YouTube、デバイスやフォーマットのマルチ化を解説 小田切ヒロ、ライオン、サントリーなど動画活用術を公開

グーグルは10月18日、YouTubeの利用者動向や企業の最新活用事例などを紹介するイベント「YouTube Brandcast 2023」を開催した。今回のテーマは「広告効果で、選ぼう。」だった。YouTubeの高い広告効果の理由を、ユーザーの視聴行動やコンテンツのトレンドの観点から紹介した。

最初にスピーカーとして登壇したグーグル マネジングディレクター YouTube 日本代表 仲條亮子氏は、「YouTubeは2007年に日本語でのサービスを開始して今年で16周年を迎えた。おかげさまで2023年5月現在、月間ユーザー数は7120万人以上となり、中でも45歳~64歳のユーザーはおよそ2680万人。幅広い年齢層の多くの方にご利用いただいている」と述べた。

▲グーグル マネジングディレクター YouTube 日本代表 仲條亮子氏

チャンネル登録者数も成長している。100万人以上の登録者を持つチャンネルは、500を超え、昨年と比較して25%増えている。

<マルチデバイス、マルチフォーマットでの視聴が浸透>

YouTubeが成長している要因の1つが、「マルチデバイス化」にあるという。ここ数年、インターネットに接続されたテレビデバイス「コネクテッドテレビ」での視聴が急増している。

仲條氏は、「2023年6月現在、コネクテッドテレビのYouTubeの月間ユーザー数は3800万人以上。テレビデバイスでのYouTube視聴が浸透することにより、ユーザーのテレビデバイスへの向き合い方が多様化しているということも調査結果から分かった」と説明する。

コネクテッドテレビでは、例えば商品、サービス、趣味に関する情報を動画で調べたり、メイクアップやレシピの動画を見ながら作業したり、旅行に行った思い出の地の情報を視聴したりする行動が行われているという。大画面だからこそ、長尺の動画を閲覧したり、視聴しながら作業したり、複数人で見たりしやすいという。

仲條氏は、「2021年に提供を開始したYouTube ショートにより、短尺・縦型フォーマットの視聴も増え続けている。2023年7月の調査では、YouTube ショートの1日当たりの平均視聴回数は前年比でプラス110%と大きく成長している。Z世代のうち、70%がYouTubeショートを利用していると回答からも若年層の利用が進んでいることが分かった」と紹介した。

フェイクニュース対策にも注力しているという。コミュニティガイドラインに基づき、人間による審査と機械学習を組み合わせ、誤解を招いたり、虚偽の内容が含まれ、深刻な被害を及ぼす可能性のあるコンテンツを検知している。誤った治療法やデマなどを含む新型コロナウィルス感染症に関連する動画を約1年半の間に100万本以上削除した。

情報の正確性が特に重要なニュース、政治、医療、科学情報などのトピックに関しては信頼できる情報源からの情報を検索結果やお薦めの動画として優先的に表示するようにしているという。

<小田切ヒロがショート動画のTipsを伝授>

YouTubeの視聴トレンドを動画制作に生かしているクリエイターを代表し、ヘアメイクアップアーティストの小田切ヒロ氏と、動画メディアを運営するPIVOTの佐々木紀彦代表が登壇した。

小田切氏は、「力を入れているのがショート動画。通常の長尺コンテンツとは別に、60秒で簡潔に楽しく伝えるビューティ情報やトレンド情報を押さえた動画を配信している」と語る。

▲小田切ヒロ氏

小田切氏の動画は、冒頭で発する「あんたたち~」というフレーズが印象的だ。小田切氏は、「ショート動画では最初の1秒で(視聴者を)引き付けることが大事。少し失礼かもしれないが、視聴者の関心を引くとともに、親しみやすさをアピールする私なりの工夫」と説明する。

小田切氏ならではのショート動画のTips(こつ)も紹介した。「ショート動画はなんといってもインパクトとメリハリが大事だと考えている。短いコンテンツだからこそシンプルであるべきだと考えている」と話す。

▲ショート動画のTipsをショート動画で紹介

具体的には3つのポイントがあるという。1つ目は「表現を大きくする」ことが大事だと説明する。スマホ視聴者が多いことからテロップの文字を大きくしたり、顔を近づけたりしている。

