アドバンテストは2月28日、同日開催の取締役会において、代表取締役の異動について決議し、2024年4月1日付で代表取締役 兼 執行役員社長 Group CEOを務めてきた吉田芳明氏が取締役 会長に就任するほか、代表取締役 兼 執行役員副社長 Group COOを務めてきたDouglas Lefever(ダグラス・ラフィーバ)氏が代表取締役 兼 経営執行役員 Group CEOに、代表取締役 兼 執行役員副社長 Group Co-COOの津久井幸一氏が代表取締役 兼 経営執行役員社長 Group COOにそれぞれ就任することを発表した。

同日夕方に開催された記者説明会にて吉田氏は、「CEOになって7年間。その間、半導体産業の成長と歩調を併せて順調に成長を続けてきたと思っている。(2018年度から2027年度を見据えた)グランドデザインの策定からスタートし、第1期中期経営計画、第2期中期経営計画と通算7年にわたって、2人(ラフィーバ氏と津久井氏)と1つのチームとして経営してきた」と、これまでを振り返った。

  • 吉田芳明氏

    記者説明会にて今回の人事について説明を行ったアドバンテスト代表取締役 兼 執行役員社長 Group CEOの吉田芳明氏。2024年4月1日付で取締役会長に就任予定

今後の体制としては、執行の最高責任者であるグループCEOをラフィーバ氏に、日本の固有の業務執行などの役割を津久井氏に、そして吉田氏自身は執行権のない会長と3人で役割を分担する形となるという。

次なる成長とグローバル化を見据えた新人事

こうした人事に至った背景について、同社取締役で、指名報酬委員会委員長を務める占部利充氏は、「企業である以上、有事の際の代替を考えており、吉田CEOの在任が4年を経過した2021年ころから、(次世代へのバトンタッチに向けた)本格的な検討を進めてきた。吉田氏は買収したVerigy(旧アジレントからスピンオフした半導体テスター企業。2011年にアドバンテストが買収)なども活用して、現在の成長軌道に乗せるなど、その手腕を取締役会は評価しているが、次のステージに向けてもう一段の成長を期待することを目指し、在任6年目ころから、状況を見ながら、次世代へのバトンっタッチをいつでもできるような準備を進めてきた」とするほか、「2020年ころから、社外役員を中心に、CEOや経営幹部の評価を体系的に蓄積する作業を進め、事業面、人材面の課題をCEOと役員が共有して議論できる土壌構築を進めてきた。そういうことがある程度進んだ2022年に、外部の専門家を入れて、内部で蓄積された情報を外部の目で整理してもらい、次期経営チームはどういう要件が必要かを指名報酬委員会にて叩き台を作り、それを取締役会で確認するという作業を続けてきた」と今回の人事は周到に準備してきたものであると説明。かつ、「アドバンテストの内部にも候補者がおり、これまでの評価に加えて、外部の人材市場も含めて、外部目線での評価を進め、社内外両方で経営を委ねられる人材の検討を国内外の関係なく行ってきた結果、ラフィーバ氏と津久井氏の組み合わせを上回るものがないという結論を得た」(同)とのことで、この2人を軸に、役割の明確化などを2022年の秋ごろには指名報酬委員会で打ち出し、それを取締役会で合意を得ており、交代のタイミングを見計らっていたとしている。

実際、同社は2024年度から新たな中期経営計画をスタートさせる予定で、その遂行にあたるためのトップの交代という意味合いが強いとしている。

この人事に伴い、ラフィーバ氏は、代表取締役グループCEOとしてアドバンテストグループ全体を見ることとなる。一方の津久井氏は、グループCOOならびに日本の社長として、日本ならびに東南アジアを見ていく形となり、それを当面の間、吉田氏が会長としてサポートしていくとしている。ただ、吉田氏は、「ラフィーバ氏にグループCEOをお願いするたけで、その上から口を出すのは良くないと思って、執行役にはとどまらなかった」と説明。吉田氏は取締役会の議長としての仕事は担当するとしており、これまで自身1人で行っていた取締役会の議長、グループCEO、代表取締役社長の3つの役割をそれぞれ別個に分けた形となる。

  • ダグラス・ラフィーバ氏

    2024年4月1日付で代表取締役 兼 経営執行役員 Group CEOに就任するダグラス・ラフィーバ氏。同氏は日本には駐在しないという

占部氏は、この陣容を「一言で言うと、国籍や駐在地に関わらず、アドバンテストの経営課題に取り組みためのベストなチームを検討した結果」としており、今後の大きなポイントとなる生成AIが中心となって起きてくるであろう半導体産業の変革の中で高い成長を実現できる体制であり、かつ地理的にも事業内容的にも拡大しており、複合的な事業体になりつつある現在のアドバンテストグループを率いて、日本生まれの企業としての強み、インテグリティに含まれる誠実さや連帯感などを体現して求心力を発揮できるチーム体制を考えた場合、ラフィーバ氏と津久井氏の2人が率いる体制がベストという判断になったと説明する。

