自動車のサイズは比較的大きいため、すぐには分からないかも知れませんが、一般的に車両内でテクノロジソリューションに利用できる空間は非常に狭く、窮屈です。主な理由は、利用可能な空間の大半が乗客のためのスペース(キャビン)に割り振られ、電子システムは邪魔にならない場所に押し込まれているためです。
これは理屈にはかなっていますが、多くの車載アプリケーションでは使用する電力レベルが高いため、ソリューションの冷却が困難になります。そのため、業界では冷却の改善方法を模索し続けており、それが見つかれば自動車メーカーや自動車ユーザーに多大な利益をもたらします。
本稿では、オンセミが半導体パッケージレベルでの技術革新により、どのように最新の車載アプリケーションにおける熱管理の改善に、大きな進歩をもたらしているかを紹介します。
車両が電気推進に移行し、以前は機械式または油圧式であった多くのシステムが電気アクチュエータに置き換えられるに従って、最新の車両における高出力変換量が大幅に増加しています。主に車両の航続距離を延ばすために、これらの新しい電気システムの全体的な効率を向上させようとして、多大な努力と多額の予算が費やされています。
しかし、システム設計者にとっては、効率が上がれば廃熱の発生が大幅に減少するという別の利点もあります。このことは、熱管理の観点からすると、ヒートシンクなどの冷却手段を縮小するか完全になくすことによって、ソリューションのサイズ、重量、コストを削減できることを意味します。
実際、電力エンジニアなら誰でも分かることですが、熱を除去する最良の方法は、そもそも熱を発生させないことです。次に良い方法は、廃棄エネルギーができるだけ直接外気に触れるようにすることです。
シリコンカーバイド(SiC)などのワイドバンドギャップ技術によって、効率は大幅に向上しましたが、エネルギー損失がまったく発生しないパワーデバイスは存在しません(おそらく今後もないでしょう)。
半導体冷却に関する従来の取り組み
電力アプリケーションでは、金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)は、SO8FL、μ8FL、LFPAKパッケージタイプなどの表面実装デバイス(SMD)になる傾向があります。SMDは、優れた電力供給能力、自動配置やはんだ付けの利便性、コンパクトソリューションの実現などから、広く支持される技術となっています。ただし、SMDデバイスの熱放散は、熱伝播経路が一般にプリント回路基板(PCB)を通過するため理想的ではありません。
従来のコンポーネントでは、リードフレームは露出したドレインパッドを含めて、PCB上の銅フットプリントに直接はんだ付けされ、ダイからPCBへの電気的接続と熱経路を提供します。デバイスの残りの部分はモールドコンパウンドで囲まれ、周囲空気との対流を通じてのみ冷却されるため、これがPCBとの唯一の直接的なガルバニー熱接続です。
この方法では、デバイスからの熱伝達効率は、銅(Cu)プレーンサイズ、Cu層、Cu重量、CuレイアウトなどのPCB特性に大きく依存します。これはボードがヒートシンクに取り付けられているか否かに関係なく当てはまります。PCBの熱伝導率が低く、放熱が妨げられるため、デバイスの最大電力出力が制限されます。
トップサイド冷却(Top Cool)のコンセプト
この問題に対処するために、オンセミはパッケージ上面にリードフレーム(ドレイン)を露出させる新しいMOSFETパッケージを開発しました。この方法は、アプリケーションのレイアウト/スペースと熱伝導の両方でメリットがあります。
パワーMOSFETの冷却は、従来の方法でも十分コンパクトなソリューションを実現できますが、ヒートシンク用にPCBの下側には何も実装しないでおきます。この場合、必要なコンポーネントをすべて取り付けるため、通常大きなPCBが必要です。
Top Coolデバイスは熱経路が上方にあるため、ヒートシンクをMOSFETの上に配置し、パワーデバイスやゲートドライバなどのコンポーネントを下側に配置できるため、より小形のPCBを使用できます。また、よりコンパクトなレイアウトにすることで、ゲートドライブのトレースを短くでき、高周波動作時のメリットも期待できます。
さらに、熱がPCBを通過する必要がなくなるため、PCB自体が冷却されたままになり、MOSFET周囲のコンポーネントは低い温度で動作するので信頼性が向上します。
Top Coolデバイスのレイアウト上の利点に加え、このパッケージはデバイスのリードフレームに直接ヒートシンクできるため、大きな熱的利点もあります。最も多く使用されるヒートシンクは、熱伝導率が高い(通常100~210W/mk)ためアルミニウムです。アルミニウムや同様の金属では、従来のPCBを介したヒートシンクと比較して熱抵抗が大幅に減少するため、熱応答が向上します。
熱伝導率の向上に加え、ヒートシンクの熱容量が大きくなって飽和を回避できるため、アプリケーションのニーズに応じて上面に取り付けられたヒートシンクのサイズを変更でき、より長い熱時定数を提供します。
Top Coolパッケージは、熱容量が大きいヒートシンクに直接取り付けられる利点があるので、より優れた熱応答(ワットあたりの温度上昇として測定)が得られます。熱応答を高めることで、所定のジャンクション温度の上昇に対して、より高い電力動作が可能になります。
最終的に、同じMOSFETダイをTop Coolパッケージに収納した場合、同じダイを標準的なSMDパッケージに配置した場合よりも高い電流および電力能力が得られます。
Top Cool NチャネルMOSFETの新たなラインナップ
オンセミは、5mm×7mmのLFPAK 5x7パッケージに収納した各種Top Coolデバイスを開発しました。「TCPAK57」という名称の新しいTop Coolパッケージは、上面に16.5mm2のサーマルパッドを備え、ヒートシンクに直接放熱できるようになっています。
TCPAK57デバイスは内部にソースおよびドレイン接続用の銅製クリップを備えています。これでワイヤボンドを置き換えて、最小の抵抗で大電流を流すことができ、かつ上面パッドへの効果的な熱接続も可能です。新しいデバイスは、RDS(ON)値が1mΩと低く、高電力アプケーションに要求される電気効率を提供します。
このソリューションは、オンセミのパッケージングに関する深い専門知識を活かして、業界最高レベルの電力密度ソリューションを提供します。TCPAK57の初期ポートフォリオには、40V、60V、80Vの定格を持つ合計7個のデバイスが含まれています。すべてのデバイスは、175℃のジャンクション温度(Tj)で動作でき、AEC-Q101認定済みでPPAPに対応しています。また、はんだ接合部の検査が可能なガルウィングを採用し、ボードレベルでの信頼性にも優れているため、要求の厳しい車載用途に最適です。ターゲットアプリケーションは、電動パワーステアリングやオイルポンプなどの高/中出力のモータ制御です。
Top Cool TCPAK57デバイスは、新しい設計の電力密度向上および信頼性向上により、システム全体の寿命を延長させます。
まとめ
電力設計における熱の管理は、自動車業界に存在する困難な設計目標を達成するための基本です。従来、MOSFETなどのディスクリートパワーデバイスの冷却は、PCBを介してヒートシンクに熱エネルギーを渡していました。ただし、これは理想的な熱経路ではないため、デバイス性能を十分に発揮できなかったのです。
しかし、新しいパッケージスタイルでは、サーマルパッドを上面に移動し、ヒートシンクを直接デバイスに接着できるようになっています。これにより、MOSFETの冷却が改善されるだけでなく、PCBの下側をコンポーネントの配置に使用できるため、自動車などの要求が厳しいアプリケーションでの電力密度が向上します。
著者プロフィール
Carlos Ramirez Ramosonsemi
Product Line Director
Automotive Power Discretes