2つ目に「難しすぎない」ことも重要だという。端的に情報を伝えてシンプルに理解できる動画を作っている。

3つ目は「抑揚を付けること」がポイントだと教えてくれた。表現や音で演出面で抑揚を付けている。内容によって効果音を変えるなどして印象付けることができるという。

<PIVOTの佐々木代表「情報は動画で得る時代になった」>

「東洋経済」や「NewsPicks」などのメディアで要職を歴任し、動画メディア企業のPIVOTを立ち上げた佐々木紀彦代表は、自身のキャリアにおいて、3回のトランスフォーメーションがあったという。

▲PIVOT 代表取締役 佐々木紀彦氏

佐々木氏は、「1回目が『デジタル化』。伝統的な紙媒体の『週刊東洋経済』から『東洋経済オンライン』のリニューアルに編集長として携わることになった。2回目が『モバイル化』だ。モバイル化の波に着目し、東洋経済からNewsPicksに移り、ソーシャル経済メディアの開発を進めた。最後の3つ目が『動画化』だ。NewsPicks時代に動画化のトレンドを感じて、NewsPicksスタジオを立ち上げた。その後、より動画ファーストのビジネスメディアを世に送り出すべく、PIVOTを創業した」と話す。

リスクのある起業を決断した背景には、「コンテンツの動画化というメガトレンドを舞台にして、自分自信で資金調達して、最強のメンバーで勝負をしたいと思った。学生の頃からメディア作りに興味があり、今度のメディアがどうなるのか、コンテンツがどうなるのか、ずっと考えてきた。デバイスや通信の発達もあり、情報は完全に動画で得る時代になったというのが私の結論だった。動画化というメガトレンドは、私のメディア人としてのキャリアをかけて取り組む価値のあるものだと考えた」と話す。

<グーグル奥山代表「メディア接触の3分の1超がモバイルに」>

グーグルの奥山真司代表は、マーケティングROIの検証方法を紹介した。

奥山代表は、「メディアの総接触時間におけるモバイルデバイスのシェアがついに3分の1を超え、ますますモバイルシフトが進んでいる」と紹介した。

▲メディアの総接触時間におけるモバイルデバイスのシェアが3分の1を超えた

奥山代表はさらに、「全テレビデバイスにおけるコネクテッドテレビの割合は34%となり、その視聴時間の40%が『放送』ではなく、YouTubeを含む『VOD』が占めている。スマートテレビに限って見てみると、YouTubeは民放地上波4局の平均よりも72%も長く視聴されていることが明らかになった。このようにデバイスをまたいだデジタルシフトが進む中で、マーケターの皆さんはブランドの課題や目標を設定すること、もしかしたらそのものに課題を持たれているのではないか」と話した。

▲グーグル 代表 奥山真司氏

日清食品は若年層への広告接触1回当たりの価値を可視化した。調査の結果、広告の有効接触回数分析で、ターゲットリーチはYouTube広告がテレビCMを上回り、27%の純増リーチを獲得したことが分かった。課題としていた1接触当たりのコスト効率は、YouTube広告がテレビCMの6分の1程度だったという。

東宝は新作映画のプロモーションにおいて若年層に対して多くのユニークリーチを獲得しながらもCPMを安く抑える方法を模索していた。広告配信にYouTubeショートも含まれる「動画リーチキャンペーン」を活用した結果、ユニークリーチは15%増加しながらも、リーチ単価は17%削減できたとおいう。課題としていたCPMは42%削減と効率よく目標を達成できた。

<三井住友カード、学生向け動画施策で指名検索30%増>

三井住友カードのマーケティング本部 部長代理 塚田ゆり氏は、YouTube広告活用により学生世代からの関心を効率的に獲得し、指名検索を130%に増加した事例を紹介した。

塚田氏は、「最初に選んだブランドを長年利用される方も多いため、人生で初めてクレジットカードを作ろうと思った若者世代のお客さまにしっかりと三井住友カードを選んでいただくことが、ビジネス成長の鍵を握ると考えている。そこで私たちは学生世代のお客さまへのアプローチを強化するべく、2022年2月に学生ポイントという新サービスをリリースした。サービス内容の紹介をメインの訴求としていた、当初の広告施策では学生への認知が目標に対して十分に獲得できていなかった。そこで2022年10月から実施したプロモーションでは、学生の価値観に寄り添い、彼らに提供するベネフィットを明確に伝えたいと考えた」と話す。

