ニュー・グレンの初飛行
ニュー・グレンの初飛行ミッション「NG-1」は、地球周回軌道への到達を目指すとともに、ロケットの設計の妥当性や、性能を検証することを目的としていた。
また、ブルー・リングの試作機である「ブルー・リング・パスファインダー」を搭載し、飛行実証を行うことも目的としていた。この実証は、米宇宙軍からの認証を得るための要件のひとつだった。
さらに、初打ち上げながら、第1段機体の回収船への着陸、回収を試みることになっていた。あくまでメインのミッションは軌道への到達であり、着陸、回収は二の次と位置付けられていたが、わずかな可能性に期待をかけて、第1段機体には、とある映画の名台詞を引用し「So You’re Telling Me There’s a Chance(チャンスがあるってことだよね)」と命名された。
ニュー・グレンNG-1は、日本時間1月16日17時03分(米東部標準時同日2時03分)、フロリダ州にあるケープ・カナベラル宇宙軍ステーションの第36発射台からリフトオフ(離昇)した。
ロケットは順調に飛行し、離昇から3分12秒後に第1段と第2段を分離した。第1段は着陸に向け、しばらくは正常に降下していたものの、何らかの問題が起き、着陸は果たせなかった。
一方、第2段は2基のBE-3Uエンジンに正常に点火し、軌道へ向けて飛行を続けた。そして、離昇から12分51秒後にエンジンを停止し、地球周回軌道に入った。
その後、第2段エンジンの2回目の燃焼や軌道変更、ブルー・リング・パスファインダーからのデータ受信など、計画していたミッションをすべてこなし、打ち上げは成功した。
ブルー・オリジンのデイブ・リンプCEOは「ニュー・グレンが最初の試みで軌道に到達したことを非常に誇りに思います」と述べた。
「最初の試みで第1段を着陸させるのは、野心的な目標だとわかっていました。私たちは今日の経験から多くを学び、今春の次の打ち上げでふたたび挑戦します」。
ニュー・グレンの今後
ニュー・グレンの次の打ち上げは、今年3月ごろに予定されている。この打ち上げでは、ブルー・オリジンが開発している月着陸船「ブルー・ムーンMK1」の試作機を、月へ向けて打ち上げる。
月着陸船の開発は、ブルー・オリジンにとってもうひとつ、大きく力を入れている分野である。同社は、NASAが中心となって進める国際有人月探査計画「アルテミス」に参画しており、ブルー・ムーンMK1で月面へ物資や機器を運ぶ輸送ビジネスの確立を目指している。2030年以降には、有人月着陸船「ブルー・ムーンMK2」で宇宙飛行士を運ぶことも計画されている。
また、商業打ち上げにおいても市場からの期待は高く、すでにNASAをはじめ、ASTスペースモバイルなどの衛星通信プロバイダーから打ち上げを受注しており、前途洋々である。
ベゾス氏が創業したAmazonが構築中の衛星インターネット・コンステレーション「プロジェクト・カイパー」の衛星打ち上げにも、ニュー・グレンが使われる。
さらに前述のように、国家安全保障打ち上げプログラムの事業者として選定されており、今回の飛行結果の分析などを経て認証が与えられ次第、実際の契約や打ち上げが行われることになっている。
スペースXの好敵手となれるか
現在、商業衛星や軍事衛星の打ち上げにおいては、スペースXのファルコン9と超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」がほぼ独占している。ニュー・グレンにとって、その牙城を崩せるかどうかがこれからの課題となる。
打ち上げ能力は拮抗しており、信頼性の向上に加え、第1段の回収と再使用を実用化し、打ち上げの低コスト化や高頻度化を果たすことができれば、スペースXを脅かす存在となるだろう。また、国際的な商業打ち上げ市場においても、日本の「H3」や欧州の「アリアン6」の強力なライバルとなりうる。
とくに、ニュー・グレンの大きな強みとなるかもしれないのが、そのフェアリングの容積である。直径7mという大型フェアリングは、ファルコン9などの競合を圧倒する広さを誇る。もし、世界の衛星メーカーがこのサイズに適合する大型衛星――すなわちニュー・グレンを前提とし、同機でしか打ち上げられない衛星をラインアップに加え、その市場が拡大すれば、ニュー・グレンが独占的な地位を築く可能性は十分にある。
こうした中、スペースXは次世代ロケット「スターシップ」の開発を進めている。スターシップは打ち上げ能力100t以上、機体の直径は9mでニュー・グレンよりさらに大きく、なにより1回あたりの打ち上げコストは100万ドルとされ、実用化されれば、あらゆるロケットは時代遅れになる。
ただ、スターシップはまだ完全な打ち上げ成功を収めておらず、さらに100万ドルという打ち上げコストは実現困難か、実現するとしても相当未来の話になろう。
一方でブルー・オリジンも、具体的な性能などは不明だが、ニュー・グレンよりさらに大きな巨大ロケット「ニュー・アームストロング」の開発構想をもっている。ニュー・グレンの開発が一段落したいま、その開発が本格化し、スターシップの対抗馬として現れるかもしれない。
ニュー・グレンの打ち上げ成功は、ブルー・オリジンが目指す未来への大きな一歩であり、商業宇宙開発における新たな競争の幕開けを告げるものである。今後、信頼性向上とコスト削減を実現すれば、スペースXを脅かす存在となるかもしれない。ブルー・オリジンが描く未来は、もはや遠い夢ではなく、着実に現実へと近づきつつある。
参考文献
・New Glenn NG-1 Mission Updates | Blue Origin
・New Glenn | Blue Origin
・Replay: New Glenn Mission NG-1 Webcast - YouTube