ISSCC極東委員会は11月21日、米国にて2024年2月に開催される半導体関連の世界最大規模の国際学会「ISSCC 2024」に関する事前説明会を開催。開催概要や論文の傾向などについての説明を行った。
ISSCC ITPC Far East Regional Subcommittee(ISSCC極東委員会)は11月21日、米国にて2024年2月18日から22日にかけて開催される半導体関連の世界最大規模の国際学会「ISSCC 2024」に関する事前説明会を開催。開催概要や論文の傾向などについての説明を行った。
ISSCCの論文委員会は以下の12のサブコミッティ(技術分科会)で構成されており、各国の大学や研究機関、企業などから投稿された論文は、該当する分科会に振り分けられ、採択の審査が行われる。
- アナログ(センサ):ANA
- データコンバータ:DC
- デジタルアーキテクチャ:DAS
- デジタル回路:DCT
- イメージャ/MEMS/医療/ディスプレイ:IMMD
- セキュリティ:SEC
- メモリ:MEM
- パワーマネジメント:PM
- RF:RF
- テクノロジディレクション:TD
- ワイヤレス通信:WLS
- ワイヤライン通信:WLN
今回、初めてハードウェアセキュリティを扱う「SEC」が新設。代わりに、ISSCC 2023まで設置されていた「機械学習(ML)」が消滅している。これは、ある程度、当該分野の論文が継続して集まるようになり、分科会の役割としては終えたとISSCCが判断した結果で、今回からはMEMやDASといった技術的に関連する分野に論文に応じて振り分けることとなったという。
今回のテーマは「ICs FOR A BETTER WORLD」で、8件の招待講演を含む34件のテクニカルセッション、4件の基調講演、5件のイブニングイベントのほか、Educational Sessionsとして、10件のチュートリアル、6件のフォーラム、現在のホットトピックスを扱う1件のショートコースがそれぞれ用意される。
投稿論文数が過去最多で採択論文数も増加させるも採択率は低下
毎年の採択率が30%前後と狭き門として知られるISSCC。前回のISSCC 2023では応募629件中、採択されたのは198件で採択率は31%。ISSCC 2024では応募が前年比39%増の873件と過去最多を記録。これを受けて、時間的な工夫などを行うことで採択論文数も同18%増となる234件まで増加させたというが、採択率は26.8%と過去最少の値を記録することになったとしている。
ISSCCでは、今後も投稿数の増加トレンドが継続するのかどうかは不透明としつつも、今回、一気に論文数が増加した背景には、アジア(Fae Ease:FE)が前年から165件増加したことが大きいとする。北米(North and South America:NA)も139件から202件に、欧州(EU)も99件から115件へと伸ばしているものの、アジアの伸びに比べると圧倒的に少ないことが分かる。
また、採択論文を地域別にみると、FEが148件、NAが57件、EUが29件となっており、FEが3年連続で(99→130→148)と増加傾向にある。一方、NAは昨年、42件と記録的な低迷を記録することとなったが、今回はそこから57件まで戻してはいるものの、それまでの70件を超えていた状態までは戻ってきていない。
採択論文の第一著者が所属している地域・国で調べると、世界で21か国/地域となっており、内訳はFEが韓国、台湾、中国、日本、マカオ、香港、シンガポール、インドの8か国・地域、NAが米国、カナダの2国、EU(EMEA)がオランダ、スイス、ドイツ、イタリア、フランス、ベルギー、アイルランド、英国、ノルウェー、UAE、イスラエルの11か国となっている。
採択論文を所属組織別でみると、企業が22機関、研究機関が6機関、大学が65機関となっており、その内2件以上の発表が予定されているのは企業が8機関、研究機関が2機関、大学が33機関で、日本からは企業としてはルネサス エレクトロニクス、大学としては東京工業大学(東工大)がそれぞれ名を連ねている。
アジアをけん引する中国と韓国
全234件中148件と過半を占めるアジア地域。テクニカルセッションの中で、アジアからの論文が全体の70%以上を占めるのは12セッションで、これまでもイメージセンサなどで強みを発揮していたのが、RF高周波やデータコンバータなどでも強みを見せてきており、中にはすべてのセッションがアジアからのもので占められるものまで出てきたとする。
アジアの中での日本からの採択件数は11件。内訳は前年と比べ、大学が2件減の4件、企業が2件増の6件、研究機関が1件増の1件となっているが、この10年で採択件数は半分近くまで落ち込んでしまっている。また、発表機関別でみると、東工大とルネサスが2件ずつ、産業技術総合研究所、信州大学、TSMCデザインテクノロジージャパン、マイクロンテクノロジー、NTT、村田製作所、慶應義塾大学が各1件ずつとなっているほか、連名として愛知製鋼、金沢工業大学、東京大学、パイクリスタル、ソニーセミコンダクタソリューションズ、NTT、TSMCデザインテクノロジージャパンなどの名前が論文に記載されている。
このほか、アジアの中で存在感を示すのが韓国勢と中国勢だという。韓国のSamsung Electronics、KAIST(韓国科学技術院)ならびに中国のマカオ大学、清華大学の4機関は10件以上の採択論文数で、この4機関だけで採択論文数全体の2割程度を占めるほどの存在感を示している。
ISSCC 2024 Far East Associate Secretaryを務める宮地幸祐氏は、あくまで個人的な見解としながら、韓国勢については「Samsungを中心に動いているほか、KAISTも博士の学生を集中的に集めており、うまく存在感を示せている。国の規模に対して採択件数の多さは驚異的と言える」とするほか、中国勢については「マカオ大学や清華大学など、特定の大学に有力な教員が集まっていて、そこを中心に研究を加速させている」との見方を示している。
なお、宮地氏は、「ISSCC自体、成長を続けている学会で、新規プレイヤーも増えており、活気も満ちている。産業のトレンドを引っ張っている学会だと自負しており、ここから出てくる将来技術を楽しみに待っていてもらいたい」と、最先端の半導体研究の成果が次々と発表されることを強調していた。実際、発表論文の中には3nmプロセスを活用したデジタルLDOレギュレータや4nmプロセスを活用した3.4GHz動作の5G向けSoCといった最先端プロセスを活用したものや、高密度化メモリ技術なども予定されているなど、ようやく商用製品にも適用が始まった程度の先端プロセスを活用した研究も多数報告されるとしている。
2023年12月4日訂正:記事掲載当初、アジアからの論文投稿数につきまして「195件」と記載させていただいておりましたが、ISSCC極東委員会より、正しくは「 165件」であった旨の連絡をもらいましたので、該当箇所を修正させていただきました。