欧州宇宙機関(ESA)とアリアングループは2023年6月23日、再使用可能なロケットエンジンの実証エンジン「プロメテウス」の初の燃焼試験に成功したと発表した。

今後も試験を重ね、再使用ロケット実証機「テミス」に装着して試験飛行を行ったのち、将来的には大型の再使用ロケットの実用化を目指す。

  • ESAの再使用可能なロケットエンジンの実証エンジン「プロメテウス」の初の燃焼試験の様子

    ESAの再使用可能なロケットエンジンの実証エンジン「プロメテウス」の初の燃焼試験の様子 (C) ArianeGroup

プロメテウスとは?

プロメテウス(Prometheus)は、ESAが開発しているロケットエンジンで、再使用を可能にするための技術と、低コスト化のための技術の実証を目的としている。

推力は100tf級で、推進剤には液化メタンと液体酸素を使う。メタンは燃焼時にススが出ず、取り扱いも簡単なため、再使用しやすいエンジンやロケットにでき、打ち上げ前後での地上での作業の手間やコストも削減できるという利点がある。さらに、性能も比較的優れているうえに、経済性や入手性にも優れている。

また、エンジンや機体を着陸させて回収し再使用するため、推力は可変式で、何回も着火できる能力をもつ。

プロメテウスの製造には、積層造形(いわゆる3Dプリント)技術を広範囲に採用し、部品数や製造時に出る廃棄物の削減、生産の高速化などを狙っている。また、最初にコスト目標を決め、製品の開発設計段階のすべてを通じて、コストがその目標内に収まるようコントロールしていく製品開発管理法「デザイン・トゥ・コスト(Design To Cost)」アプローチを採用する。こうした取り組みにより、「アリアン5」に使われていた第1段メインエンジン「ヴァルカン2」より、コストを10分の1に削減することを目指している。

プロメテウスとは、ギリシア神話に登場する神の名前からとられている。プロメテウスは人類に火を与えたとされる神で、それだけロケットの世界にとってエポックメイキングなエンジンにするという意思が込められている。

プロメテウスの開発は2017年から始まり、ESA主導のもと、フランス国立宇宙科学センター(CNES)やロケット会社「アリアングループ(ArianeGroup)」などによって進められている。まずは、エンジンを構成する各要素を3Dプリンターで製造する技術の実証、それらを組み合わせた試験、そしてガス・ジェネレイター単体での燃焼試験などが行われてきた。

また並行して、プロメテウスを装備して飛行実証を行う「テミス(Themis)」という小型ロケットの開発も進められている。

そして2023年6月22日、フランスのヴェルノンにあるアリアングループの試験施設で、テミスの機体(タンク)と組み合わせた状態での、初のエンジン点火、燃焼試験が行われた。エンジンは計画どおり12秒間燃焼し、試験は無事成功したという。

今回の試験はまた、欧州にとって初となる、メタン燃料のロケットエンジンの燃焼試験でもあった。さらに、メタンにはバイオメタンが使われた。

アリアングループのMartin Sion CEOは「この試験が成功したことは、欧州による再使用可能なロケット開発にとって第一歩となりました。今後、テミスを使ったプロメテウスの完全な試験を行うことで、将来の欧州の衛星打ち上げ用ロケットたちにとって、とても有望な道を開くことになるでしょう」と語っている。

プロメテウスの今後

プロメテウスは今後、ヴェルノンの施設で試験を繰り返し行い、想定されるさまざまなミッション・プロファイルにおける、エンジンと機体の両方の動作の特性評価を行うという。

また並行して、ドイツのランポルツハウゼンにある、ドイツ航空宇宙センター(DLR)の試験施設でも燃焼試験を行うとしている。

その後、プロメテウスを積んだテミスによる「ホップ・テスト」に移り、地上から数m上昇して飛行し、着陸する技術の実証を行うことを計画しているという。

  • プロメテウスを搭載して飛行実証を行うロケット「テミス」の想像図

    プロメテウスを搭載して飛行実証を行うロケット「テミス」の想像図 (C) CNES-REAL DREAM

ESAはまた、「SALTO(reuSable strAtegic space Launcher Technologies and Operations:再使用可能な戦略的な宇宙ロケットの技術・運用)」と呼ばれるプログラムのもとで、「アリアン・ネクスト(Ariane Next)」と名付けられたロケットの開発構想も打ち出している。

現在ESAは、次世代ロケットとして使い捨て型の「アリアン6」ロケットを開発しているが、アリアン・ネクストはさらにその次の世代のロケットに位置づけられており、テミスの成果を活用し、そしてプロメテウスを発展させたロケットエンジンを装備した再使用ロケットにすることを目指している。

再使用ロケットをめぐっては、米国スペースXが「ファルコン9」ロケットで実用化に成功し、打ち上げコストの低減や打ち上げ頻度の向上などを実現し、次世代ロケット「スターシップ」の開発も進めている。米国ブルー・オリジンも再使用ロケット「ニュー・グレン」の開発を進めるほか、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)も、ニュー・グレンと同じエンジンを使った再使用ロケット「ヴァルカン」を開発している。スターシップ、ニュー・グレン、ヴァルカンはいずれも、メタンやメタンを主成分とする液化天然ガスを使う。

また、DLRとCNES、そして日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際協力による1段再使用飛行実験「CALLISTO」計画を進めており、日本が開発する液体水素と液体酸素を推進剤とするエンジンを装備した小型のロケットにより、早ければ2025年度にも飛行実証を行うことを目指している。

2020年代から30年代の実用化を見越した、再使用ロケットの開発が世界的に活発になりつつある。

参考文献

ESA - Full ignition for ESA’s reusable rocket engine
For the first time, ArianeGroup tests a complete reusable space launcher stage | ArianeGroup