2人ともキャリアのスタートはエンジニア

ラフィーバ氏は入社して1998年にAdvantest Americaにエンジニアとして入社して以来、26年にわたってVerigyのM&Aや事業戦略推進のほとんどすべてに関わってきた人物。吉田氏は、ラフィーバ氏を「自分以上にアドバンテストの技術、人材、顧客を知っている人物で、自分以上にアドバンテストを愛している人物」と評価。同氏のリーダーシップにより、アドバンテストがもう一段高いところに飛躍できると思っていると期待を述べている。

一方の津久井氏は1987年にアドバンテストに入社して以来、37年にわたって務めてきた。自身のキャリアの半分を計測器事業での開発や営業で過ごしてきたとするが、その後、2014年にラフィーバ氏とともに執行役員に就任。以降、グランドデザインや中期経営計画の策定などを協力して取り組んできており、吉田氏も「ラフィーバ新グループCEOの右腕となって幅広いサポートができる人物」としている。

  • 津久井幸一氏

    2024年4月1日付で代表取締役 兼 経営執行役員社長 Group COOに就任する津久井幸一氏

ラフィーバ氏は、新グループCEO就任に当たって、「重大な責任を伴う任務となるが、顧客、取引先、株主、社員、関係者、すべてのステークホルダーに対して全力を尽くす」と意気込みを語るほか、「(アドバンテストは)日本が創業の地であり、その企業文化は未来永劫、切っても切り離せない。半導体産業に身を置く企業として、グローバル化が求められているが、一方で企業のルーツを守る必要があることも理解している」と今後も日本という地域を重視する姿勢に変わりはないことを強調。「近年、吉田氏の強いリーダーシップの下、好調を維持してきたが、今後も常に勝ち続ける必要がある。そのためには、優れたソリューションを、必要な時に、適正な価格で顧客に届ける必要がある」とし、今後、半導体のテスト課題の解決に向けた役割が増えていくとの認識を示し、テストフロー全般で関わっていくことが必要になってくるため、より顧客や取引先との密接な関係構築とそれに見合うだけの投資が必要との見方を示し、「今後も市場のニーズに歩調を合わせつつ、未来志向でこれまで以上に大きなことを成し遂げていきたい」と抱負を語った。

また津久井氏は「私のミッションは明確で、ラフィーバ氏を最大限サポートしていくこと」とする一方、「その中でも日本法人のトップという役割と、アジアの顧客やサプライヤのサポートなどへの対応も行っていくことで、ラフィーバ新グループCEOもアジアの顧客なども担当するが、よりグローバルなグループ経営に専念できるようになる」とし、そうした状況の中において日本人ではないCEOだからこその強みも最大化できるとの思いを語っていた。さらに、「アドバンテストの強みは、社員も経営陣も含めたグローバルのチームワーク。変化が激しく、複雑な半導体産業の中で、これまでも独自のグローバル経営体制を築き上げてきた。今後も新グループCEOの下、さらなる進化を目指して、努力していきたい」と抱負を語った。

吉田氏はラフィーバ氏の人選にあたって、激変する半導体産業の中にあって、すでに同社の売り上げの大多数が海外からによるものであることに触れ、「アドバンテストの強みは技術であり、顧客であり、サポートする力。今後の半導体産業で何が起こるかというと、(アドバンテストは)日本の企業であるが、日本がこの変化を先取りできる一番の場所ではないと思っている。米国からイノベーションがやってきたり、中国や欧州などから来る可能性もある。そういう情報をしっかりと取り込める必要がある。日本にいる社長が一番情報を持っているかというとそうではなく、世界の顧客とやり取りしている人の方が情報を持っていると思っている。そういう意味ではラフィーバ氏が社内外に向けて一番コミュニケーションができている人物」である点も選抜の評価の中にあったとし、実際にVerigyの買収の際は、吉田氏が経営企画部長として戦略策定などの裏方をやっているとき、ラフィーバ氏が米国での承認取得に向けてワシントンD.C.に通って司法省などとの交渉を行ったり、Verigyとの交渉などに奔走。その後も米国企業の買収なども先頭に立って交渉し、アドバンテストへのインテグレーションなどもやってきた経緯も踏まえ、そうした点でも最適な人物であるとしている。

なお、ラフィーバ氏は、新たな体制について「津久井氏とは実に長い時間、肩を並べて仕事をしてきた関係であり、いろいろな意味で頼っていきたい。国内の事業やさまざまなオペレーションの遂行といった意味では、まさに右腕として信頼している」と、津久井氏に全幅の信頼を寄せていることを強調。急速に変化する半導体産業で激しい競争を繰り広げるグローバルの顧客たちに2人がかりで対応していくことが重要との認識を示し、顧客の声にこれまで以上に耳を傾け、顧客のロードマップの実現に対して日本企業としての高いすり合わせ能力がこれまで以上に必要になるとし、日本で生み出された価値を日本の外に持っていくことで、そうした対応を実現していきたいとしていた。

  • 占部氏、津久井氏、ラフィーバ氏、吉田氏

    左から同社取締役で指名報酬委員会委員長を務める占部利充氏、津久井氏、ラフィーバ氏、吉田氏

  • 津久井氏とラフィーバ氏

    握手を交わす津久井氏とラフィーバ氏