愛知医科大学、慶應義塾大学(慶大)、名古屋大学(名大)、京都大学(京大)の4者は5月26日、iPS細胞から骨格筋を簡便かつ高効率に分化誘導する方法を開発し、同手法により、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の患者由来iPS細胞から骨格筋を誘導し、病態の一部を再現することに成功したことを共同で発表した。
また、電気刺激で筋収縮を示す機能的な3次元骨格筋を構築できることを見出したことも併せて発表された。
同成果は、愛知医科大 加齢医科学研究所 神経iPS細胞研究部門/医学部内科学講座(神経内科)の岡田洋平教授、同・伊藤卓治助教、同・Muhammad Irfanur Rashid大学院生を中心に、慶大 医学部、名大大学院 工学研究科、名大 医学系研究科、京大 iPS細胞研究所の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
ヒト疾患を対象とした病態解析や創薬には、患者の病態を適切に再現した疾患モデルが必要だ。患者の皮膚や血液など、患者由来の組織から作製する疾患特異的なヒトiPS細胞は、体内のあらゆる種類の細胞に分化することができる。さらに、患者の遺伝情報を保有しているため、細胞株やマウスモデルなどの既存疾患モデルよりも正確に疾患の病態を再現し、病態解析や創薬において問題となる生物種の違いに伴う問題を克服できる可能性があるという。
しかし、疾患特異的iPS細胞を用いたヒト疾患のモデル化を成功させるには、ヒトiPS細胞を迅速、効率的、かつ再現性よく目的の細胞に分化させる方法を開発することが極めて重要だ。これまで、ヒトiPS細胞から骨格筋を分化誘導するため、「ドキシサイクリン誘導型MYOD1」を導入する手法が広く用いられてきたが、時間と労力のかかるクローン選択(細胞の樹立の過程で、単一細胞に由来する同一の細胞集団からなるコロニーを選んでiPS細胞株を樹立すること)を必要としていることが課題だった。さらに、クローン間で分化効率や細胞における病気の症状にばらつきが生じるといった問題もあり、病態や薬効が隠されてしまう可能性があったという。
そこで研究チームは今回、iPS細胞にMYOD1を導入する手法を用いて、クローン選択無しでヒトiPS細胞を骨格筋へ迅速・高効率かつ安定的に分化誘導する方法を検討したとする。