東京大学(東大国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)および東大大学院 理学研究科)、愛媛大学、国立天文台、早稲田大学(早大)、立命館大学の5者は9月18日、すばる望遠鏡が発見した約129億年前の宇宙に存在する2つのクェーサー(超大質量ブラックホール(SMBH))を、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて詳細に観測した結果、それを擁する母銀河が数億年前にすでに大質量銀河へと成長し終えており、星形成活動が急速に停止しつつある、いわば「死にゆく段階」にある天体であることを突き止めたと共同で発表した。

  • 星形成活動が停止期に向かう成熟した銀河とクェーサーの想像図

    (左)星形成活動が停止期に向かう成熟した銀河の想像図。(右)その中心で輝くクェーサーの想像図。(c) Kavli IPMU(出所:Kavli IPMU Webサイト)

同成果は、Kavli IPMUの尾上匡房特任研究員兼Kavli IPMU-KIAA天体物理学フェロー(現・早大 高等研究所 講師)、同・ジョン・シルバーマン教授らを中心に、50名弱の国内外の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

急速な共進化の証拠を新たに発見

宇宙に存在するほぼすべての銀河の中心には、太陽質量の数十万倍から数百億倍ものSMBHが存在すると考えられている。その中で、物質を大量に飲み込んで活発に活動しているSMBHは「活動銀河核」と呼ばれ、特に、自身が属する母銀河全体よりも明るく輝いているものはクェーサーと呼ばれる。

近傍宇宙の観測から、母銀河の質量とSMBHの質量の間には強い相関があることがわかっている。これは、両者はスケールが大きく異なる両者が、互いに影響を与えながら成長してきたことを示唆している。しかし、この関係がいつ、どのように始まったのかは定かではない。

銀河とSMBHの関係性を探るには、遠方宇宙における両者の進化を個別に観測することが鍵となる。しかし、遠方銀河で観測できるのはクェーサーなどの明るい天体に限られ、その強い輝きによって母銀河からの光が遮られるため、その性質を調べるのは極めて困難だ。

そこで研究チームは今回、すばる望遠鏡が2014年3月から2021年1月にかけて実施した、大規模観測プログラム「HSC すばる 戦略枠観測プログラム」で、約129億年前の初期宇宙に発見した2つのクエーサー「J2236+0032」と「J1512+4422」に着目し、JWSTで2つのクェーサーの観測を試みたという。

JWSTの近赤外線分光器「NIRSpec」の高感度データを精査した結果、2つのクェーサーから通常は見られない中性水素の吸収線が検出された。これは、明るいSMBHからの光だけでなく、母銀河由来の光が含まれていることを示す。この吸収線の特徴から、銀河内に若い星が少なく、観測時点より数億年前に起こした爆発的な星形成である「スターバースト」後に成長が停止、または減速していることが判明した。

このような特徴を持つ銀河は、「ポストスターバースト銀河」と呼ばれる。銀河で星の形成が停止すると、寿命の短い大質量星から順に姿を消していく。まず消えるのは、主系列星の中で最大のO型星、それに次ぐB型星であり、これらの星は寿命が1億年にも満たず、宇宙的時間スケールの中では極めて短期間に超新星爆発でその一生を終える。その結果、O型星の青やB型星の青白い輝きが、銀河の光に含まれなくなる。

代わりに銀河の光の主成分となるのが、主系列星では3番目に大型のA型星(白色)、その次のF型星(黄白色)で、これらは寿命が1億年から100億年未満だ。そのため、ポストスターバースト銀河からの光には、これらの特徴が強く現れる。

JWSTの近赤外線カメラ「NIRCam」による多波長観測データも加えて解析した結果、両銀河はそれぞれ太陽質量の600億倍と400億倍という巨大銀河だった。また、J2236+0032については、A型とF型に由来する別の特徴で、スペクトル中に現れる「バルマーブレイク」を捉えることにも成功した。ビッグバンから10億年未満の「宇宙の夜明け」の時代に、このような成熟した銀河がすでに存在したことに、研究チームは驚きを示している。

今回の発見で注目すべき点は、“死にゆく”銀河の中でなお活動を続けるSMBHの存在だ。両銀河は、活動中のSMBHを持ちながらも、星形成活動が静止期に入った大質量銀河として、観測史上最も初期宇宙に存在する天体であり、先行研究では、SMBHの活動が母銀河の成長を抑え、星形成期から静止期への移行を促すと示唆されている。多くの銀河がまだ成長途中にある中で、今回初めてその変化が捉えられた。

研究チームは今回の成果について、初期宇宙において銀河とSMBHがどのように共進化してきたのかを知るための、新たな道を切り拓く知見となるとする。そして今回の発見を皮切りに、研究チームは今後も、取得したJWSTのデータの追解析や、新たな観測計画の検討を進めていくとしている。