理化学研究所(理研)と東京大学 国際高等研究所東京カレッジは11月14日、室温で熱流による「スキルミオン」と「アンチスキルミオン」との相互変換に成功したことを発表した。
同成果は、理研 創発物性科学研究センター(CEMS) 電子状態マイクロスコピー研究チームのヤシン・フェミ 基礎科学特別研究員、同・于秀珍チームリーダー、CEMS 創発現象観測技術研究チームの進藤大輔チームリーダー、CEMS 強相関物質研究グループの軽部皓介上級研究員(研究当時)、同・田口康二郎グループディレクター、CEMS 十倉好紀センター長(理研 CEMS 強相関物性研究グループ グループディレクター、東大卓越教授/東大 国際高等研究所東京カレッジ兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
スキルミオンは、固体中の電子スピンによって形成される渦状の磁気構造体であり、磁気渦の幾何学的な性質を特徴付けるスピンの「巻き数」に相当する数であり、スピンが円を1周(公転)する間に、スピン自身がどれだけ回転(自転)したかを表す数である「トポロジカル数」が「-1」であり、安定な粒子として振る舞うことが知られている。その大きさは通常、数十~数百nmほどで、低電流で駆動できることから、省電力デバイスなどへの応用が期待されている。一方の反渦状の磁気構造体であるアンチスキルミオンはトポロジカル数が「+1」で、スキルミオンの反粒子と考えられており、近年、新しいトポロジカル構造として注目されるようになってきた。
これまでの研究から、スキルミオンは温度勾配による熱流で駆動できることが実証されていたが、アンチスキルミオンの熱流での駆動は確認されていなかったという。そこで研究チームは今回、室温においてスキルミオンとアンチスキルミオンを生成可能な磁性体である、鉄(Fe)・ニッケル(Ni)・パラジウム(Pd)・リン(P)からなる「(Fe0.63Ni0.3Pd0.07)3P」(FNPP)を用いて、熱流下のスキルミオンとアンチスキルミオンの動的振る舞いを実空間で観察することにしたという。
実験では150nmのFNPP薄板を成形した後、二酸化シリコン(SiO2)の薄板にヒータ線(白金)を取り付け、SiO2薄板がFNPP薄板の一端に接触するようにセット。その室温が保持されたSiO2薄板に絶縁材「TEOS」を接続し、同絶縁材がFNPP薄板の他端に接触するようにして、ヒータ線に電流を流すことで、FNPP薄板においてSiO2薄板の接続部からTEOS接続部にかけて、高温から低温への温度勾配をつけることを可能とした。
FNPP薄板に垂直に450mTの磁場をかけた後、磁場を徐々に下げてゼロしていったところ、FNPP薄板中にスキルミオンを生成することに成功したとするほか、ヒータ線に電流を流した状態でのスキルミオンの変化をローレンツ電子顕微鏡で観察したところ、FNPP薄板中の温度勾配が大きくなるにつれて、スキルミオンはアンチスキルミオンに変化し始めることを確認したとする。また、FNPP薄板に垂直に439mTの磁場をかけると同時に温度勾配を変化したところ、熱流によりアンチスキルミオンがスキルミオンに変化することも確認したとする。
さらに、FNPP薄板中にスキルミオンが生成された後、温度勾配とスキルミオンの数やアンチスキルミオンの数との関係性を調べたところ、温度勾配が5.0Kμm-1を超えると、すべてのスキルミオンがアンチスキルミオンへ変換していることが判明したという。
なお、研究チームでは、今回の研究成果を応用することで、さまざまなプロセスで生成される「熱流」を利用して、トポロジカル数の制御が可能になるとするほか、ここでのトポロジカル数(+1、-1)は電子デバイスにおける(0、1)に対応させることができるため、将来的なトポロジカル磁気デバイスの開発に寄与し、スピントロニクスの応用研究に役立つことが期待されるとしている。