オランダ政府が露光装置をはじめとする先端半導体製造装置に対する新たな輸出規制を2023年9月1日から導入するすると6月30日(欧州時間)に発表した。
半導体技術の対中輸出規制を強める米国政府の要請に応じたもので、中国を念頭に先端半導体技術の軍事転用を防ぐ狙いがある。すでにオランダ政府は、ASMLが独占供給するEUV露光装置に関し、政府の許可なしには輸出できない規制を導入済みだが、9月からはその許可対象が拡大されることになる。
規制対象となる露光装置の定義は?
同日付の同国の[官報](https://zoek.officielebekendmakingen.nl/stcrt-2023-18212.html)によると、規制対象となる露光装置は、以下の2つが掲げられている。
- 光源波長が193nm未満の装置
- 光源波長が193nm以上の装置で、以下のaとbの条件を両方満たす装置
- a)45nm以下の最小解像可能フィーチャサイズ(MRF)のパターンを生成できること
- b)専用チャックオーバーレイ(DCO)の最大値は1.50nm以下であること
なお、最小分解可能フィーチャサイズ(MRF:解像度)は、次の式で計算される。
この式の意味は、分子は(光源の波長(nm))×(Kファクタ)、分母は最大開口数(ここでのKファクタは0.25)。DCOは、同じ露光装置にてウェハ上に露光された既存のパターン上の新しいパターンの位置合わせの精度(単位:nm)を示す。
ASM Internationalの成膜装置も規制対象に
官報によると、今回対象となるのは先端露光装置のほか、
- EUVぺリクル
- EUVぺリクル製造装置
- ALD装置
- Si、SiGe、炭素ドープSiGeのエピタキシャル成長装置
- low-k膜堆積装置
などとしている。オランダの2大半導体製造装置メーカーであるASMLとASM Intrnationalの両方が直接的に影響を受けることになる。
液浸ArFも対象でASMLが声明も事業全体への影響は軽微
規制対象となるASMLは同日、今回の規制に対する声明を発表。「新しい輸出規制は、最先端の成膜および液浸露光装置を含む先端チップ製造技術に焦点を当てている。これらの輸出管理規制により、ASMLは先端液浸DUV露光装置(TWINSCAN NXT:2000i以降のモデル)の出荷について蘭政府に輸出許可を申請する必要が生ずる。蘭政府からは適用される条件についての詳細が提供されることになっている」と説明しているほか、「ASMLのEUV露光装置の販売は、今回の輸出規制強化以前からすでに制限されているが、官報に記載されていない露光装置(EUVや液浸DUV以外のドライArF、KrF、g線、i線露光装置)の出荷は規制されていない。ASMLは、オランダ、EU、米国の規制を含む該当する輸出規制を引き続き遵守する」ともしている。
また、今回の規制対象がTWINSCAN NXT:2000i以降の液浸システムとなるため、事業全体に対して大きな影響を与えないとの見方も出している。さらに、ASMLの長期シナリオは、ごく一部の地域的な需要ではなく、世界規模の需要と技術トレンドに基づいており、中国市場が低迷したとしても、世界規模で見ればその影響は相殺され、全体の売り上げは増加するという見解のようである。
なお、オランダの新たな輸出管理規制は2023年9月1日に発効されるが、その前から輸出許可申請の提出は可能で、政府がケースバイケースでこれらの申請を判断するという。中国企業によるオランダからの半導体製造装置輸入額は2022年秋より増加傾向にあり、中国企業による規制が強化される前の駆け込み購入が続くことが予想される。