東京大学(東大)は11月9日、ガリウム・バナジウム・セレンから成る強磁性絶縁体「GaV4Se8」において、固体中のスピンが作る渦構造の「磁気スキルミオン」によって熱流が曲げられる「トポロジカル熱ホール効果」の観測に成功したと発表した。
同成果は、東大 物性研究所の赤澤仁寿大学院生(研究当時)、同・山下穣准教授、韓国・Korea大学のHyun-Yong Lee准教授、東大 新領域創成科学研究科 物質系専攻の徳永祐介准教授、同・有馬孝尚教授、韓国・Sungkyunkwan大学のJung Hoon Han教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物理とその関連分野を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Physical Review Research」に掲載された。
電子の波動関数に直接作用し、固体の外から加える電場・磁場よりもはるかに大きな効果を物性にもたらすことから、固体中のスピン構造などが作る創発磁場の効果に注目が集まっている。その最たる例が、磁気スキルミオンであり、磁気スキルミオンでは数Tから数百Tという大きな創発磁場を作ることが確認されており、それに加えてトポロジーに保護された安定な渦構造のため、デバイスへの応用可能性も検討されている。
この磁気スキルミオンが生み出す創発磁場は、外部から磁場を印加したときと同じように金属中を流れる電子に作用し、ローレンツ力によるホール効果によって電子を曲げることが知られていたが、電子が流れない絶縁体では、どのような影響があるのかは不明だったという。
そこで研究チームは今回、磁気スキルミオンが発現するGaV4Se8における熱輸送特性を詳しく調べることにしたとする。