AMDは9月19日(米国時間)、新たなFPGA搭載SOM(System On Module)「Kria K24」と、これに対応した「KD240 Drive Starter Kit」を発表した。これに関して事前説明が行われたので、それを基にご紹介したい。

KriaはAMDというか旧Xilinxが2021年4月に発表したSOM(System On Module)である。要するにFPGAと周辺回路を全部1つのモジュールに実装した形で提供する事で、システム開発を容易にしようという試みである。

これにより顧客はキャリアボードのみ開発すれば良く、またキャリアボード開発以前からStarter Kitなどの既存の開発ボードを利用してソフトウェア開発も始められるという訳だ。同じような用途としてAlveoシリーズもあるが、こちらはPCIeの拡張カードの形なので、PCIeのホストシステムが必要である。FPGA単体で動作する様なシステムにはKriaの方が適しているという訳だ。

さて当初発表されたKria K26 SOMはZynq Ultrascale ZU5EVを搭載し、モジュール寸法は60mm×77mmとなっていたが、今回発表されたKria K24 SOMは、2021年にXilinxが発表したTSMCのInFOを利用した省パッケージのFPGAを採用、モジュールサイズも「クレジットカードの半分」サイズまで小型化されたものである(Photo01)。

  • 具体的には60mm×42mm

    Photo01:具体的には60mm×42mm。K26の半分よりちょっと大きい位である

そのK24 SOMであるが、Quad Core Cortex-A53搭載かつFPGA FabricのLogic Cellが154Kということから、どうもK26に搭載されていたEmbedded Vision/Multimedia向けのZynq Ultrascale+ MPSoC EVから汎用のZynq Ultrascale+ MPSoC EGにラインナップを切り替えた模様だ。恐らくはZU3Tを搭載しているものと思われる。メモリサイズはK26の4GBから2GBになったが、ECC付きのLPDDR4ということで、省電力化が果たされているものと考えられる。余談ながらオンボードで搭載するeMMCはK26の16GBがK24では32GBと倍増している。外部のI/Oは132pinとなっているが、これはZynq Ultrascale+ MPSoC側の制限というよりも利用するコネクタ側の制限と思われる。

ちなみにこのPhoto02ではB2304 DPUのサポートが挙げられているが、なにしろZynq Ultrascale+だから別にNPUが入っているという訳では無い。

  • I/Oの数はそもそも少ないが、その代わりモジュールからEthernetが4ch出ている

    Photo02:I/Oの数はそもそも少ないが、その代わりモジュールからEthernetが4ch出ている。このEthernet用のIndustrial Ethernet対応IPはXilinxというかAMDから提供されるとの事

これはXilinxというかAMDが提供する、FPGA Fabricを利用したCNN用の処理エンジンIPの事である。このIPは「DPUCZDX8G」という名称がついており、内部構成に応じてB512~B4096まで選ぶ事が出来る。

B2304というのは「Pixel並列度4、入力チャネル並列度12、出力チャネル出力度12、性能が2304Ops/cycle」というもので、これを実行するには438個のDSP Sliceを利用する。先ほど搭載しているデバイスはZU3Tだろうと書いたのは、もう少し数字がぴったりして見えるZU3EGだとDSP Sliceが360個しかなく、B2304が稼働しないためだ。ZU3Tだと576 Sliceあるので、B2304の稼働に問題はない。このB2304がどう動くのか? の例がこちらである(Photo03)。

  • B2304だと入出力12ch、4並列だから48Streamで、2304 Ops/cycleだからStreamあたり48並列で実装されているものと思われる

    Photo03:B2304だと入出力12ch、4並列だから48Streamで、2304 Ops/cycleだからStreamあたり48並列で実装されているものと思われる

この200という数字はあくまでも判りやすくするための数字で、実際の数字とは異なっていると思うが、DSP Sliceをフル活用する事でエッジ向けのCNN Inferenceも高速かつ低レイテンシで実行出来るとしている(Photo04)。

  • AM64シリーズを引き合いに出してきた理由は良く判らない

    Photo04:AM64シリーズを引き合いに出してきた理由は良く判らない。別にNPUを搭載している訳では無いからだ

ところで今回K24 SOMと併せて発表されたのがKD240 Drive Starter Kitである(Photo05)。

  • KD240はあくまでもSingle Motor対応である

    Photo05:KD240はあくまでもSingle Motor対応である。Multi Motorの対応はK24の方が間に合わない様だ。ちなみにここのヒートシンクの下にいるのがKria K24 SOMで、Passive Coolingで問題なく動作するとしている(消費電力は2.5W)

