バイデン前政権下で米国での半導体製造を活性化することを目的として推進された「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」の廃案を、現任のトランプ大統領が連邦議会に要請している。
トランプ大統領は、補助金を出さなくても関税をちらつかせれば、TSMCのように1000億ドル超の追加投資を引き出せるとして、CHIPS法を前政権による税金の無駄使いの典型例として挙げている。法律の廃止は議会の権限であり、大統領の一存ではできないため、代わりにイーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)に指示して、CHIPS法に基づく補助金支給を所轄する事務局のリストラを進めているのと同時に、3月31日には米国商務省内に従来のCHIPS法補助金支給事務局に替わる「米国投資推進局(The United States Investment Accelerator)」を新設する大統領令に署名した。
CHIPSプログラムオフィス職員がレイオフ
3月31日付けの朝鮮日報の報道によれば、DOGEの指示で、米国商務省傘下のCHIPSプログラムオフィス(CPO)が職員の8割を削減(レイオフ)したという。CPOには当初約150人の職員がいたが、8割ということは約120人が解雇か、辞職を勧められたということとなる。
注目すべきは、かつてSK hynixのワシントンD.C.事務所で副社長を務めていたダン・キム(キム・ドンジン)氏も先週CPOを辞任したことだと同紙は伝えている。
同氏は3年前にチーフエコノミスト兼戦略計画・業界分析担当ディレクターとしてCPOに招聘されたが、この韓国のハイテク企業の運営を理解する韓国系アメリカ人の辞任により、Samsung ElectronicsとSK hynixに割り当てられた補助金が計画どおりに進むかどうかの懸念が韓国内で高まっているという。
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CHIPS法による半導体製造強化のための補助金支給先トップ5 (出所:TrendForce)
SamsungはCHIPS法に基づき47億4500万ドルの支給が予定されているが、まだ支払われいない。同様にSK hynixの4億5800万ドルも支払われていない。CHIPS法の補助金は一括支給ではなく、工場の建設状況や建設労働者・工場労働者の雇用状況などに応じて段階的に支払われる仕組みで、TSMCは総額66億ドルのうち、第1弾として15億ドルを受け取ったとされるが、トランプ大統領就任以降、補助金支給に関する政府発表は出ていない。
前政権でCHIPS法を推進してきたレモンド前商務長官は新大統領就任時に辞任。新たに商務長官に就任したハワード・ラトニック氏は、CHIPS法の補助金受領者が米国への投資を拡大しない場合、前政権が約束したCHIPS法の補助金支給を差し控える可能性があることを示唆したと、投資メディアの米Investopediaが4月1日付けで伝えている。同氏は1000億ドルの追加投資を約束したTSMCを他社も見習うよう要請しているという。
なお、商務省内に設立される米国投資促進局は、米国内での10億ドルを超す投資を促進することを目的とした部署で、大統領令には「投資促進局は、CHIPSプログラムオフィスの管理を担当し、納税者に有利な条件を提供し、前政権よりも優れた交渉を行う」と記載されており、CHIPS法に基づく補助金を最小限に抑えて(あるいは補助金なしで)米国への投資を引き出すとともに、すでに補助金の支給が決まっている半導体企業に関しても、TSMCを見習って米国への投資の増額を求めている。