山梨県は、働き手のスキルアップが企業の収益アップ、賃金アップにつながる「スリーアップ」の好循環の実現を目指している。2022年に経済団体、労働団体、教育機関等からなる「豊かさ共創会議」で議論を重ね、2024年1月に、スリーアップの起点となる働く人のリスキリング拠点「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」(CUU)を立ち上げた。

そして、CUUでは、山梨県内の「働く人のスキルアップ」に役立つ実践的な講座を提供している。

キャリアアップ・ユニバーシティ(CUU)とは?

CUUは山梨県職業能力開発協会と協会から受託されているNTT東日本グループのNTT DXパートナーが事務局として運営し、山梨県のビジネスパーソン・求職者に向け、実践的なスキルアップにつながる講座の提供や、講座の学びを職場で実践するための伴奏支援などを実施している。

  • やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ(CUU)とは

    やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ(CUU)とは

CUUを設立した背景について、山梨県 多様性社会・人材活躍推進局 次長 小林孝恵氏は、次のように説明する。

「スリーアップは、山梨県が目指す「県民一人ひとりが豊かさを実感できるやまなし」を実現するための大きな柱となる政策の一つです。

経済的な豊かさを考えたとき、働く人の生活基盤を整え、安心して働くことができる環境は重要と考えます。一方、企業は収益がなければ賃金アップは難しいでしょう。そこで働く人のスキルアップを生産性向上や収益アップにつなげ、働く人に賃金として還元される、こうした仕組みづくりに取り組んでいるものです。

スリーアップは、経営者と労働者が企業の将来像を共有したり、従業員の意見をくみ取る機会を設けたりするところからスタートします。労使が共益関係となることで、取り組みの効果が高まると考えています。

スリーアップ企業を増やし、山梨県全体に好循環を普及させていきたいと考えています」

  • 山梨県 多様性社会・人材活躍推進局 次長 小林孝恵氏

    山梨県 多様性社会・人材活躍推進局 次長 小林孝恵氏

提供されるスキルアップ講座の特徴

CUUで提供されるスキルアップ講座の企画および運営を委託されているNTT DXパートナー まちづくり事業部 シニアマネージャー 片岡直之氏は、CUUで提供する講座の特徴について、次のように語る。

「山梨県内企業の63%が学びへの投資の重要性は感じているが、行動している企業は6.7%にとどまっています。山梨県は中小企業・小規模企業の割合が99.9%と高く、人材育成にかける費用が少ないという現状があります。『スリーアップの好循環』の実現に向けて、山梨県の産業にあった『ものづくり』『観光』などの講座の他、「経営戦略」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」など、中小企業・小規模企業の実情に即した講座を、経営層、管理者層、リーダー層など階層別に開設しております」

  • NTT DXパートナー まちづくり事業部 シニアマネージャー 片岡直之氏

    NTT DXパートナー まちづくり事業部 シニアマネージャー 片岡直之氏

1講座は2時間を5回、グループワーク中心で行い、課題も出るという。県内企業の事例を題材にしたり、県内で成功している企業の経営者と一緒に学んだりすることで、受講生の当事者意識の醸成を図っている。学んだケースをもとに、自社ではどのように取り組むかを考え、期間中に受講中から実践に着手する『実務実践型』の講座となっていることが大きな特徴だという。

また、受講生にはキャリアコンサルタントによる学びの動機付けを、また、企業には経営サポートする体制を整え、企業のさらなる経営改善力アップにつなげる取組みを支援もしているという。

「『スリーアップの好循環』を実現するためには、県内の各企業が、DXをはじめとした変革に、主体的に取り組むことがポイントとなります。そのため、講座では成功体験を積み重ねてモチベーションの向上につなげたり、受講生同士がつながる場をつくったりして、受講後に職場に戻って実践する時に、悩みを共有したり、助け合えたりできる環境なども提供しております」(片岡氏)

CUU事業の主管であり、事業運営方針の策定や実践的な講座提供に向けた内容チェックと支援を行っている山梨県職業能力開発協会 事務局長 村松淳氏はCCUに寄せる期待について、次のように話す。

「CUUでは、手厚い伴走支援を行うスタッフが整備されているため、受講者のモチベーションが下がらない形で継続できます。インターネット上のコミュニティなど、受講者同士がつながる仕組みも設けているので、研修意欲が高まると考えています。昨今、DXに対するニーズは高いですが、取り組めていない企業もあります。NTT DXパートナーさんは、より実践的で、各受講者の実情に適した研修を展開していただけると思っています」

