東京工業大学(東工大)と弘前大学は5月12日、ペプチド(アミノ酸数50以下の分子)の自己組織化を利用して、半導体ナノシートである「二硫化モリブデン」(MoS2)の表面を分子修飾することで、高感度なナノシート・バイオセンサの開発に成功したことを発表した。
同成果は、東工大 物質理工学院 材料系の野口紘長大学院生(研究当時)、同・早水裕平准教授、同・関貴一大学院生(現・弘前大大学院 理工学研究科 助教)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。
最近、バイオセンサの検出部分にグラフェンや二硫化モリブデン(MoS2)に代表される2次元ナノ材料を用いることで、さまざまな標的分子に対する高い感度が示されている。標的分子に対して選択的な感度を持つMoS2バイオセンサの実現には、センサ表面に特定の分子を固定化する必要がある。その手法としてはこれまで大別して、(1)共有結合でMoS2表面に分子を固定化させる方法と、(2)物理吸着を用いてランダムに表面吸着させる方法の2点が考えられてきた。
しかし共有結合では、強固に分子を固定化できるが、MoS2の原子構造を変化させるため、その電子特性を損なう問題があった。一方の物理吸着では、容易に分子を固定化できるが、固定化された分子が無作為に吸着するため、分子の配向を制御し、分子の活性をどのように維持するのかが課題だった。
そこで期待されているのが、自己組織化ペプチドを分子足場として、バイオプローブをナノ材料に非共有結合で固定化する方法だという。ペプチドをMoS2表面でも活用することによって、MoS2の電子特性を活かしたバイオセンサの実現が期待できるという。
ただし、MoS2表面に安定的に薄膜構造を形成するペプチドの設計や、それらのペプチドがMoS2の電子状態に与える影響が課題となり、これらを定量的に評価し、ペプチドがMoS2バイオセンサの分子修飾方法として有効であることを検証する必要があったという。
そこで研究チームは今回、MoS2を機能化するペプチドとして、異なる電荷を持つ3種類のペプチドを設計し、単層MoS2の電気化学的なFETを利用して、ペプチドとMoS2の電気的相互作用を確認することにしたという。