東京大学(東大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、量子科学技術研究開発機構(QST)、東京科学大学(科学大)、国立極地研究所(極地研)、北海道大学(北大)は9月11日、探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウ試料などを分析した結果、その母天体であるC型(炭素質)小惑星が10億年以上もの長期にわたり、氷を保持していたことを示す証拠を発見したと共同で発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の飯塚毅准教授、東大 附属宇宙惑星科学機構の橘省吾教授/機構長(東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 兼任)、JAMSTEC 超先鋭研究開発部門の渋谷岳造上席研究員、QST 関西光量子科学研究所の早川岳人上席研究員、科学大 理学院 地球惑星科学系の横山哲也教授、極地研 地圏研究グループの山口亮准教授、北大大学院 理学研究院の圦本尚義教授らを中心とした、国内外90名弱の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
従来見積もりの2~3倍の水が存在した可能性を確認
始原的なC型小惑星は、原始太陽系円盤のスノーライン外側の低温領域で、氷、有機物、鉱物の塵が集積することで形成されたと考えられている。リュウグウも同様に、太陽系外縁の低温領域で誕生し、その後、太陽系の内側へ移動してきたことが、これまでの研究から示唆されている。
C型小惑星に含有される水の歴史は、その熱履歴や化学組成の変化、軌道の変遷を知る手がかりとなり、ひいては地球の水の起源にも重要な示唆を与える。これまでの炭素質隕石やリュウグウ試料の研究から、C型小惑星の誕生から数百万年の間に、集積した氷が溶けて水となり、岩石と反応することで含水鉱物ができたことが明らかにされていた。
一方でリュウグウ試料は、水をほぼすべて含水鉱物の水酸基として保有する。しかし、含水鉱物以外の水がC型小惑星にいつまで存在し、どのように失われたのかは不明だ。そこで研究チームは今回、C型小惑星の水の行方について、ルテチウム-ハフニウム同位体から迫ったという。
原子番号71番の金属元素「ルテチウム」には、天然で安定同位体175Luと、放射性同位体176Luの2種類が存在する。176Luは半減期372億年で、原子番号72番の金属元素「ハフニウム」の安定同位体176Hfに壊変する。このことから、176Lu-176Hf壊変系は年代測定に利用されている。
リュウグウ試料と6つの炭素質隕石を分析したところ、リュウグウ試料とタギシュレイク隕石では、176Luに対する176Hfの存在比が他の隕石に比べて高いことが確認された。その比を年代に換算すると約48億年前となり、太陽系の年齢を大幅に上回る。この異常な年代は、何らかの原因でリュウグウ試料とタギシュレイク隕石の「176Lu-176Hf時計が狂った」ことを示唆するという。
検討の結果、これらの試料が形成されてある程度の時間が経過した後、試料中のルテチウムが液体の水により除去され、176Lu-176Hf時計が見かけ上進んだことが原因と判明した。さらに時計のずれの度合いから、この水の流出時期は、試料の形成から最低10億年後、つまり今から35.6億年前よりも新しい時代と結論付けられた。
-

リュウグウ試料と炭素質隕石のルテチウム-ハフニウム同位体組成。リュウグウ試料とタギシュレイク隕石は48億年前の等時線の上に分布するのに対し、他の隕石は炭素質小惑星の誕生した年代45.6億年前の等時線上に分布する。(c)Iizuka et al., 2025 Natureを一部改変(出所:科学大Webサイト)
小惑星は、惑星より遥かに早く冷えるため、液体の水を10億年も保持することは極めて困難だ。つまり、10億年以上遅れて起きた水の活動は、リュウグウ母天体を破壊したような天体衝突が起きた際、一時的に温度が上がり液体の水が生成された結果と推測された。
含水鉱物中の水酸基、または鉱物の粒間に存在していた氷が、水の源の候補となる。しかし、リュウグウ試料には含水鉱物が分解した痕跡がないことから、氷が溶けたと結論付けられた。そのためリュウグウの母体のC型小惑星は、10億年以上氷を保持し、その後の天体衝突によって氷が溶けて水として流出したことがわかった。
これまで、地球の材料となったC型小惑星は、水を含水鉱物の形で供給したと考えられていた。しかし、今回の研究成果は、C型小惑星が含水鉱物に加えて氷としても水を地球に運んだ可能性も示唆する結果となった。この場合、C型小惑星が保持していた水の総量は、従来の推定量の2~3倍に相当する20~30重量%と見積もられた。
-

リュウグウと母天体の歴史。(上)母天体は、今から45.6億年前に太陽系外縁で誕生し、その後の数百万年の間に水と岩石が反応し、含水鉱物が生成された。(中)それから10億年以上後に発生した天体衝突により母天体内部の氷が溶け、流体活動が発生。(下)天体衝突で破壊された母天体の多様な深さに由来する破片が一部集まってリュウグウができ、その表層付近の岩石がはやぶさ2により採取された。(c)Iizuka et al., 2025 Natureを一部改変(出所:共同プレスリリースPDF)
隕石と地球岩石の同位体組成を比較した最近の研究では、C型小惑星は地球の材料全体の約6%を占めたと推定されている。つまり、地球に供給された水の量は、地球全体の1.2~1.8重量%と概算され、地球海洋質量の60~90倍に相当する。今後、この膨大な水の行方を巡る研究の進展が期待される。具体的には、地球形成時や地球史を通して、どの程度の水が宇宙空間へと失われたのか、どのようにして陸と海が共存できる適量の水が地球表面に残ったのか、地球のマントルや核にどの程度の水(水素)が入っているのかについて、解明が待たれるとしている。