▲三井住友カード マーケティング本部 部長代理 塚田ゆり氏

新しいプロモーションのクリエイティブコンセプトは「学パ、あげてこ」だった。「学パ」は「学生生活パフォーマンス」という造語の略となっている。三井住友カードが学生生活をより良くするカードであることを表現した。ウェブプロモーション動画には、Z世代に人気のYouTuber「くれいじーまぐねっと」を起用した。

▲人気YouTuber「くれいじーまぐねっと」を起用したウェブプロモーションを展開

学生世代の価値観に寄り添ったクリエイティブを制作し、YouTubeには、サービス理解を促す役割を期待して、長尺のTrueViewインストリーム広告と6秒のバンパー広告を組み合わせて配信した。長尺動画を視聴した人とスキップした人に対して、それぞれ別のバンパー広告を配信してメッセージを出し分けることで、より効果的にサービス理解を促したという。

その結果、YouTube広告から検索に至る目標CPAは、14%削減することができた。目標として掲げていた指名検索数を30%増加させることができた。

<ライオン、全世代への態度変容を効率的に実現>

ライオンのヘルス&ホームケア事業本部 オーラルケア事業部 クリニカ ブランドマネージャー 今村健一氏は、博報堂 ビジネスプロデューサー 沼田尚大氏とともに、幅広い世代にデジタルでアプローチするマーケティング施策について紹介した。

ライオンの今村氏は、「実態として全世代がデジタルと深い接点を持っている時代だと思っている。クリニカは幅広い世代にご愛用頂いているオーラルケア市場で数量ナンバー1の全世代型ブランドだ。これまでテレビCMを中心に高い認知率を獲得してきたため、YouTubeなどのデジタル広告はリーチの補完として一定量を投下するという位置付けだった。しかし、今のお客さまのメディア接点を考えるとテレビ一辺倒が最適解ではないと考えた」と話す。

▲ライオン ヘルス&ホームケア事業本部 オーラルケア事業部 クリニカ ブランドマネージャー 今村健一氏

2022年にローンチした「クリニカPRO」が、YouTube広告の本格活用のきっかけとなった。新商品の浸透を一気に高めていきたいと考えたときに、既存の手堅いメディア戦略ではなく、YouTube広告を活用した。幅広い世代へ商品認知・特長理解を促し、態度変容までもたらす力があるのか試したという。

効果検証により、非接触者と比較して、テレビCMとYouTube広告の重複接触者の方が、特長理解が5ポイント向上したことが分かった。態度変容を向上させるYouTubeの有効接触回数は「3回」という基準も発見した。態度変容に必要なコストは、テレビCMと比べて3分の1だった。YouTubeの売上貢献は、11%増の効果が認められたという。

<サントリーHD、複層的な広告戦略の正しい効果検証に挑戦>

サントリーホールディングス(HD)のコミュニケーションデザイン本部 副本部長 兼 宣伝部長 鈴木あき子氏は、電通 第9ビジネスプロデュース局 マネージングディレクター 平野井宏典氏と横断型キャンペーンおけるマーケティングROIの検証について紹介した。

サントリーHDの鈴木氏は、「加速する生活者やメディア環境の変化においてマーケティング施策の効果を可視化し、次のコミュニケーションプランのヒントを見つけることに挑戦した。生活者のメディア接触状況はますます多様化し、マルチデバイス、マルチコンテンツが一般化している。コミュニケーションもお客さまに合わせた形で、接点ごとにコンテンツをカスタマイズしていかないといけない時代になっている。われわれの施策も従来のテレビCMを中心としたコミュニケーションから、より複層的に変化している。さまざまなアセットを複数のメディアにまたがって同時に発信している。しかし、複層的になることに伴い、施策ごとに効果を分けて検証することが難しく、どれが本当に有効だったかを見極めづらくなった」と話す。

▲サントリーホールディングス コミュニケーションデザイン本部 副本部長 兼 宣伝部長 鈴木あき子氏

サントリーHDは電通やグーグルとプロジェクトチームを構築し、統合メディアブランディングに取り組んだ。広告データ分析プラットフォーム「Google ADH(Ads Data Hub)」を活用し、テレビ、OOH、YouTube広告を含むデジタルの施策について、実接触ベースでリーチ、 態度変容、購買寄与を分析し、効果を可視化した。

複数ブランドで、テレビCMとYouTube広告の重複接触による効果を検証したところ、広告認知とブランド認知はそれぞれ最大13.9%と9.4%の増加、ブランド好意度は最大8.8%、ブランド購入意向は最大10.3%の増加が見られたという。