“100年に一度の大変革期”というキーワードからだけでも、自動車業界を思い浮かべる人は多いだろう。カーボンニュートラルへの要求の高まりを受けた自動車の電動化や、あらゆる交通課題を解決するための自動運転システムの実現に向けた技術開発が進められる近年は、モビリティ社会の構築に向けた動きが急加速している真っただ中だ。

そうした業界の変革に伴い、新たな進化を生み出すための技術、そしてそれらを駆使してイノベーションを生み出す人材が求められることになる。とはいえあらゆる業界で人手不足が叫ばれる昨今においては、先進的な技術を身に着けた技術者を積極的に育成していく必要があるという。

モノづくりに関わるさまざまな業界に向け、データの活用によるイノベーションの可視化やシームレスな連携を可能にする「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を提供しているダッソー・システムズも、次世代モビリティ人材の育成に取り組む企業の1つだ。ソフトウェアベンダーの同社が、なぜモビリティ社会実現を見据えた人材育成を進めるのか、そしてどのような取り組みを進めているのか。変革の時代に果たすべき役割について、担当者に話を聞いた。

  • ダッソー・システムズはどのようにモビリティ人材を育成するのか

    モビリティ社会の実現に向けた技術開発が加速する中、ダッソー・システムズはどのようにして人材を業界へと送り出すのか

人材育成に向けたパーパスを掲げるダッソー・システムズ

ダッソー・システムズは、設計やエンジニアリング、さまざまな解析やシミュレーションに加え、生産やマーケティングまでも一貫して管理できる3DEXPERIENCEプラットフォームを提供する、いわゆる“ソフトウェアの会社”。「製品・自然環境・人々の生活」を調和させるため、イノベーションによって人々や社会に役に立つことにこそ存在意義がある、という信念が先導する“パーパス・ドリブン・カンパニー”として事業を展開している。

そのパーパスを源流として進められているのが、「Workforce of the Future」と銘打った活動だ。この取り組みでは、未来の人材育成に貢献することを目指し、学生向けのハッカソンや若手社員・インターン生のネットワーキングなど、さまざまな企画が実施されてきた。また学生育成のための施策には、大学などの教育機関向けに提供している「3DEXPERIENCE for Education」もあり、教育現場でも3D CADやシミュレーションなどといった技術を用いることで、現場で価値を創造できる人材になるための経験をもたらしている。

ダッソー・システムズがこうした若手人材の育成に取り組む背景には、「テクノロジーの進歩が加速する中で、技術のトレンドも変化し続けている」ことがあると担当者は語る。同社が提供するソフトウェアを活用するためには、エンジニアに対するトレーニングを行っていくことが当然必要になるが、その期間として1~2年を要する間にも技術が進化しており、時間をかけた教育では最新のトレンドを活用できるとは言い難い。そのため、ユーザーが“自分のもの”として最新ツールを活用し、CADなどのデータを最大限活用することでこそ価値を発揮できることから、早い段階からダッソー・システムズのソフトウェアに触れさせるための取り組みが重要だとする。

また、データやAIなどの活用によって省人化・無人化を目指す技術開発が盛んにおこなわれているが、その開発を行う、あるいはその実現に必要なデータを選択するのは、結局“人”である。そのため同社では、ソフトウェアの開発だけに終始するのではなく、それを使ってイノベーションを起こす人材の教育を重視しているとのことだ。

そして担当者は、元々は製造業を中心としたマクロ的な技術開発の展望を整理したとき、大変革の途上にある自動車業界で顕在化しつつある多くの課題と共通している部分が非常に大きいことに気付いたとのこと。そしてダッソー・システムズでは、モビリティ業界の革新に向けた取り組みも強化していったという。

欧州ではスタートアップ支援団体を共同で設立

モビリティ業界における未来人材の育成を強化するダッソー・システムズは2021年、グローバル規模でインパクトを与える大きな動きを見せた。それは同社に、アトス・ルノーグループ・STマイクロエレクトロニクス・タレスを加えた4社による新たなエコシステム「ソフトウェア・リパブリック」の設立だ。

同団体は、新たなインテリジェントモビリティを実現するためのオープンイノベーションを活発化させるため、さまざまな業界から大手企業が集結。創造的なアイデアを持つスタートアップに対して、インキュベータとしてさまざまな支援プログラムを実行していくという。

  • 欧州5社が共同で設立した「ソフトウェア・リパブリック」

    ダッソー・システムズをはじめとする欧州5社が共同で設立した「ソフトウェア・リパブリック」(出所:ダッソー・システムズ)

“スタートアップ大国”とも呼ばれるフランスを本拠地とするソフトウェア・リパブリックでは、すでに30以上のプロジェクトが進行し、そのうち4つのプロジェクトは実証段階を終えて次のステージへと進むなど、順調に成果が生まれている。モビリティ自体の開発はもちろんのこと、充電インフラや測位システム、あるいは交通量のモデリングシステムなど、モビリティ社会の実現に寄与するさまざまなイノベーションが創出されている。

このようなスタートアップ支援において、「3DEXPERIENCEプラットフォームは非常に適したツールだ」と担当者は語る。というのも、このソフトウェアでは製品が出来上がるまでの過程をそれぞれサポートするツールが包括的に揃っており、段階に応じてその充実度を変化させることが容易だ。例えば、開発の初期段階においては3D CADに関するツールだけを用い、のちにシミュレーションを追加し、さらには量産に向けてプラットフォーム全体を採用することもできる。加えてクラウドベースで提供できるため、ユーザー数も徐々に増やしていくことが可能であり、こうした特徴は、まさに拡大の途上にあるスタートアップにとって効率的であることから、ダッソー・システムズはスタートアップ支援における同社の重要性が大きいとする。

年代やバックグラウンドを問わず、さまざまな人が関わり合いながら柔軟な発想を組み合わせることで、前例のない発見へとつながるのが、スタートアップの大きな強みだ。ダッソー・システムズは各社と協力しながらスタートアップ支援をグローバルに進めることで、次世代モビリティ社会に新たな価値を提供していくことを目指しているとのことだ。