産業技術総合研究所(産総研)と東京大学(東大)は3月22日、東大本郷キャンパス(東京都文京区)で「AIチップ開発を加速する共通基盤技術開発」最終成果報告会を開催した。

この報告会は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2018年度から2021年度までの4年間にわたって実施した「AIチップ開発加速のためのイノベーション推進事業」の中で、産総研と東大に研究開発委託した「AIチップ開発を加速する共通基盤技術の開発」の成果を報告し、国内のAIベンチャー企業・中小企業などの想定事業者に、東大と産総研内に整備したAIチップ開発を実施する場を、活用することを促すために開催。こうしたAIチップ開発を実施する場を、2023年4月以降に有料で開放することによって「日本のAIチップ事業を進めるベンチャー企業・中小企業などが事業成果を上げる場として利用してほしい」と伝えた。

同共通基盤技術の開発責任者である産総研の内山邦男研究開発責任者は「日本にはAIチップを核とした新しいビジネス・事業を目指すベンチャー企業が出現し始めているが、AIチップ設計には、高価なEDA(Electronic Design Automation)ツールやIP、エミュレーターなどの検証装置が不可欠になるが、これらの装置・環境を自社で持つことは資金面などで実現が難しく、事業化のハードルになっている」と解説する。このため、産総研と東大は「AIチップ開発に不可欠な共通基盤技術と機器などの環境を適正な有料で提供し、日本でのAIチップを核とした新規事業を支援し、産業化を促進させる」と説明した(図1)。

  • 日本のベンチャー企業・中小企業がAIチップを開発・事業化する支援スキーム

    図1 日本のベンチャー企業・中小企業がAIチップを開発・事業化する支援スキーム (NEDO資料から)

NEDOによると、「これから訪れる超スマート社会(Society 5.0)では自動車の自動運転向け、次世代ヘルスケア向け、次世代サプライチェーン、農業や漁業のスマート化などを実現するAIチップが多数、不可欠になる」と予測する。

産総研は「こうした近未来のAIチップを研究開発し、事業化するベンチャー企業や中小企業の研究開発と事業化を、東大と産総研内に整備したAIチップ開発拠点が強力に支援する」とアピールする。産総研と東大は「AIチップ開発に不可欠な共通基盤技術と機器として、例えばCadence Design Systemsの論理エミュレータ『Palladium Z1』を導入するなど、利用環境を整えている」と伝える。「このエミュレータでは、容量は23億ゲート、4.6TBのユーザーメモリと4.6TBのデバッグメモリを持ち、ソフトウェア・シュミレーションに対して、3700~1万4500倍の高速化を実現した実績を持つ」と説明する。

また、開発したAIチップの製造は「台湾のTSMCの28nmプロセス(AI-One)かFenFETを利用する12nmプロセス(AI-Two)のプラットフォームで生産する見通し・計画」とアピール、製造に問題はないと力説する。

NEDOの委託事業が2023年3月に終了した後は、産総研の共用施設(AIチップ設計拠点、通称:AIチップデザインセンター、略称:AIDC)として産総研・東大という形で運用する計画だ。この際には、東大のd.lab(東大大学院 工学研究科附属 システムデザイン研究センター)と連携する見通しだ。

産総研・東大は「2023年4月1日から、同拠点の本格運用を開始する」としており、「拠点では、利用者の計画に応じてフレキシブルに構築できる半導体設計環境や、AIチップ向けIPの設計・評価プラットフォームなどの利用を始める」という。なお、利用ルールは、Webサイトに公表する見通しだ。