従来K26 SOM向けにはAI Vision Starter Kitが用意され、後追いでRobotics Starter Kitが追加されていたが、Roboticsといえば当然モータ制御が必要だし、モータ制御はRobotics以外にも非常に幅広い分野で利用されているのはご存じの通りで、K24 SOMはこうしたマーケットも視野に入れている。

実際K24自身は幅広いモータの制御が可能とされ(Photo06)、SOMで比較した場合には競合製品と比較してより少ない消費電力で制御可能とされる(Photo07)。

  • BLDCだと、電流変化のフィードバックとかホール素子を使った回転検知などのニーズが出る場合があるが、そうしたものにどこまで対応しているかは不明

    Photo06:BLDCだと、電流変化のフィードバックとかホール素子を使った回転検知などのニーズが出る場合があるが、そうしたものにどこまで対応しているかは不明。ベクタ制御位はFPGA Fabricを使って実装できそうではあるのだが

  • これは自社でSOMを出しているのがAMDとNVIDIAだけなのでこういう比較になったとの事

    Photo07:これは自社でSOMを出しているのがAMDとNVIDIAだけなのでこういう比較になったとの事。ただ、H/Wのモータ制御付きMCUとは比較にならないくらい消費電力が多いともいえる訳で、あとは柔軟性とコスト/消費電力のどちらを取るかという問題だろうか

このDrive Starter Kitはこんな構造になっており(Photo08)、利用も簡単とされる(Photo09)。

  • 複数種類のモータに対応するため、さまざまな周辺回路が用意されている

    Photo08:複数種類のモータに対応するため、さまざまな周辺回路が用意されているが、製品への実装の際には必要なものだけ選べばいいので、もっとスッキリするはずだ

  • OSはUbuntuベース

    Photo09:OSはUbuntuベース。ROSとの相性もよさそうだ。手順はまぁStarter Kitだからこの位簡単でないとまずいだろう

ちなみにAMDからはまずKD240 Drive Starter Kitに対応した「Motor Accessory Pack」が提供されるが、後追いで「REV Robotics 2-in-1 Motor Kit Accessory」も用意されるとの事だった(Photo10)。

  • Roboticsの分野で広く利用されるREV RoboticsのBLDC Motorを同梱したモデル

    Photo10:Roboticsの分野で広く利用されるREV RoboticsのBLDC Motorを同梱したモデル。年末までには大量出荷できるはずとの事(一応数週間後に出荷開始予定らしい)

ちなみにKria K24はKria K26と同じ200pinのコネクタを1つ(K26は2つ)と、40pinのコネクタを1つ搭載し、この200pinのコネクタについてはKria K26と互換性があるので、適切なマッピングの設定だけすれば、差し替えて使う事も可能とされる(Photo11)。

  • ねじ止めのホールの位置が微妙に違う

    Photo11:といってもねじ止めのホールの位置が微妙に違うし、40pinコネクタの方は互換性がないので、実際に装着しようとしたら引っかかるとかいう事もありそうである

AMDとしてはこの2つを使い分けてシステムに混載する事も可能、としている(Photo12)。

  • 関節制御のモータ部に組み込むにはK26は大きすぎる

    Photo12:関節制御のモータ部に組み込むにはK26は大きすぎるので、そういう場所にはK24を。高い処理性能が必要なところにはK26を、という訳だ

Kria K24 SOM(評価用のものと製品組み込み用のもの)、およびDrive Starter Kitは同日より出荷開始済みで、価格はそれぞれ250ドル/350ドル/399ドルとされる(Photo13)。

  • 以前に比べるとKV260とかK26 SOM自身も少し値上げしている

    Photo13:以前に比べるとKV260とかK26 SOM自身も少し値上げしているが、このところの半導体供給不足などの影響を受けて値上げせざるを得なかったとの事

ちなみにKria K26 SOMは現在Commercial/Industrialのどちらのグレードもリードタイムが4週間とされるが、K24も「発売当初はちょっと長くなるかもしれないが、大体K26と同程度の4~8週間以内に収まるはず」との見通しだそうである。