Yole Groupの半導体市場調査会社であるYole Intelligenceが発行したパワー半導体市場調査レポート「Status of the Power Electronics 2023」に2020~2022年にかけてのパワー半導体サプライヤ(ディスクリート+モジュール)の売上高ランキングが掲載されている。
筆者がYoleと交渉したところ、同図の掲載許可をいただけたので、それを元に、パワー半導体市場の現状を読み解いてみたい。
2022年のランキングトップはこれまで同様Infineon Technologiesだが、2020年から2022年にかけて大きく成長を続けており、他社を引き離しにかかっている点が注目される。また、2位のonsemi、3位のSTMicroelectronicsもInfineonほどではないものの、売り上げを伸ばしており安定した地位を確保していると言える。そうした中、日本勢は4位に三菱電機、6位にローム、7位に東芝、8位に富士電機、9位にルネサス エレクトロニクスと5社がトップ10に名を連ねているほか、トップ20まで見ると17位に日立製作所が入っている。
ただし、数で見ると日本勢は相当な割合を占めているが、売上高の合計はトップ20に入る6社を合計してもトップのInfineonに届いていない点は注視するべき部分であろう。
欧米勢と中国勢の板挟みとなっている日本勢
Yoleによると、トップ20入りしている日本企業6社のうち、日立を除く5社は、今後1~3年にわたって売上高の伸びが期待できるとしているが、同じ期間に欧米の有力企業も巨額な資金を背景とした生産能力の拡充や企業買収によって同じように売上高を伸ばすことが予想されるという。また、新興の中国勢も中国政府が鉄道、高圧送電、EV(充電施設含む)といったインフラ整備に向け、国策としてパワー半導体産業を支援しており、近年はSiのみならずSiCやGaNにも注力してきている。パワー半導体は現状の米国政府が進める半導体規制の対象とする微細化とは関係ないため、中国勢が世界市場に安価な製品で攻勢をかけてくる可能性も考えられ、米国政府が新たな規制をかけることも予想される。
こうしたグローバルの情勢を踏まえると日本勢は快走するトップグループの欧米勢と急速に追い上げを図る中国勢の板挟み状態となる可能性がある。経済産業省(経産省)も、現状の打破に向けた補助金政策を打ち出すなど動きを見せているが、事業規模2000億円以上を対象としており、業界再編の狙ったものとなっている。ただし、日本の主要パワー半導体メーカーの多くが社内の強電部門と結びついた形で成長しており、強電部門同士が激しく競争している企業の間柄であることを踏まえると、経産省の思惑通りには進まない可能性もある。
ロームの東芝出資が再編の目玉になる可能性
ロームは、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする国内連合による、東芝へのTOB(株式公開買い付け)計画に3000億円の資金を拠出することを明らかにしている。JIPが運営する投資ファンドに1000億円を出資するほか、国内連合の関連会社が発行する優先株を2000億円分引き受ける方針を固めている。
Yoleのランキングで、ロームは6位、東芝は7位に位置しており、両社のパワー半導体の売上高を合計すると、国内トップの三菱電機を抜き、3位のSTMicroelectronicsに迫る規模になる。ロームは、東芝との協業や経営参画について何も合意していないとしているが、一方では、東芝の半導体事業と将来的な協業や連携に関心を持っているとも噂されており、経産省もこの2社による2000億円を超える投資に期待をかけていると言われている。ロームは、自社で強電事業を行っていないので、東芝の強電部門と競合することはなく、両社のビジネスは親和性が高いとロームも認めている。
かつて、日本はアナログ家電が強かったころ、家電メーカーの半導体部門は、そうした家電の下請け部門的存在であった。しかしデジタル化とともに、家電事業が立ちいかなくなり、それに併せて半導体事業も凋落していった過去がある。現在のパワー半導体業界の状況は1990年代に、そうした日本の半導体業界が歩んだ道筋と極似しているという見方が一部からは聞こえてくる。日本のパワー半導体業界が将来、海外勢との戦いを勝ち抜くためにどういった道筋があるのか、真剣に検討する必要性は日に日に強まっていると言えるだろう。