そのうちの6個が、増光期間が0.5日以下の浮遊惑星候補だったとする。そして、そのうちの1個「MOA-9y-5919」は、増光期間が0.06日(約1時間25分)と特に短く、地球質量程度と推定された。これは、地球質量の浮遊惑星としては2例目となる。数時間という短い増光現象を検出できる確率は低く、2例見つかったということは、地球質量の浮遊惑星がありふれた存在であるということを示唆していると研究チームでは説明している。

  • 地球質量の浮遊惑星のイメージ

    地球質量の浮遊惑星のイメージ (c) NASA/GSFC (出所:阪大プレスリリースPDF)

また、それら発見された全事象を統計的に解析し、浮遊惑星の存在量と質量分布を求めたところ、浮遊惑星は、地球質量のように軽いものほど、より多く存在することが導き出されたともしている。

さらに、浮遊惑星は星1個に対して20個程度(8~44個)が存在することも判明。これにより銀河系には、これまでに見つかっている主星を公転する惑星よりも遥かに多い、1兆個以上もの浮遊惑星が存在すると見積もられるとするほか、10地球質量以上では主星を公転する惑星の方が多いことに加え、それ以下の軽い惑星は浮遊惑星の方が多いことも明らかにされた。軽い惑星は、主星による束縛が弱いため、重い惑星より弾き飛ばされ易いという予想と一致するという。研究チームでは、惑星形成とその進化を理解するためには、主星を公転する惑星だけではなく、浮遊惑星の存在量と質量分布を知ることが重要であり、今回の研究成果はその理解に貢献できることが期待されるとしている。

  • 重力マイクロレンズ現象の概念図)

    重力マイクロレンズ現象の概念図 (c) NASA/GSFC/CI LAB (出所:阪大プレスリリースPDF)

昨年、住教授らは南アフリカ共和国に新たに1.8m PRIME望遠鏡を建設。従来の可視光による観測ではなく、近赤外線で観測するできる望遠鏡で、それにより、より多くのマイクロレンズ事象の観測につながることが期待され、それがより多くの浮遊惑星の発見につながるとしている。

このほか、米国航空宇宙局(NASA)が2026年10月から2027年5月までの間に打ち上げを予定しているナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(NGRST)は、宇宙から重力マイクロレンズ探査を行う予定で、数万個のマイクロレンズ事象を発見し、1000個以上の主星を公転する惑星を発見することが期待されている。今回の研究成果を踏まえると、NGRSTの性能であれば約1000個の浮遊惑星候補を発見できるものと推定されており(そのうち約400個が地球質量程度)、実際にそれらが観測されることで、浮遊惑星の質量分布や存在量がより正確に解明されることとなり、その結果として系外惑星全体の形成過程と進化の解明につながることが期待されるという。

  • 地球質量の浮遊惑星マイクロレンズ事象MOA-9y-5919の光度曲線

    地球質量の浮遊惑星マイクロレンズ事象MOA-9y-5919の光度曲線。横軸は時間(日)で縦軸は増光率。(上段)9年間。(中段)増光部分の拡大。(下段)赤線のモデルからの残差 (出所:阪大プレスリリースPDF)

なお、研究チームによると、今回の研究成果により、現在星を公転している惑星だけでなく、浮遊惑星も含む、形成された全惑星の存在量を測定可能になるとのことで、これにより、系外惑星の形成過程と進化、ひいては人類が住む太陽系や地球の起源の解明につながることが期待されるとしている。

  • 浮遊惑星から恒星までの質量分布

    浮遊惑星から恒星までの質量分布。横軸は質量。縦軸は存在量に比例。緑線は、浮遊惑星。青は、星と褐色矮星。赤線は、恒星、褐色矮星、浮遊惑星の合計。灰色は、主星周りの惑星。ピンクは保守的にみた浮遊惑星の不定性。10地球質量以上では主星周りの惑星の方が多いが、それ以下の軽い惑星では、浮遊惑星の方が多い。従って軽い惑星ほど弾き飛ばされて浮遊惑星になり易いと考えられる。(出所:阪大プレスリリースPDF)