東北大学は9月3日、スペースデブリへプラズマを噴射し、非接触で減速させる「双方向プラズマ噴射型無電極プラズマ推進機」の開発において、大電力化に加えて、特殊な磁場配位である「カスプ磁場」を導入することで、これまで8mN程度だった減速力を25mN程度にまで向上させることに室内実験で成功したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の高橋和貴准教授によるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
スペースデブリの高効率除去システム実現に前進
地球の衛星軌道には、1957年の旧ソ連による世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ以来、大きくはバスほどのサイズの役目を終えた衛星から、小さい例ではマイクロメートルサイズの剥がれた塗料片や固体燃料ロケットの燃えかすまで、数多くのデブリが存在する。
衛星軌道を周回する物体は、秒速7km~8kmで飛行しており、たとえマイクロメートルサイズのデブリであっても、数多くの衝突はサンドブラストのような効果で宇宙機の表面を劣化させたり、光学機器などに損傷を与えたりする可能性がある。人工衛星や宇宙機、そして宇宙飛行士の命に関わる国際宇宙ステーション(ISS)の安全な運用のため、デブリの除去技術の開発は喫緊の課題だ。
デブリの除去技術は大別して、ロボットアームやネットで直接捕獲する接触方式と、レーザーやイオンビーム、磁力などにより軌道を変更させる非接触式の2種類が提案されている。
その中で高橋准教授が研究を進めているのが、長寿命・大電力電気推進機として期待されている磁気ノズル高周波プラズマ推進機を利用した非接触式の除去法だ。この推進機は、高周波で生成したプラズマを磁気ノズルで加速・噴射して推力を得る電気推進方式の一種である。プラズマに接触する電極を持たないため、大電力電気推進機の候補として研究開発が進められている。
この推進を除去衛星に搭載し、デブリへプラズマ流を照射、その軌道周回速度を減少させることで高度を下げ、大気圏へと再突入させて燃え尽きさせる手法だ。しかし、一方向へのプラズマ噴射では除去衛星自体も反動で動いてしまい、デブリから離れてしまうため、継続的に減速力を与えることが困難という課題があった。
そこで高橋准教授は、反対方向にもプラズマを噴射できる双方向プラズマ噴射型無電極プラズマ推進機を提案。衛星に加わる正味推力を相殺してゼロに保ち、対象物を減速させるという新手法だ。これまでの実験では、作動電力1kW程度で最大8mN程度の減速力を実証していたが、大型デブリの除去に対応するためには、大電力化と高推力化の実現が課題となっていた。
従来の推進機では、プラズマ発生部の磁場は比較的直線に近い形状だったが、今回はカスプ磁場が新たに導入された。カスプ磁場は、2つのソレノイドコイルに逆向きの電流を流すことで形成され、磁力線が尖った形状に見える磁場構造だ。この磁場は、径方向の中心領域では磁場強度がゼロになる特徴を持つため、壁面へのプラズマ損失を抑制する効果がある。これにより、左右対称な磁気ノズル構造を維持しつつ、推進機内部でのエネルギー損失を抑えることに成功し、デブリ模擬物体への減速力を増大が実現された。
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(a)これまでの実験と(b)今回の実験で用いられた磁場配位の計算結果。青線は右向き(デブリ方向)の磁力線、赤線は左向きの磁力線を示す。(c)デブリ模擬物体に与えた減速力と、(d)正味推力の上流側ソレノイド電流に対する依存性。図中A・Bが(a)・(b)に示された磁場配位に対応。(e)磁場配位Bにおける、デブリ模擬物体への減速力(□)と、正味推力(〇)の高周波電力依存性の計測結果(出所:東北大プレスリリースPDF)
デブリ模擬物体への減速力と正味推力の磁場配位では、正味推力をほぼゼロに保った状態でも減速力を与えられることが確認された。また、従来よりも大きな減速力を与えられることも判明した。さらに、大電力条件下での実験では、推進機の正味推力をゼロに保持したまま、デブリ模擬物体へ最大で25mN程度の減速力を与えることに成功。それらに加え、今回の推進方式は、キセノンなど従来の推進剤に比べて入手が容易なアルゴンで作動できるため、低コストでのデブリ除去ミッションが期待されるとした。
今回の成果は、除去衛星がデブリに直接触れることなく軌道を変える非接触式デブリ除去技術の実現に向けた大きな一歩とする。高橋准教授は今後、さらなる性能向上と、実際に除去衛星に搭載可能な構造の推進機の研究開発を進めていくとしている。
