内田洋行と北海道教育大学は8月26日、学校・教育関係者を対象に「第5回 北海道発!GIGA活用セミナー“夏”」と題するセミナーを実施した。同セミナーは北海道教育委員会後援の下、産学官連携で開催された。

同セミナーでは、GIGAスクール構想により学校における学びの風景が一変する中で、「明日から使えるGIGA端末の活用方法」「離島における教育の可能性」など、教育関係者にとって垂涎の内容が紹介された。

本稿では、同セミナーより、宗谷管内3団体のGIGAスクール構想の取り組みを紹介したリレー講演「稚内市 天北小中学校」「幌延町 幌延小学校」「利尻富士町 町立鴛泊中学校」の事例をお届けする。

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    講演の様子

稚内市天北小中学校:「大けテぶれシート」で自律的に学習する力を養う

最初の講演に登壇した天北小中学校の教諭である吾妻祐輔氏は「ICTのユニバーサルデザイン化に向けた実践の報告」というテーマで、自校で取り組んでいるICT活用の事例を紹介した。

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本稿では、教育用クイズアプリ「Kahoot!」と「大けテぶれシート」を紹介する。

1つ目の「Kahoot!」は、Web上やアプリで活用できる教育用アプリだ。自分自身で問題を作ることができるほか、他者がアップロードしている問題を出したり、アレンジしたりすることも可能となっている。

速く正解するほど高得点を取れたり、チーム戦があったりと、ゲーム要素が強いのも特徴となっているという。

「問題は基本的に選択式クイズで、子どもは自分のタブレットから正解だと思う選択肢を選びます。1問ごとに順位が出るほか、最終的に1位から3位までの順位も出るため、授業が非常に盛り上がります」(吾妻氏)

もう一つの施策である「大けテぶれシート」の名称にもなっている「けテぶれ」とは、兵庫県の公立小学校教員である葛原祥太氏が考案した「計画」「テスト」「分析」「練習」の頭文字をとった「学び方」だ。

けテぶれ学習では、計画、テスト、分析、練習をPDCAサイクルのように回していき、自己の課題を解決していくために自分で学習方法などを考えて学習を進めていく。

「本校では、2023年度から定期テストや学力テストをけテぶれ学習のサイクルに取り入れて、自主的・自律的に学習する力を養う取り組みを行っています。その円滑な実践のために、生徒一人一人にスプレッドシートで作成した『大けテぶれシート』を用意しています」(吾妻氏)

「大けテぶれシート」は、自分が立てた目標を達成するために、どのような家庭学習をするのかを計画するシートや、テスト後に取り組みも含めて「良かったこと」「課題」「これから頑張ること」を分析するシートなどの種類が用意されているという。

そして、このシートを通じて日々の家庭学習の計画、学習の記録、テストの分析などを行っているそうだ。

幌延町幌延小学校:ICTの力でChatGPT時代を生き抜く資質を育てる

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続いて登壇した幌延小学校の石戸谷和利氏は、「個別最適な学び×協働×ICT~子どもたちの「自己調整力」を「組織」で育成~」というタイトルで講演を行った。

石戸谷氏は、最初に「あなたは何のためにICTを活用した授業をしていますか?」という問いを会場内に投げ掛けた。

石戸谷氏曰く、GIGAスクール構想を推進しようとすると、その方法に注目されることが多く、目的の達成が疎かになってしまうことが多いという。そのため、教員間で「何のために使っているのか」という目的のを共有していくべきだと訴えた。

幌延小学校の教員に同じ質問をしたところ、「未来社会(ChatGPT時代)を生き抜く資質を育てるため」と回答した人が多かったようだ。

「回答に多く挙がった『未来社会(ChatGPT時代)を生き抜く資質』とは、自律的に学ぶ力や問題発見解決力のことを指していると考えています。それはつまり、児童が『主体的・対話的で深い学び』の学び方を獲得することが必要ということです」(石戸谷氏)

石戸谷氏は、この考えを実現するためには、今までの一斉授業では不十分であり、子ども一人一人を主語とした授業を行う必要があるとも語った。そして、「個別最適な学び」と「協働的な学び」という2つの学びをつなぐ端末活用こそが、その鍵を握るという。

「従来の授業形式を『単線型』と呼びます。授業を通して、一斉にインプットして、一斉に端末活用や協働学習を行い、一斉に発表するという形です。これは教師主導で学びの自律を促進する形式です。今後、求められる『複線型(クラウド型)』とは、一斉に課題や活動の確認を行った後は、他者を参照しながらそれぞれが協働の自己決定を行うという特徴を持ちます。教師はICTで見守るファシリテーターとしての役割を担う形です」(石戸谷氏)

最後に石戸谷氏は「GIGA活用で大切にしていきたい4つのこと」を講演のまとめとして紹介した。

児童主体の学びへの転換を図るGIGA活用
学びの楽しさを子どもたちに取り戻すGIGA活用
子どもたちの学びの自律を促すGIGA活用
子どもたちがWell-beingな人生を歩むためのGIGA活用

利尻富士町 鴛泊中学校:AI型ドリル教材で一人一人に最適な出題を実現

最後に登壇した利尻富士町町立鴛泊中学校の教頭である梅津光洋氏は、「利尻富士町のICTの現状について」というテーマで取り組みを紹介した。

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利尻富士町では令和元年に「利尻富士町学校ICT検討会議」が発足し、さまざまな検討を経て、翌年に「利尻富士町学校デジタル化推進協議会」が設立されたという。

利尻富士町学校デジタル化推進協議会では、GIGAスクール構想の推進(関係機器等整備)やAI型ドリル教材 、スタディアプリ教材の導入検討などが進められている。

まず梅津氏は、自校におけるGIGAスクール構想の整備状況について、次のように説明した。

「令和2年9月に校内通信ネットワーク整備を、同年10月には端末整備を完了しました。また、オンラインカメラ・マイク、スピーカーなどの遠隔学習機器、貸出用モバイルルータといった家庭学習向けの通信機器も整備しました。そして、令和3年5月からはAI型ドリル教材の導入も進めています」(梅津氏)

AI型ドリル教材とは、生徒の解答内容からAIが理解度を判定し、誤答の原因と推定される単元に誘導するなど、個々の生徒にとって最適な出題をすることで一人ひとりの学習を助ける教材のこと。

鴛泊中学校では、令和3年5月からAI型ドリル教材の導入を開始し、導入研修や隔月の利活用情報共有会議、活用研修などを通じて、利活用の理解を高めているという。

梅津氏は、講演の最後に今後の展望として、以下のように語った。

「当たり前に活用していることをもっと効果的に活用していくことを目標としています。そして、生徒の学力向上のために授業者の授業改革へつなげていく必要があると思っています」(梅津氏)