京都大学(京大)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、フォトロンの3者は6月7日、蛍光分子の1個の感度を持ちながら、撮像速度が秒間3万フレーム(従来の1000倍)の顕微鏡用カメラ「超高速1分子カメラ」を開発したことを共同で発表した。

同成果は、京大 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の藤原敬宏特定准教授、OISTの楠見明弘教授(京大名誉教授・客員教授兼任)、フォトロンの竹内信司氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、細胞生物学に関連する分野全般を扱う学術誌「Journal of Cell Biology」に掲載された。

細胞の分子の動きを動画撮影するのに、これまでは秒間30フレームの速度で撮影されることが一般的だったが、この性能では分子の動きを捉えきれないことも多く、見逃されている現象がいくつもあると考えられている。そうした背景の下、研究チームは今回、10年の歳月をかけて超高速・超高感度を持つ超高速1分子カメラの開発に成功したとする。

これまでは、1蛍光分子感度での撮像のため、撮像速度は遅いもののノイズをあまり発生させないカメラが採用されてきたとする。それに対して研究チームは、発想を逆転。ノイズは大きいが、撮像速度がはるかに速いカメラを採用することにしたという。そして、ノイズが1分子の検出に影響を与えないように工夫したとする。

その結果、超高速1分子カメラのフレームレートは従来の1000倍となる秒間3万フレームを実現。しかも、この速度はカメラの性能限界ではなく、現存する蛍光分子が光を発する速度によって決定されているもので、さらに速く光子を発する蛍光分子を開発できれば、秒間11万フレームまでの対応が可能だとしている。

従来、細胞膜の分子たちは、細胞膜を乱雑に動き回っていると考えられてきた。しかし、超高速1分子カメラにより個々の分子の動きが見えるようになり、細胞膜が複数の区画で仕切られていることがわかってきたという。さらに、分子たちは各区画の中で激しく動き回りつつ、ときどき隣の区画にも移動するといった動きをしていることも見えてきたとのこと。またそれと同時に、細胞膜に区画があることで、各所で違う機能を持つこともわかってきたといい、このことは細胞膜の働きに重要であると考えられるとした。

  • (左)1秒間に1万コマの速度で観察した、細胞膜を作るリン脂質の1分子運動。(右)細胞膜分子運動制御の基本モデル。

    (左)1秒間に1万コマの速度で観察した、細胞膜を作るリン脂質の1分子運動。(右)細胞膜分子運動制御の基本モデル。(出所:京大iCeMSプレスリリースPDF)