田中貴金属グループの売り上げの7割を支える産業事業

田中貴金属グループは7月31日、2025年7月に創業140年を迎えたことを記念した「140周年プレスカンファレンス」を開催。田中貴金属グループの代表取締役社長執行役員を務める田中浩一朗氏がこれまでの歩みと今後の展望について、田中貴金属リテイリングの代表取締役社長執行役員である田中和和氏がリテール事業について、そして田中貴金属工業の代表取締役副社長執行役員である多田智之氏が産業事業について、それぞれ説明を行った。

  • 田中貴金属グループの代表取締役社長執行役員を務める田中浩一朗氏

    これまでの歩みと今後の展望についての説明を行った田中貴金属グループの代表取締役社長執行役員を務める田中浩一朗氏

  • 田中貴金属リテイリングの代表取締役社長執行役員である田中和和氏

    リテール事業についての説明を行った田中貴金属リテイリングの代表取締役社長執行役員である田中和和氏

  • 田中貴金属工業の代表取締役副社長執行役員である多田智之氏

    産業事業についての説明を行った田中貴金属工業の代表取締役副社長執行役員である多田智之氏

同社における「リテール事業」と「産業事業」は2本柱であり、現在の売り上げ比率としてはリテール事業が30%、産業事業が70%となっている。産業事業を形成する主なグループ会社としては、田中貴金属工業のほか、田中電子工業、EEJA(旧:日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース、2022年に社名変更)が挙げられる。その産業事業の売り上げの内訳としては、20%が田中電子工業が手掛ける半導体のダイ(チップ)とパッケージ基板の電極を電気的に接続する「ボンディングワイヤ」、15%が回路の開閉部や金属同士の接触部位として用いられる「接点」、同じく15%がリサイクル、10%が半導体のほか、HDDなどでも用いられるスパッタリング用の「ターゲット」、10%が「化合物・触媒」、10%がガラス繊維の製造工程における溶融ガラスを線維化するブッシングや、液晶パネル用ガラス基板、光学ガラスの製造装置などで活用される「白金加工品」、5%が電極や自動車用センサなどに活用される「ペースト」、そのほか「めっき液」「接合材」「医療用部材」「その他」がそれぞれ5%となっている。

  • ボンディングワイヤ

    ボンディングワイヤ。HPCやGPUなどはBGAなどのより高性能なパッケージが使われているが、市場に出回る多くの半導体デバイスはリードフレームで供給されており、ダイとアウターリードを接続するためにはワイヤボンディングが用いられる

  • パワー半導体向けボンディングワイヤ

    パワー半導体向けボンディングワイヤ。こちらは耐食性などの特性があるアルミニウムが多く使われてきたが、大電流を駆動させるパワーデバイス向けには電気伝導性に優れた銅が用いられるようになってきている

応用市場別に見ると、40%が民生・産業機器、半導体とモビリティが20%ずつ、リサイクルが15%、水素関連が3%、メディカルが2%となっているという。

循環型社会の実現に重要な貴金属のリサイクルに注力

同事業の説明を行った多田氏は「さまざまな製品と市場に貢献しているのが最大の強み。今後、このバランスを世の中の変化に合わせて変えていく」と、時流に応じた対応を図っていくことを強調する。

中でもリサイクルについては、循環型社会の実現という観点でも重視しており、宝飾品のほか、工場などで生じるスクラップや廃棄物などのリサイクルについても貴金属を活用するという観点からは重要になるとする。例えば、金を1kg得るために必要なCO2換算排出量は鉱山由来の場合で1万2500kgかかるが、リサイクル由来であれば53kgに低減できるなど、環境負荷を低減できることが見えており、同社としても事業内での割合を拡大させ、将来的には主要な貴金属原料すべてをリサイクル由来に転換することを目指したいとしている。

特にプラチナ系のリサイクルの取り組みについては、「世界的にみてもかなりの規模」(同)であり、これらの設備が止まると、国内のさまざまな産業に影響を及ぼすことになるとのことで、積極的な投資を行っていくほか、リサイクルノウハウの海外展開も積極的に推進していくとする。すでに2024年、台湾拠点において新工場を稼働。床面積を6倍に拡大させたとのことで、ボンディングワイヤ、めっき液などの製品供給に加えて、リサイクル事業の強化により、貴金属材料の安定的な供給と資源循環を通じて台湾半導体産業への貢献を目指すとしている。

前工程、後工程のほか、装置などにも貴金属を供給

リサイクルのほか、半導体分野は同社としても伸びる産業との認識を示しており、前工程向けにはスパッタリングターゲットやめっき液を、後工程向けにはボンディングワイヤやめっき液を提供していくとするほか、デバイスの高性能化に対する品質不良の検査装置が重要になり、そうした検査装置にも材料特性に優れる貴金属が活用されているとのことで、そうした新規分野にも積極的に関わっていくとする。また、低消費電力化ニーズや自動車のエレクトロニクス化などで注目を集めるパワー半導体関連については、これまでにないような材料が求められるようになっており、これまでの知見を活用した研究開発を推進し、次世代ヒートシンクなどの実現を支援していくとしている。

  • 田中貴金属グループが半導体産業に向けて提供している主な材料

    田中貴金属グループが半導体産業に向けて提供している主な材料

白金の新たな活用を模索

このほか、将来的には貴金属が多く使われているメディカル分野での成長も目指すとする。狙う市場としては、金の微粒子を活用する形での診断キットと、金属の細線を形成する技術を応用したカテーテルや診断装置向け部品といった医療用部材の2つ。診断キットは現在、帯状疱疹の診断キットなどをOEM供給しているとするほか、医療用部材としては、「欧米メーカーと同じものを作っていても勝てないので、得意の材料開発を通じて新規材料を活用する形で、ワイヤ状のものや精密部品など、微細な領域で存在感を発揮していきたい」(同)とする。

また、主に自動車の排ガス浄化触媒として長年活用されてきた白金については、電気自動車(EV)やエレクトロニクス化の進展などで需要が減少することが予想されていることから、新たな市場創出が求められるとしており、そうした新市場として期待される1つがカーボンニュートラルだという。「イノベーションの創出に向けて、金属工学×化学工学×バイオ工学を組み合わせていく」(同)とのことで、例えばCO2を原料として炭化水素系の燃料を生成するプロセスに貴金属触媒の可能性が期待されているとする。

加えて、半導体分野に向けては次世代の配線材料として期待されるRuに酸化物を添加した有機金属化合物(金属錯体)をCVD/ALD向けに開発したとする。多田氏は、「まだまだ実用化までには時間がかかるが、今後の半導体の高性能化に貢献できるものとなる」としており、白金の持つポテンシャルを引き出していくことで、産業界における白金に対する新たなニーズの創出を図っていくことを目指したいとしている。

  • CVD/ALDによる薄膜や配線形成の原材料となる化合物(プリカーサー)

    CVD/ALDによる薄膜や配線形成の原材料となる化合物(プリカーサー)。さまざまな用途に応じたプリカーサーを用意しており、現在、Ruプリカーサーの開発も進めているという