Texas Instruments(TI)は米国時間の5月9日、電気自動車(EV)向けSiCゲートドライバとして「UCC5880-Q1」を発表した。これに関してのオンラインでの説明会が5月16日に行われたので、その内容をご紹介したい。
TIはEVに向けてさまざまな製品展開を行っているが、今回のUCC5880-Q1はこの中でトラクション・インバータ向けとなっている(Photo01)。
トラクション・インバータとは何ぞや? という話だが、要するにEVの走行用モータの制御を行うインバータの事である(Photo02)。
実のところEVの中で一番消費電力が多いのは当然ながら走行用モータな訳で、ここの効率化を図ればそれだけ航続距離が長くなる訳だが、実はそんなことはもう業界でも理解しており、既存のトラクション・インバータの効率は概ね90%を超えている(Photo03)。
そこでIGBTベースのトラクション・インバータをSiCベースに切り替えると、それだけスイッチング速度が高速化できる=スイッチングロスが減るため、その分効率化が図れる、というのが今回の主眼である。実際にはUCC5880-Q1+SiC MOSFETの組み合わせでは、従来製品に比べて最大2%程度の効率化が図れるとしており、これは航続距離にすると7mile(≒11.2Km)相当になるという訳だ。
UCC5880-Q1は±5Aと±15Aの2つの駆動電流出力が可能で、最大で±20A出力となる。5Aと15Aの2つがすでに発表されている絶縁型バイアス電源モジュールであるUCC141410-Q1と組み合わせて利用すると、さらに部品点数を減らせるとしている(Photo05)。
実はSiC MOSFETだけでなくIGBTの駆動も可能になっているが、IGBTを利用すると省電力化の効果が薄れるので、SiC MOSFETと組み合わせるのがメインとなるかと思う。またISO 26262 ASIL-Dまでに対応するためのドキュメントが提供される。当然AEC-Q100準拠である。
すでに評価キットとして 「UCC5880-Q1 evaluation module」が249ドルで提供されている(Photo06)他、WolfspeedのSiC MOSFETを組み合わせたトラクション・インバータのリファレンスデザインもすでに存在している(Photo07)。
UCC5880-Q1は現在サンプル出荷中で、1000個発注時の価格は1個あたり5.90ドル。量産開始時期は明らかにされていない。