韓国政府は6月8日、「第17回 非常経済民生会議」兼「半導体国家戦略会議」を開催し、同国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「半導体は韓国の輸出の20%、製造業設備投資の55%を占める重要産業であり、安全保障の観点からも最重要品目であるため、産学官の連携を通じて『ワンチーム』で課題を乗り越えなければならない。半導体競争は一寸先も見えない競争であり、国家の総力戦である」と強調したことを公表した。

半導体国家戦略会議では、半導体メモリ分野の競合との技術格差の維持、非メモリ・システム半導体の育成、技術人材の確保の3つの重要課題について議論された模様である。会議には政界・官界の主要人物のほか、Samsung Electronicsのキョン・ゲヒョンDS部門長(プレジデント)、SK hynixのクァク・ノジョン代表理事など半導体業界関係者や学界の専門家などおよそ60人が参加したという。

  • 緊急経済民生会議 兼 半導体国家戦略会議の様子

    第17回 緊急経済民生会議 兼 半導体国家戦略会議の様子 (出所:韓国大統領府)

メモリの技術格差維持に向け、新たに1兆4000億ウォン規模の支援を計画

半導体メモリの技術格差の維持については、演算機能をメモリ内に実装する次世代技術「PIM(Processing-in-Memory)」や、パワー半導体、先端パッケージングの研究開発を強化することを決めた模様である。同国政府はすでに、2020年から29年までの間、「次世代知能型半導体事業」として合計1兆9600億ウォンを投じる政策を進めているが、韓国勢がメモリ分野の首位の座を強固にするため、新たに1兆4000億ウォン規模の支援を行う方向で調整を進めるとしている。

一方のファウンドリを含む非メモリ・システム半導体分野の育成に向けては、韓国内のファブレス企業に対して試作品を低コストで製造できる国内体制の強化を目指すとしている。具体的には、ファウンドリを手がけるSamsungなどとの協業により、フォトマスクやウェハを複数社でシェアして半導体チップを製造する「MPW」(マルチ・プロジェクト・ウェハ)と呼ばれる方法を活用することにしたとするほか、ファブレスや国産化を目指す素材・部品・装置分野の発展支援に向けimecの韓国版ともいえる「先端半導体技術センター(ASTC)」の設立を産学官で推進することを決めたとのことで、それらの投資活性化に向け、2023年下半期に3000億ウォン規模のファンドを立ち上げるという。ASTCは日本の「先端半導体技術センター」(LSTC)に似た研究組織のようである。

官民挙げて高度人材育成に2228億ウォンを投資

人材確保については、すでに韓国政府は2023年2月、SamsungやSK hynixなどと共同で合計2228億ウォンを投じ、半導体の高度人材を10年間で2365人以上育成する計画を発表している。メモリやシステムLSI、素材・部品・装置などを専攻して修士・博士号をめざす優秀な高度人材を育成していくという。

同国の大手半導体企業と大学が協力し、大学入学時に就職先が決定され、かつ奨学金も支給される半導体専門学科である「契約学科」の設立がソウル近郊の大学だけではなく、韓国全土に展開していることから、政府としてもこの取り組みをさらに支援していくという。

韓国の代表的なメディアである中央日報は、この会議を受けた社説を掲げて、「足かせになるようなすべての規制をなくし、これまで発表してきた戦略が一刻も早く、きちんと実行されるように与野党の政界と政府が積極的に乗り出す必要がある」と訴えている。