DeepSeekがAIのトレーニングコストの削減に成功したことを踏まえ、今後、AIモデルの広範なコスト削減が進むことでアプリケーションが拡大し、データセンターの導入が促進され、それに併せてデータセンターの相互接続における重要なコンポーネントである光トランシーバの需要が高まることが期待されると台湾の半導体市場動向調査会社TrendForceが予測している。

それによると、400Gbps以上の光トランシーバの2023年の出荷台数は640万台規模であったのが、2024年には2040万台、2025年には3190万台を超すなど、年間成長率は56.5%と高い伸びが予想されるという。

  • 400Gbps以上の光トランシーバ出荷台数の推移予測

    400Gbps以上の光トランシーバ出荷台数の推移予測 (出所:TrendForce、2025年2月)

また、大量のデータ生成がエッジに移行するにつれて、DeepSeekやクラウドサービスプロバイダ(CSP)がAIソフトウェア企業とともにAIの導入を推進すると指摘しているが、こうした動きは工場などの産業施設でのマイクロデータセンターの導入を増やすことを意味しており、その推進には光トランシーバをより高密度化することが求められ、結果として工場当たりの光通信のノード数は3~5倍ほど増加する可能性があるとする。

現在、光通信はAIインフラの重要な技術要素として従来サーバのアップグレードとして400Gbpsの需要が後押しされていることに加え、次世代として800Gbpsおよび1.6Tbpsの光トランシーバの成長も促進されている。

光トランシーバは、レーザーダイオードで光信号を生成し、変調器でそうした光信号に電気信号をエンコードし、光検出器で受信した光信号を電気信号に変換するといった構成だが、高速applicationでは変調機能を備えた(電界吸収変調レーザー)ダイオードが好まれている。ただし、100Gbpsまたは200Gbpsの単一チャネル伝送速度を実現するのは複雑で、大きな技術的障壁がある。このEMLレーザーの主なサプライヤはBroadcom、Coherent、Lumentumなどの米国企業および日本の三菱電機、住友電工などで、その多くが社内で生産している。

  • 伝統的な光トランシーバの構成

    図2:伝統的な光トランシーバの構成 (出所:TrendForce、2025年2月)

また、シリコンフォトニクス・モジュールでは、連続波(CW)レーザーは光源のみを提供し、シリコンフォトニクスは変調と波長分割を担当する。これにより、台湾企業はCWレーザーのサプライチェーンに参入できるようになった。たとえばLandmark OptoelectronicsはCWレーザーの製造で国際的なデータセンター事業者と提携しているほか、LuxNetやTruelightなどはCWレーザーチップ製造の専門知識を活用した事業を展開している。

  • シリコンフォトニクスの構成

    図3:シリコンフォトニクスの構成 (出所:TrendForce、2025年2月)

光検出器も主にBroadcom、Coherent、Lumentum、浜松ホトニクスなどのレーザーダイオードで強みを有している企業が存在感を示しているが、光モジュールの伝送速度が200G程度まで増加するにつれて、光検出器の課題が出てきているようである。光検出器の性能は、入射光に対する感度に左右されるため、材料ドーピングの均一性やエピタキシャル層の構造欠陥などの要因が、光収集の効率に影響することが指摘されているためで、その結果、CoherentやLumentum、浜松ホトニクスなどは200G PDのエピタキシウェハ製造を米国IETに委託している。

DeepSeekの登場によるローエンドGPUの需要拡大でHBMの価格が下がる可能性

台湾メディアDigitimesの調査部門であるDigitimes Researchの予測によると、DeepSeekの登場がローエンドGPUの需要拡大を引き起こし、HBMの価格を下落させる可能性があるという。

それによると、DeepSeekが開発した大規模言語モデル(LLM)にはローエンドGPUが用いられたとされているが、それでもHBMは用いられている。ただし、用いられているHBMの帯域幅の要件は先端チップと比較して低いため、DeepSeekの成功がHBMの価格下落につながる可能性があるとする懸念が業界内で出ているほか、HBMでSK hynixに後れを取るSamsung Electronicsに有利に原卓可能性があるとの見方をDigitimesは示している。

また、DeepSeekの最新モデルで実現したブレークスルーには、NVIDIAのフラッグシップGPUであるH100よりも性能が下のH800を使用したところにあるとDigitimesは指摘している。米国の輸出制限により、DeepSeekは容量は同じ80GBで、HBM3を採用しながらも帯域幅が制限されているH800を選択してV3モデルを開発することとなったが、一方で消費電力はH100の半分程度で済み、これにより製造コストが抑えられ、より費用対効果の高いチップが実現し、HBMの価格を引き下げる可能性がある。

DeepSeekは、クラウドでのH800インスタンスのレンタル料金が1時間あたり約2ドルで、H100の1時間あたりのレンタル料12ドルよりも安いと主張している。ただし、一部の市場アナリストは、DeepSeekがレンタル価格を過大評価している可能性があると考えている。Digitimesの分析によると、DeepSeekはAlibabaとTencentのクラウドサービスを使用しており、H800の実際のレンタル価格は1時間あたり4ドルから7ドルほどで、H100よりも安いが、DeepSeekの見積もりほどではないという。

HBM価格に対する市場への影響

ローエンドGPUがハイエンドGPUの一部に取って代わる動きを見せることで、2つの価格差は予想よりも少なくなる可能性があり、HBMの価格下落に対する圧力は限定的にとどまる可能性がある。しかし、こうしたローエンドGPUの主な利点は、消費電力が削減されることで、ハイエンドGPUと比べて大規模展開しやすいというところにあるといえる。そのため、ローエンドGPUが必要とするHBMの総量は最終的にハイエンドGPUモデルで必要とする量を上回るなど、新たな需要が生み出される可能性があるとする。

こうした低コストなAI半導体の台頭はSamsungにとって課題と機会の両方を提示することとなる。すでに同社はハイエンドHBM市場でSK hynixの後塵を拝していることもあり、ローエンドGPUでシェアを確保しようと、方向転換を図る可能性があるという。同社は長らく、NVIDIAのデータセンター向けL40 GPUに使われるGDDR6メモリの主要サプライヤであったが、HBM搭載のローエンドAI半導体の需要の高まりは、同社の影響を高める可能性があるためだという。

なお、NVIDIA自身が指摘しているように、DeepSeekのイノベーションがAIトレーニングを安価にする場合、推論市場は大幅な後押しを受ける可能性がある。Samsungにとって、これはより有利な長期的なパートナーシップへの扉を開く可能性があるとDigitimes Researchでは予測している。