早稲田大学(早大)、九州大学(九大)、長崎大学は、東アジアの3カ国(日本・中国・韓国)における過敏性腸症候群の有病率について比較研究を行い、3カ国の全体有病率が世界的な有病率よりもわずかに高く、日本や韓国よりも中国の有病率が低いことが分かったと発表した。また併せて、過敏性腸症候群サブタイプは「交替型」がいずれの国でも割合が高いことも判明したとしている。

同研究は、早大 人間科学学術院の田山淳教授、九大大学院 人間環境学研究員の木村拓也教授、長崎大 保健センターの武岡敦之氏らの研究チームによるもの。研究の詳細は4月30日にJournal of Neurogastroenterology and Motilityに掲載された。

過敏性腸症候群は、脳・腸・腸内細菌相関の異常を背景とした腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘、心理的異常を伴う複合症状であり、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の大幅な低下を引き起こす。

なお、成人における世界の過敏性腸症候群有病率は約9%である一方、居住地域により有病率に差異があることが報告されていた。また、これまでの多くの研究で「女性」や「若年」において過敏性腸症候群のリスクが高いことが示されていたという。

  • 過敏性腸症候群は、脳・腸・腸内細菌が相関し、ストレス・病気・行動・食事の要因に加え、遺伝子変異・感染・腸内フローラ・免疫活性化の生物学的要因が影響を与えていると考えられている。

    過敏性腸症候群は、脳・腸・腸内細菌が相関し、ストレス・病気・行動・食事の要因に加え、遺伝子変異・感染・腸内フローラ・免疫活性化の生物学的要因が影響を与えていると考えられている。(出所:早大)

研究チームによると、アジアは多環境、多民族、多文化であるため、単一の存在として評価することはできず、アジア内で類似した特徴を持つ別々の小地域での過敏性腸症候群の調査が必要と考えられたとする。そのため今回の研究では、東アジア3カ国の都市を対象に、性別・年齢について割当法を用いたサンプリングにより調整した上で過敏性腸症候群の有病率をインターネットで調査し、3カ国間の過敏性腸症候群の特徴を比較することを目的としたという。

その結果、過敏性腸症候群の有病率は、全体で13%であり、日本15%、中国6%、韓国16%だったとのこと。また、過敏性腸症候群サブタイプの交替型(下痢と便秘を繰り返す型)がいずれの国でも割合が高く、2番目に多いサブタイプは、日本では下痢型、中国では便秘型、韓国では分類不能型であったという。性差については、過敏性腸症候群の有病率と過敏性腸症候群-下痢型の有病率は、男性で高いことが示され、年齢に関しても「40歳代」が最も高く、先行研究とは異なる結果になったという。

  • 過敏性腸症候群サブタイプの割合。D-IBS(下痢型)、C-IBS(便秘型)、M-IBS(交替型)、U-IBS(分類不能型)

    過敏性腸症候群サブタイプの割合。項目はそれぞれD-IBS(下痢型)、C-IBS(便秘型)、M-IBS(交替型)、U-IBS(分類不能型)。(出所:早大)

研究チームはこの結果から、東アジアという文化圏において、さまざまな食文化や行動様式の差異が有病率の差異を生じさせている可能性があるとし、先行研究とは異なり壮年・男性で有病率が高い点について今後注目したいとしている。また、過敏性腸症候群の有病率の地域的不均質性の要因を解明するためには、さらなる研究が必要であるとし、特にストレス・病気・行動・食事などの要因に加えて、遺伝子変異・感染・腸内フローラ・免疫活性化の生物学的要因が有病率に与える影響についての研究が必要だとした。

これまで過敏性腸症候群の主な原因としては、ストレスの関与が示唆されていたものの、近年の各国の消化器学会は、過敏性腸症候群の主因が「腸内フローラの変異」であることを発表している。今回の研究は、腸内細菌と有病率の関係を論じるものではなかったが、消化器症状、食事、運動、心理の変化と腸内細菌の変化が関与していることはすでに知られている。消化器症状、食、運動、心理と腸内細菌の関連を紐解くことが過敏性腸症候群の症状マネジメントに寄与するはずだとしている。