日本マイクロソフトは3月16日、AIやML(機械学習)をビジネスや業務改善に取り入れた企業の事例を紹介するユーザー向けイベント「Azure AI Day 2023 ~最先端AIテクノロジーのこれからと今~」を開催した。

同日には、マイクロソフトのAIに対するアプローチやAI関連の最新情報を紹介するメディア向けのオンライン説明会が開かれた。

説明会では、2023年3月10日に「ChatGPT」のプレビュー版の提供が開始したAzure OpenAI Serviceにおいて、OpenAIが提供する最新のLLM(大規模言語モデル)である「GPT-4」が実装される予定だと発表された。

  • ChatGPTに続いて、GPT-4がAzure OpenAI Serviceに実装される

    ChatGPTに続いて、GPT-4がAzure OpenAI Serviceに実装される

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パナソニックコネクトやnoteなど200以上の企業がAIを活用

Azure OpenAI Serviceは、OpenAIが提供するGPT-3、Codex、DALL・E、ChatGPTをMicrosoft Azureのマネージドサービスとして利用できるサービスだ。

Azure OpenAI Serviceを活用できる領域は、「コンテンツ生成」「要約と分類」「セマンティック検索」「コード生成」の4つに大きく分けられる。

  • Azure OpenAI Serviceのユースケース

    Azure OpenAI Serviceのユースケース

同サービスは現在、グローバルで200以上の企業・組織が利用しているという。説明会では、同サービスの活用事例が紹介された。

米Carmaxはカスタマーレビューのデータを基に、Webサイトで販売している車の概要をまとめたサマリーを生成した。同作業を人手のみで行った場合、11年の期間がかかる見通しだったが、わずか数日でサマリーの作成を完了できたそうだ。

また、英EY(アーンスト・アンド・ヤング)では、新規の契約や監査に関連した書類データの検索を自動化することで、従来に比べて作業時間を25万時間も削減できたという。

国内ではパナソニックコネクトがAzure OpenAI Serviceを利用して、AIアシスタントサービス「ConnectGPT」を開発し、国内の1万2500人の社員に対して提供開始した。同社では社内イントラネット上から同サービスにアクセスして、AIにさまざまな質問が可能だ。

このほか、クリエイター向けのコンテンツ発信プラットフォームを提供するnoteでは、タイトルの提案や文章のレビューなど、創作を支援する機能の開発にAzure OpenAI Serviceを利用している。

日本マイクロソフト Global Black Belt , Asia AI/ML Specialistの棚橋信勝氏は、「OpenAIのAIモデルをAzure上で利用できることのメリットは、Azureで管理する顧客データやアプリケーションとシームレスに統合できる点にある。また、エンタープライズにとっては、AzureADやプライベートネットワークを用いることでセキュアにAIを利用することが可能だ」と説明した。

  • 日本マイクロソフト Global Black Belt , Asia AI/ML Specialist 棚橋信勝氏

    日本マイクロソフト Global Black Belt , Asia AI/ML Specialist 棚橋信勝氏

6つの原則に基づいて「責任あるAI」の実現を目指す

米マイクロソフト 会長兼 CEO(最高経営責任者)のサティア・ナデラ氏は2023年1月に、すべての製品・ソリューションにAIを組み込んでいく旨を宣言した。

その後、OpenAIとのパートナーシップ拡大が発表され、同年2月にはAIを搭載したBingおよびEdgeのプレビュー公開や、同機能のモバイルアプリとSkypeへの対応など、続々とAI関連の発表が続いた。

マイクロソフトのAIに対するコミットメントについて、日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏は、「ここまでの取り組みは、すべての個人と組織がより多くのことを達成できるようにするためのものだ。当社ではAIが人々や社会、産業に貢献すると確信している。テクノロジーと人々を結び付けて、AIの可能性を実現することに責任をもってコミットしていく」と語った。

  • 日本マイクロソフト 代表取締役社長 津坂美樹氏

    日本マイクロソフト 代表取締役社長 津坂美樹氏

津坂氏によれば、マイクロソフトは3つの原則に基づいて、AIの開発や製品実装を進めているという。

1つ目が「有意義なイノベーション」だ。マイクロソフトは社会や顧客の課題にどのように役立つかを重視して、さまざまな業界の企業と協力しながら現実に役立つAIの開発を進める。

2つ目が「人と組織のエンパワーメント」で、Windows OSや業務で利用する各種ソリューションに限らず、Xboxのようなコンシューマー向け製品にまでAIを実装していく方針だ。

3つ目が「責任あるAI」だ。マイクロソフトは責任あるAIの実現のために「6つの原則」を定め、各原則に基づいたガイドラインに沿って設計から開発、製品提供を進めている。

  • 「責任あるAI」のための6原則

    「責任あるAI」のための6原則

Microsoft Cloud上の顧客データは、AIのファインチューニングに利用されない

説明会では、マイクロソフトとOpenAIとの協業体制についても紹介された。両社は2019年から段階的にパートナーシップを拡大。マイクロソフトは、GPT-3をはじめとしたAIを同社製品に盛り込むことを前提としてOpenAIに投資している。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「このほか、新しい自然言語処理モデルのアルゴリズム開発を共同で進め、開発に必要となるコンピューティングリソースをMicrosoft Cloudを通じて提供している。エンドユーザーはMicrosoft CloudとAIを組み合わせることで、ビジネス変革を推進することが可能だ」と述べた。

  • 日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 岡嵜禎氏

    日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 岡嵜禎氏

Microsoft Cloudでは、すでにGitHub、Azure OpenAI Service、Power BI、Power Platform、Microsoft Dynamics 365など、複数のアプリケーションでAIを活用した機能が利用できる。

GitHub Copilotは、AIをコーディングをサポートする機能で、プロジェクト文脈に沿ってコードを自動生成することが可能だ。なお、コードの著作権侵害を回避するために、最初の150文字が完全一致するコードは除外する機能を実装したという。

Power BIでは、SQLなどのクエリを用いずに、AIとの対話を通じて分析レポートを自動生成できる。レポートから得られるインサイトをAIが要約することも可能だ。

Microsoft Dynamics 365では、CRM(顧客関係管理)やERP(企業資源計画)システムにAIアシスタント「Dynamics 365 Copilot」が搭載された。同機能を利用して、営業やマーケティング、カスタマーサービスなどの担当者のメール作成やコンテンツアイデアの生成、顧客対応マニュアルの作成などを自動化することが可能だ。

  • Microsoft Cloudでは複数のアプリケーションでAIの実装が進む

    Microsoft Cloudでは複数のアプリケーションでAIの実装が進む

一方、企業内でのAI利用にあたっては、データや個人情報の保護などのセキュリティ面が懸念されている。

この点について、日本マイクロソフト Azureビジネス本部 GTMマネージャーの小田健太郎氏は、「Microsoft Cloudのアプリケーションで扱われるデータは、当社のコンプライアンスとセキュリティによって保護されている。加えて、お客さまの保有するデータはAIモデルのファインチューニングには利用されないため、安心してAIを活用してほしい」と強調した。

  • 日本マイクロソフト Azureビジネス本部 GTMマネージャー 小田健太郎氏

    日本マイクロソフト Azureビジネス本部 GTMマネージャー 小田健太郎氏

また、前述の6つの原則を徹底するために、マイクロソフトではルールの標準化や社内啓もう、トレーニングを実施するほか、顧客への導入までのプロセスをベストプラクティスにまとめて、社内で共有しているという。