LIFULLは10月25日、“住まいの本当と今”を伝える情報サイト「LIFULL HOME'S PRESS」がTSMCの熊本県への進出(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing:JASM)に伴う同県内の賃貸市場の影響調査の結果を発表した。

それによると、新工場建設地の菊陽町および関連企業の立地が進む大津町、合志市で、賃貸市場にどのような影響が表れているか調査を実施したところ、物件数や賃料に明らかにTSMC進出の影響が見られたという。具体的には、LIFULL HOME'Sの掲載物件数から考察したところ、TSMCの工場進出が発表された2021年10月の新工場周辺(菊陽町・大津町・合志市)の賃貸物件掲載数は517件であったものが、新工場が着工した2022年4月には2021年10月比で59.6%減の209件と急減、2023年2月時点には同94.4%減の29件で底を打ち、2023年8月時点では同68.9%減の161件と低水準で推移しているが、熊本県全域で賃貸物件掲載数を見た場合、2021年10月時点で5496件であり、2022年4月で同32.2%増の7268件、2023年8月で同44.4%増の7936件と増加傾向で推移しており、新工場周辺の動きだけが異なる傾向を示してるとする。

この傾向について、地元不動産会社からの情報として、進出発表当初は工事関係者が、直近は工事関係者に加えて、TSMCや関連企業の従業員やその家族がニーズの中心に申し込みがあるため空き室が埋まりやすくなっていると同社では説明している。

  • TSMC(JASM)の新工場周辺と熊本県全域のLIFULL HOME'S賃貸物件掲載数推移

    TSMC(JASM)の新工場周辺と熊本県全域のLIFULL HOME'Sに掲載された賃貸物件数の推移 (出所:LIFULL)

また、こうした新工場周辺(菊陽町・大津町・合志市)での空き室不足がアパートやマンションの建設ラッシュを呼び、新築物件の供給数が増加しているものの、その募集賃料も上昇傾向にあるという。TSMCの工場進出が発表された2021年第4四半期にLIFULL HOME'Sに掲載された平均賃料は5.99万円ほどであったが、2023年第3四半期(7~9月)では10.36万円と、進出時の1.7倍ほどまで上昇しているとする。加えて、工場進出が発表された当初中心だった単身向け物件の供給から、徐々にファミリー向け物件の供給へとシフトしている影響もあるとしつつも、1m2当たりに換算した賃料でも工場進出発表時が1108円であったものが2023年第3四半期には1680円まで上昇しているとする。

熊本県全域の新築賃貸物件平均賃料の上昇率を見ると、TSMC進出発表時から2023年第3四半期で25.4%の上昇(1m2当たりでは26.2%の上昇)となっており、新築賃料の大幅な上昇はTSMC新工場周辺特有の動向といえると同社では分析しているほか、高い賃料でも入居者が決まることから、強気の賃料設定とするケースが背景にあると思われるともしている。

  • TSMC(JASM)の新工場周辺と熊本県全域のLIFULL HOME'Sに掲載された新築賃貸物件の平均賃料の推移

    TSMC(JASM)の新工場周辺と熊本県全域のLIFULL HOME'Sに掲載された新築賃貸物件の平均賃料の推移(出所:LIFULL)

さらに、LIFULL HOME'Sに掲載された新築物件のみならず既存物件でも平均賃料の上昇傾向がみられるともしており、新工場周辺(菊陽町・大津町・合志市)のTSMC進出発表当時(2021年第4四半期)の全賃貸物件平均賃料(新築物件含む)は5.40万円であったものが、2023年第3四半期には7.43万円と約1.4倍に上昇しているという。熊本県全域では同時期に6.6%の上昇にとどまっているため、TSMC新工場周辺ならではの動きといえそうだと同社では説明している。

  • 全賃貸物件の平均賃料の推移

    TSMC(JASM)の新工場周辺と熊本県全域のLIFULL HOME'Sに掲載された全賃貸物件の平均賃料の推移(出所:LIFULL)

なお、同社では半導体工場の建設が周辺不動産の価値を向上させることは明らかであるとしつつも、住宅が「足りない」「高すぎる」となれば、新たな“企業城下町”としての成長を阻害しかねないともしており、地域の持続的な発展のためにも、安定した住生活の提供に向け、行政と不動産・住宅業界が一丸となって取り組むべきタイミングともいえるとコメントしている。