「グローバルの現地力」はオムロンならではの強み
オムロン担当者が次に挙げた強みは、「グローバルの現地力」だ。世界各地に拠点を展開する同社は、各所にトレーニングセンターやオートメーションセンターを構えており、社内での研修や人材育成に利用してきたという。IAアカデミーでは、カリキュラムによってこれらの施設を活用し、実機に触れながら体験・実験型学習を行うことも可能だとする。また同社には延べ約1000人の技術講師がいるとのことで、グローバル各地で充実した育成環境を提供できるとしている。
実際の機器を活用したエンジニア教育は、各企業にとって人材育成の観点から見れば非常に充実した教育機会ではあるものの、費用や場所の問題もあって独自に育成環境を用意できる企業は限られる。そのため、トレーニング環境を借りながら実機に触れる機会を確保できるのは、貴重なメリットだとする。
また近年のコロナ禍により、渡航を伴う研修のハードルが高まっているため、オムロンがグローバルに展開する施設を用いて、それぞれの国内で機器に触れる機会を確保できる点は大きいとのこと。新型コロナの影響で一気に浸透したリモートでの研修についても、時差の関係で日本の講師が世界各国にカリキュラムを提供するのは現実的ではなく、現地の講師がプログラムを提供できる点で強みを発揮するいう。
経験豊富なエンジニアが直接教育を実施
そしてオムロンが3つ目に挙げるのは、自社工場で培ったノウハウが集約されている点だ。IAアカデミーの講師は基本的に、同社の製造現場でソリューション創出や装置の立ち上げ支援などを実際に行ってきたメンバーだといい、ただカリキュラムをなぞるのではなく、自らの経験を踏まえながら育成を行うため、よりエンジニアに近い観点からアドバイスを行うこともできるとする。
この点は、元来ものづくり企業として長年の知見を持ち、機器のメーカーとしても、そして機器の利用者としてもノウハウを蓄積しているオムロンだからこそ提供できるメリットだとしている。
顧客と対話しながら人材課題を1つずつ解決へ
社会的要請であるESGの影響と同時に、製造現場の人材不足という課題が顕在化したことで、一気に重要性が高まったエンジニアの育成体制の構築。オムロンでは約3年をかけて、中身があいまいだった“エンジニア育成”を体系化し、何度も修正を加えながらカリキュラムとして仕立て直した。
IAアカデミーの開発担当者によると、ものづくりに携わる人々は意外とジョブタイトルや肩書きが無く、その能力が理解されにくい傾向にあるという。カリキュラムの体系化にあたっては、そういった状況を変えるためにもそれぞれの学科に「〇〇エンジニア」という名称を付け、それぞれの現在地を示して誇りを持てるような環境を目指したとする。
また別の担当者は、社内外を問わずさまざまな課題感を耳にしてサービス開発を始めていることもあり、「お客さんが課題だと感じていることを解決するため、事前の対話を大切にしたい」と話し、人材育成におけるコンサルティングのような役割を果たしていきたいとする。
必要性は誰しもが感じていながらも、その作業量の多さから取り組まれてこなかった人材育成方法の統一化をやり切ったオムロン。そのノウハウを自社だけでなく社外へと展開していくことで、グローバルなものづくりの未来をサステナブルなものにしようとしている。