日本IBMと三菱UFJ銀行、IIJ(インターネットイニシアティブ)は10月1日、共同で記者説明会を開き、地域金融機関向けに「金融ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」の提供を開始すると発表した。IBMは各社と戦略的パートナーシップを締結し、地域金融機関向け共同プラットフォームを同日から提供開始した。なお、すでに地銀システム共同化グループの「じゅうだん会」と「Flight21」が新共同プラットフォームの採用を決定したほか、地銀システム共同化グループの「Chance」も採用を検討している。

地銀システムの「共同化の共同化」に取り組む

日本IBMでは、2022年に発表した「金融次世代勘定系ソリューション」の中で、システムの安心・安全・安定を求める「守り」の領域は基本機能に特化してスリム化し、各金融機関の戦略を具現化する変化の激しい機能やサービスは、開発生産性の高いデジタル領域に再配置することを目指している。デジタル領域では、日本IBMのデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)の提供を通じて、金融機関の経営改革・デジタル変革の加速化を図っている。

一方、地域金融機関においても経営改革やデジタル変革の推進が加速しており、地域経済を支える金融機関として「攻め」の経営戦略を展開しつつ、中長期でのシステムの生産性、効率性、経済合理性を高め、投資効率に長けたシステム構造への変革、デジタル変革を必要とする戦略領域への投資に重点をシフトしていくことが求められているという。

そのため、日本IBMでは将来的に地域金融機関に求められる柔軟性と継続性を備えた基盤の提供、および地域金融機関の共同化の枠組みを超えた標準化、共通化、共同化による銀行システム全体の変革を検討してきた。

IBMにおける金融戦略のフレームワークはインターネットバンキングなどの「フロントサービス」、情報系システムの「データサービス」、APIといった連携基盤の「デジタルサービス」、基幹系と基幹分散系の「ビジネスサービス」の4つに区分している。

このうち、ビジネスサービスの基幹系は勘定系システムやリアルタイム連携基盤、基幹分散系は対外系ゲートウェイ、チャネル系ゲートウェイ、融資業務システムをはじめとした外部のシステムをつなぐものを指す。

  • 従来のIBMにおける金融戦略のフレームワーク

    従来のIBMにおける金融戦略のフレームワーク

日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は「1990年代にビジネスサービスの部分においてアウトソーシングの考え方が登場し、当時のIT企業はアウトソーシングサービスを多く提供していた。そこから時代が進み、金融機関同士で相互のメリットを活かしていくため、共同化の仕組みが出てきた。その一歩先に進んだものとして金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームに取り組むことにした」と述べた。

  • 日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

    日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

同社は、三菱UFJ銀行とIIJの戦略的パートナーシップに基づく協力のもと、新しい共同プラットフォームとしてビジネスサービスの基幹系に「メインフレーム共同プラットフォーム」および基幹分散系に「分散基盤共同プラットフォーム」を構築し、DSPを含めた「金融ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」として地域金融機関に提供することを決定。

  • 新しい共同プラットフォームを提供する

    新しい共同プラットフォームを提供する

これにより、日本IBMは地域金融機関における既存の地銀システム共同化の枠組みを越えた共同プラットフォームへの移行による「共同化の共同化」を実現し、従来からのシステム安定稼働を維持しながらも、今後の非戦略領域におけるコスト最適化と戦略領域への投資のシフトを推進していく。

新しい共同プラットフォームは、メインフレームや分散系を含むITプラットフォームを、地域金融機関が既存のシステム共同化の枠組みを超え、経営戦略に応じて適材適所かつ選択肢を持って長期にわたり利用できるという。

  • 新しい共同プラットフォームの概要

    新しい共同プラットフォームの概要

三菱UFJ銀行は「メインフレーム共同プラットフォーム」を提供

今回の取り組みの中で、三菱UFJ銀行は新会社としてIBM製メインフレームの一括調達・提供を行う「合同会社礎」(いしずえ)を設立し、地域金融機関向けメインフレーム基盤の共同利用を実現する「地域金融機関向けメインフレーム共同プラットフォーム」を提供する。

三菱UFJ銀行 取締役常務執行役員 CIOの越智俊城氏は「日本IBMとは長年にわたり、地銀システム共同化グループであるChanceにおいて協業しており、分散基盤やクラウド化も含めて地銀システムの共同化に向けて将来像をを議論してきた。また、当行でもメインフレームユーザーとしてシステムアーキテクチャの将来像を検討し、銀行システムの中でも特に安定稼働が求められる勘定系システムについては、地域金融機関でも信頼性と耐用性を持つメインフレームの利用を前提としており、クラウドや分散基盤を活用するIBMの戦略は合理性がある」と話す。

  • 三菱UFJ銀行 取締役常務執行役員 CIOの越智俊城氏

    三菱UFJ銀行 取締役常務執行役員 CIOの越智俊城氏

同行は日本IBMとの協業により新会社を通じて、堅牢かつ高い可用性と継続性が求められる地域金融機関の勘定系システム向けに、IBMのメインフレーム基盤を他業種との共同利用ではなく、地域金融機関専用の共同プラットフォームとして提供。データセンターは三菱UFJ銀行のデータセンターを利用する。

メインフレーム共同プラットフォームでは、共同化の枠組みを超えるものとしてメインフレーム基盤のハードウェア・ソフトウェアの共同利用を実現し、重要な社会インフラである地域金融機関の勘定系システムの信頼性と継続性の維持、それらを担う人材維持や経済合理性を確保しつつ、地域金融機関の変革を支える土台を構築するとともに、メインフレーム活用をより持続可能な形に発展させていく考えだ。

  • 三菱UFJ銀行 取締役常務執行役員 CIOの越智俊城氏

    メインフレーム共同プラットフォームの概要

IIJは「分散基盤共同プラットフォーム」と閉域接続のネットワークを提供

一方、IIJとは金融機関に求められる品質・要件を確保しながら、市場の変化への対応や、柔軟性や拡張性が求められる業務向けに、IIJのデータセンターから「地域金融機関向け分散基盤共同プラットフォーム」を提供する。

これにより、分散基盤においても共同化の枠組みを超えた基盤資源や運用の効率化が実現できるという。また、運用センターや外部と遅延なく安全に接続する地域金融機関専用の全通信を閉域接続する「プライベートネットワーク・バックボーン」を構築し、ネットワーク資源や運用の効率化を図るとともに、セキュリティや認証機能の提供や今後のさまざまなクラウドサービスへの接続柔軟性の向上を図る。

  • IIJの役割

    IIJの役割

インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員の村林聡氏は「今回の取り組みはプライベートネットワーク・バックボーンを中心にオープン系システムのデータセンター提供など、当社の技術・サービスが金融システムの次世代化とネットワーク化に貢献できると確信している」

  • インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員の村林聡氏

    インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員の村林聡氏

日本IBMは、三菱UFJ銀行およびIIJとの協業のもと、共同プラットフォームを含む金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームの提供を通じて、地域金融機関や関連する多くの企業や団体とともに、地域金融機関の経営改革やデジタル変革の推進に貢献することを目指す。

また、地域金融機関の次世代勘定系ソリューションの策定や構築に加え、これまでの地銀システム共同化の枠組みを超えた新たな協業の枠組みの展開を地域金融機関とともに推進していく方針だ。