  • 山梨県職業能力開発協会 事務局長 村松淳氏

    山梨県職業能力開発協会 事務局長 村松淳氏

DX計画を策定して実践できる人物の育成を

デジタル人材の育成に関しては、6月のDX実践講座 【基礎】(3時間)に続き、7月からはDX実践講座 【応用】(150分×5回)を実施した。DX実践の講座は、組織をまとめる実務リーダーを対象にしたもので、講座ではDX計画を策定し、実践できる人物を育成することを目指している。

DX実践講座の講師を務めたNTT DX パートナー地域企業支援事業部 シニアコンサルタント 加藤総氏は、「企業によってDXの進展はバラバラなので、身に着けてほしいDXのスキルが決まっているわけではありません。受講者の方には自社で何が必要かを理解した上で、自身で計画を考えて、それを社内で共有して実践してもらえるように進めています」と語る。

  • NTT DX パートナー地域企業支援事業部 シニアコンサルタント 加藤総氏

    NTT DX パートナー地域企業支援事業部 シニアコンサルタント 加藤総氏

社外の人とのコミュニケーションで新たな気づきが

そして、DX実践講座 【応用】の最終日である9月3日には、宿題で作成した自社のDX実践計画について、4つのグループに分かれ、話し合いを通じた計画のブラッシュアップを行った。

  • DX実践講座 【応用】の様子。最終日である9月3日には、宿題で作成した自社のDX実践計画について、4つのグループに分かれて話し合いを通じた計画のブラッシュアップを行った

    DX実践講座 【応用】の様子。最終日である9月3日には、宿題で作成した自社のDX実践計画について、4つのグループに分かれて、話し合いを通じた計画のブラッシュアップを行った

DX実践計画書には、自社の目指す姿や提供するサービス、主な顧客層といった会社概要のほか、DX計画の概要やDXを推進する上での課題、DXを推進するメンバーが記載されている。グループミ―ティングでは、内容に関する他のメンバーからの質問やアドバイスが寄せられた。そして、他のメンバーからの意見をもとに計画のブラッシュアップを行い、全員がその計画を発表した。

  • グループミ―ティングの様子。各グループには、NTT DXパートナーのメンターも参加し、進行を手助けしていた

    グループミ―ティングの様子。各グループには、NTT DXパートナーのメンターも参加し、進行を手助けしていた

講習に参加した内藤ハウス 羽田尚詞氏は、業務プロセスのデジタル化をDX計画の項目に挙げた。同社は、システム建築・プレハブ、自走式立体駐車場を提供しているが、デジタル化によって、案件の進捗状況の可視化と情報共有を行っていくという。

羽田氏は講習を終えて、「アプローチや整理の仕方が非常に役に立ちました。当社は現在、NTT東日本さんと共創という形でDXプロジェクトが動いているので、それをいかにうまく回していくのか、周りの人をいかに巻き込んでいくのかとかが、私のミッションだと思っています。今回、他の参加した人とお話する中で、システム担当が少ない会社が多く、悩みを共有できた点は良かったです」と、参加した感想を語っていた。

  • 内藤ハウス 羽田尚詞氏

    内藤ハウス 羽田尚詞氏

Katerialの渡辺瑠理氏も、「今回、社外の方と話をする機会を得たことで、自分では思いつかないアイデアをいただいて参考になりました。私は基礎編から参加して、『DXとは何だろう』というところから入りました。最初は難しく考えていましたが、講座を受けることでDXについて理解できました。実践に落とし込む方法で悩んでいましたが、応用編に参加して、社内でやるべきことが具体的になりました」と、講習を振り返った。

Katerialはふるさと納税向けに、果樹やお酒、肉の販売を行っているが、今後はDXによるAIチャットの導入やインスタの更新頻度を向上し、若年層の新規顧客開拓を目指すという。

  • Katerial 渡辺瑠理氏

    Katerial 渡辺瑠理氏

CUUの今後の展開

CUUは、10月からスタートした下期においてもDX実践講座を開催している。下期は基礎編、応用編のほかに、DX計画に基づいて伴走する実践編も計画されている。

  • CUUの2024年下期の講座スケジュール(出典:CUU)

    CUUの2024年下期の講座スケジュール(出典:CUU)

多様性社会・人材活躍推進局 の小林孝恵氏は、今後の講座について、次のように説明した。

「CUUを利用した企業も、受講した人も、『受講の甲斐があった』と実感していただけるような学びの場にしたいと思います。スリーアップの仕組みもバージョンアップしながら成功事例を増やし、スリーアップを県内に広めていきたいと思っています」